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2023.08.01

レビュー

外国人ドライバー「ローマン」が岡山県の道路で「日本やばい」と驚愕したワケ

前略、道の上から

Q.外国人ドライバーのローマンさんって誰ですか?

A.ローマンさんは日本人と結婚し、岡山に移り住んで6年になるYouTuberです。バイクが好きで(愛車は パワフルなエンジンを積んだSUZUKIのGSX-S1000。きっと加速重視派ですね)、ヘルメットにアクションカメラを取り付け(GoProではなく、ソニー製が彼のこだわり)、ツーリング中に遭遇した珍事件を動画にまとめて発信しています。



その登録者数44.1万人の人気チャンネル「スルー・ガイジン・アイズ」の動画を、漫画にしたのが本書です。動画は1本5~10分で、たくさんのネタ・事件が詰まっているので、この漫画はそのベスト・セレクションって感じです。

Q.珍事件ってなんですか?

名古屋走り、茨城ダッシュ、阿波の黄走りに伊予の早曲がりって、ご存じですか? リトルリーグの練習メニューの名前じゃないですよ。これ全部「ローカル・ルール」という名の道路交通法違反なんです。信号無視、車線跨ぎや強引な割り込みを行う「名古屋走り」。交差点で右折するとき、信号が青になると直進する対向車よりも早く右折する「茨城ダッシュ」。人が死ぬ危険運転に「茨城ダッシュ」とか遊びのような名前がついていることが驚きです。
そして2022年に10万人あたりの交通事故者数が全国で一番多かった岡山県(3.94人)には、「岡山ルール」というローカル・ルールがあります。それはウインカーを出さずに(もしくは直前に1回だけ出して)車線変更や右左折する運転のこと、にわかには信じがたいですが、実際、他県の人間にはわからないこんな道路表示があります。

そんな岡山ルールをはじめ、路上駐車、スピードオーバー、珍走団、信号無視にタバコのポイ捨てなど、ローマンさんがツーリング中(広島、姫路、大阪なども含む)に「アレはなに?」と引っかかったものを動画にしています。ローマンさんは、そういうマナーの悪いドライバーを「ならず者」、マナーや交通法規を守る人を「従順なドライバー」と呼びます。

Q.ローマンさんは「交通法規を守ろう」という活動をしているんですね?

う~ん、微妙に違いますね。ローマンさんはこの本にこんな一文を寄せています。

私は日本人の運転マナーを批判するために動画を撮っているわけではありません。日本を愛していますが、日本を美化するコンテンツがすでにたくさんあったので、同じようなものは作れないと思ったのです。
この漫画を読んでくれた少しでも多くの人が、もっと素敵なドライバーになり、運転へのストレスが減ることになれば、とても嬉しいです。そして、それが長年お世話になった素晴らしい国、日本に対して、私ができる少しばかりの恩返しです。

ローマンさんは、路上で見つけた「!(びっくり)」を、スルー・ガイジン・アイズ(ガイジンの目を通して)紹介しているだけです。だからならず者のドライバーも、ゴミの不法投棄も、カラフルな帽子を被ってお出かけする園児たちも、ハザードランプで「ありがとう」を伝えるドライバーの慣習も、ビルの中を突き抜ける大阪の道路も、等しく「!」なのです。テレビでよく見る外国人タレントのように、日本を褒めそやすことも、説教することもなく、ただ路上観察して届けているだけなのです。

ちなみにローマンさんの存在を知って、たくさんの広告案件や「うちの事務所に所属しませんか?」といった話が舞い込むようになったそうですが、「それは違うのね」とすべてを断り、妻を呆れさせているそうです。そんなローマンさんを、私はとても好ましく思うし、44.4万人のチャンネル登録者もそうなんじゃないでしょうか(ローマンさんの意志とぴったりあう広告主さんが現れますように!)。

頭を掻(か)いている場合じゃないよ、従順になろう!

「ならず者」「みんあ(みんな)」「ハイビームでピュイーンピュイーンした」「ウィンウィンウィン(珍走団)」「電車(渋滞)」これ全部、ローマンさんの言葉。つたない日本語だけど、ローマンさんの目を通して伝えられる日本の姿は、いいものも悪いものもひっくるめて、ありのまま。日本人は「てへへ」と頭を掻(か)くしかない。ポリポリ。

また同時に日本人は、こうしたスルー・ガイジン・アイズを過剰に意識しながら、そのガイジンを自分たちと異なるものとして位置付けしたがる。そうしたことも、ローマンさんはしっかりと理解している(動画「外人であって外国人ではない理由」より)。自らを「外国人」ではなく「ガイジン」とするのも、(そもそも上から物申す人じゃないけど)自分の言葉を下からの意見だとすることで、受け止めてもらえると考えたから。日本人は英語を教えたり、日本を褒めたりする外国人的役割以外に外国人に価値を感じていない(もっと言えば根本で信頼もしていない)ことをローマンさんは感じている。それでも日本は美しいし、面白いし、愛しているからこそ、ローマンさんはあえて「ガイジン」の役割を引き受け、路上で見つけた「!」を伝えている。

さらに頭を掻くしかない。それじゃダメだよね、マジで。

そしてこの動画、こんな鋭い話をしながら、バイクはどんどん山奥に分け入って、ついには道に迷うという、およそ笑いの神が降りた展開を見せるのだからたまらない。ローマンさん、サイコーです。

みんなが「素敵なドライバーになり、運転へのストレスが減ることになれば、とても嬉しい」というローマンさん。これは別に車のドライバーだけに向けられたものではありません。スクーター、自転車、歩行者……のみんなが「!」なんです。





みんな、道の上では従順になろう。ならず者はよくないよ。

レビュアー

嶋津善之 イメージ
嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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