講談の世界を描いたマンガ『ひらばのひと』(著・久世番子/講談監修・神田伯山)のレビューがきっかけで、希代の講談師・六代目神田伯山にすっかり魅了された一人として言いたい。
講談をもっと深く味わいたいなら、神田伯山をもっと知りたいなら、絶対に読んでおくべき本です!!
【186段の石段を馬で上る!?】
浅草演芸ホールで初めて聴いた伯山先生の講談は、『出世の春駒』でした。
正直、興奮しました!! 講談ってこんなに面白いのか!!と。
『出世の春駒』は、愛宕神社の急勾配の石段186段(※)を馬で上り、梅の花をとってこいという三代将軍・徳川家光公の難題を駄馬に乗った家臣が挑んで、日本一の馬術の名人として讃えられたというお話。
私はたまたま愛宕神社(港区)に行ったことがあったので、あの石段を馬で上るなんて無茶だ、と想像することができました。この見たことがあるか、ないかの差は大きい。
この本では、講談の舞台やゆかりのある場所が色々と紹介されていて、交通アクセスも載っています。
※講談では186段ですが実際の愛宕神社の男坂は86段です。
【講談師、見てきたようなウソをつき】
ともすれば、講談に出てくるのは作り話なのではないかと思ってしまいます。
特に子供のころテレビで見た盲目の渡世人「座頭市」や、浅草名画座で観た高倉健や藤純子の任侠映画のような世界は、今の時代とはまったく異なるので。
だから、講談に出てくる侠客(きょうかく)ものも作り話なのではないかと思ってしまいますが、さにあらず!!
「落語は基本的に架空のフィクションですが、講談は元ネタのあるフィクションなのです」。
『天保水滸伝』に出てくる侠客たちも、実在する人物だと知り驚きました。
YouTubeチャンネル『神田伯山ティービィー』では、「天保水滸伝遺品館」を伯山先生が訪れたときの様子が見られて面白いです。
この『講談放浪記』と合わせて見ると、より登場人物を身近に感じることができます。
伯山先生の師匠である人間国宝・神田松鯉(しょうり)先生との対談でも、松鯉先生がこんなことを言っています。
「講談師、見てきたようなウソをつき」ではなく、「講談師、見てきた上でウソをつき」だと。自分の目で確かめた上であれば、真実味を帯びてくると。
伯山先生の渾身の迫力ある講談も、こうして創られたのですね。
【いつかは講釈場をという強い思い】
『天保水滸伝』の中のひとつ、「ボロ忠売り出し」を伯山先生が寄席で主任(最後のトリのこと)のときに、見ることができました。
個人的には伯山先生のお茶目な声色が好きなので、またしても大興奮!!
最初から話に引き込まれ、45分があっという間でした。
「日本一チケットのとれない講談師」というのは私自身も経験していますが、寄席であればまだ見ることができます。
そして驚くのは、こんなに売れっ子なのに寄席には本当によく出ているということ。
はっきり言って出演料(ワリという)はかなり安く、本当にワリに合わないらしいのですが、それでも出続ける理由が書いてありました。
「講談界が講釈場を失った要因のひとつに、人気の出た講談師が講釈場に出なくなってしまったから、ということがあります。(中略)講釈場を大事にせず、金儲けのお座敷にばかり行ってしまう」ということがあり、その歴史を知っているからこそ、寄席を大事にしているというのです。
カッコいい!! そして安定の“猫背”も愛おしい!!
【あとがきにリアルな!? 神田伯山】
私もラジオ番組『問わず語りの神田伯山』を聴いている、伯山先生曰く“どこにでもいる問わず語りリスナー”なので、『講談放浪記』の裏話は知っていたのですが、「あとがき」を読んで笑ってしまいました。
ここにも“本音”が溢れていて、さすが期待を裏切らない男です!!
ほかにも、怪談を語るテクニックや、『中村仲蔵』『淀五郎』をなぜ激しい読み口にしているのか、どこまでなら崩していいのかなど、私が知りたかったことを知ることができました。
やはり講談ファンなら、神田伯山ファンなら、絶対に読んでおくべき本だと思います!!
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp