これが知りたかった! 「ナッペ」と「絞り」のすべてが学べる神テキスト
目的地近辺に来ると案内が終わるカーナビのように、「この先が知りたいのに!」という部分がよくわからないものってありますよね。「デコレーションケーキのレシピ」もそう。私たちが作りたいのは、こんな風に美しいケーキですが……。
デコレーションの工程は、「スポンジをスライスし、生クリームを塗ってフルーツを飾る」と、サラッと締めくくられてしまいがち。見た目が美しく、口当たりもよいケーキに仕上げるには、必要な手順やテクニックがもっとあるはずなのに!
『ケーキデコレーションの教科書 ナッペと絞りの無限アレンジ』は、ケーキデコレーションの疑問をすべて解決してくれる1冊です。「サンドもナッペ(塗り)もデコレーションも、生クリームは全部同じ立て方でいいの?」「脂肪分何%の生クリームを選べばいい?」「ケーキのトップと側面、クリームはどこから塗り始めるべき?」「そもそも、本当に必要な生クリームの量は?」「表面を滑らかに仕上げ、ケーキの表面に跡を残さないパレットの離し方は?」「どの口金でクリームを絞ればいい?」
……こんな疑問を解決してくれるのは「伝説のナッペ職人」と呼ばれた西岡詩織先生。デコレーションケーキのための「ナッペ」と「絞り」に特化した製菓教室と、そのプロを育成する「ガトーマイスター協会」を主宰されています。
この本に掲載されたケーキデコレーションは55パターン。定番ケーキはもちろん、絞りと配置のアレンジや、
スクエア、ロール、ボウルケーキといった変形ケーキまで、さまざまなテイストのケーキデコレーションが満載です。
さらに、口金の絞りパターンや飾りパーツを応用すれば作れるケーキは無限大……!
西岡先生が、自身の失敗から生み出した秘伝のコツ、成功のためのゆるぎないポイントをコマ送り写真と動画で惜しみなく伝授してくれる、まさに「神テキスト」です!
あいまいな部分をなくしてくれる
はじめに、ケーキデコレーションの工程と、各工程の言葉の意味を押さえましょう。
本書のタイトルにもある「ナッペ」は、ケーキの表面にクリームを塗って整える作業を指します。早速、私の知るどのレシピにも書かれていなかったポイントを見つけました。
ナッペは基本的に2回行います。
ちょっと驚きませんか? この本のすべての工程には「美しいケーキのため」のロジカルな理由があります。例えばこちらはツール類の選び方。
「こだわって選びたい」から「あると便利」まで、ツール選びのポイントを教えてくれます。なぜ、ボウルはその形で、パレットはその長さなのか……。のちのデコレーション工程を見れば、その理由がわかるはず。
姿勢にまで言及してくれる製菓本は、私は見たことがありません。何度かケーキデコレーションに挑戦した経験を持つ人も、この本の中に「以前の失敗の理由」を見つけることもありそうです。製菓の作業はとても繊細なもの。仕上がりを確かに左右するのに、あまり語られることのない、こんな「あいまいな部分」をなくすのは、上達への近道だと感じました。
コマ送りで学べる「目からうろこ」のコツ
Chapter1は、丸口金で作る「しずく絞りのケーキ」のデコレーションを通じて、生クリームやツール類の扱い方を学びます。
ここで、大まかな作業の流れと、このケーキで学べるコツを把握できます。
最初に1ページで作業の流れを頭に入れられるのは、初心者にはうれしいポイントです。各工程の手順はさらに詳細なコマ送り写真で確認できるうえ、このケーキは動画でも作り方が解説されています。
パレットの動かし方、回転台を回す速度や向き、シロップを刷毛に含める量……。静止画もわかりやすいけれど、動画で見るとさらに「そういうことか!」と目から鱗が落ちる瞬間も。本文に記載のある「軽やかでおいしいケーキのための生クリームの適量」も、動画で「生クリームをすくって乗せる適量」「パレットで伸ばすときの力加減」を見ればすぐ理解できました。わからないところは何度も繰り返し見られるのも、動画の強みです。
まるでペン字練習帳! 5種類のクリームと5つの口金で無限のアレンジを学ぶ
基本の丸口金アレンジを覚えたら、配置を変えて様々なアレンジのケーキを作ってみたくなります。
基本の丸口金と生クリームだけでもこのバリエーションです。さらにガナッシュを加えたクリーム、抹茶パウダーを加えたクリーム、クリームの多色使いなど、クリームごとの扱いの違いを学んでいけます。口金についても、丸口金に加え、花びらを本物そっくりに作れるバラ口金、クラシカルな星口金、人気のサントノーレ口金、アレンジしやすい片目口金の扱い方もマスターできます。星口金を使った「絞り」のポイントを見てみましょう。
「力を入れるところ」「力を入れて引っ張る」「力を抜きながら引っ張る」といった手の動かし方のポイントや動かす方向が矢印で示され、簡単にテキストと同じ絞りが再現できる様子は、まるでペン字練習帳のよう。「ケーキの上に絞る個数は?」「絞り終わりの引っ張る部分のコツは?」といった、「いざやってみると疑問に思うところ」も、余すところなく解説されていて、そのまま真似すればバランスよく、美しいケーキになるのがうれしい!
西岡先生ご自身の失敗から生まれたテクニックと指導は、できない人の立場に立ってくれていて、優しく、わかりやすいです。ケーキデコレーションはもちろん、カット方法、ホールケーキの移動方法まで、リアルな製菓教室と同じか、もしかしたらそれ以上に「ああ、これが知りたかった」が凝縮されていると感じました。ケーキデコレーションの「わからない」「苦手」が消えていくこの本を、ぜひ手に取ってみてほしいです。
レビュアー
ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
twitter:@752019