著作の累計発行部数は180万部を誇り、フジテレビ『とくダネ!』などメディア出演も多いビジネス書作家、木暮太一さん。ベストセラー『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社新書)から10年を経て、講談社+α新書から『その働き方、あと何年できますか?』が刊行される。完全に行き詰まった状況にある日本の労働環境において、心豊かに働くことは可能なのか? そのヒントとは? 本書のさらに深い部分を、担当編集の呉清美が聞く。
働き方改革、生産性向上、ゴールはそこでいいのか?
呉 ベストセラーとなった前作から10年、今回の作品を書かれるにあたって、どのような変化があったのでしょうか?
木暮 前作の論点は、自分が置かれている環境のルールを明らかにすることでした。給料を上げたいのに、給料が決まる構造がわからないから、頑張っているのに結果が出ない。正しく頑張りましょうと提案しました。でも今回の論点はそれ以前の問題で、頑張って進んではいるけれど、進む方向をちゃんと見直したほうがいいのでは? という話です。働き方改革とか生産性向上とかいろいろ言われて、働き方に目が向いてはいますが、そもそも僕らがたどり着こうとしているゴールってそこでいいの? というところから、今回の企画はスタートしています。
呉 労働環境の変化については、どうお考えでしょうか?
木暮 実は、そこはあまり変わっていないと僕は思っていて。「会社にいる時間を減らせ」とは言われても、ただ残業分を家に持ち帰っている人たちはすごく多いし、効率という言葉だけが先走って実際は何も変わっていない。コロナ禍でいろんなものがガラッと変わり、全体的に今までのやり方が通用しなくなり、各社・各業界、全体的に閉塞感が漂っています。そこに対して、産業全体を変えられる、かつてのIT革命のようなものが求められている。僕は否定的なんですけど、Web3とか仮想空間的なものとかがその候補として期待されています。でも、まだあまり良いものは出てきていないという印象ですね。
勤める会社によってもその環境はさまざま
『その働き方、あと何年できますか?』著者、木暮太一(こぐれ・たいち)さん
呉 当初の構成案では、少し違う切り口でしたよね。
木暮 最初はビジネス系の本をイメージしていて、「ビジネスでうまくいく人といかない人の違いはこんなところにある。よかれと思ってやっちまってることがたくさんあるから、頑張ってもうまくいかないんだよ」という切り口でした。でも、呉さんと構成案をやり取りする中で、「『よかれと思ってやっちまってる』は、自分のステレオタイプ思考に気づくのと同様、発想の転換ができて引きが強いから、これを軸に変えてほしい」みたいなご意見をいただいて。それならそこをベースにガラッと変えてこうしたいと僕のほうから再提案して、ビジネスだけではなく、働き方全体の話になりました。
呉 幅が広がって、より多くの方の参考になる1冊になったと思います。木暮さんはどんな読者をイメージされていますか。
木暮 全員に読んでほしい内容ですが、あえて言うなら、本書のタイトルにもある「あと何年、この働き方ができるだろうか?」を、考えたことがある方。自分のことをバリキャリだと思っていて、「でもこれは実際に望んでいたものじゃない」と感じている人たち。会社勤めをしている人たちの大半はこれを考えたことがあるんじゃないかと僕は思っています。本当は年齢も関係ありませんが、僕が今年45歳なので、その下の世代に向けて、僕の経験からお伝えするという感じでしょうか。
呉 会社を辞めて独立するというのはひとつの答えだと思いますが、会社員を続けていてもその解決法はあるのでしょうか?
木暮 あると思います。僕もこれまでいくつかの企業で勤めてきて、それぞれの違いを感じました。ある会社では、上の顔色を見ながら企画を出すような雰囲気があって言いたいことが言えませんでした。僕が提案しても「新入社員なのに生意気だ。会社のルールに従え」と。別の会社では自分が本当にいいと思うことをやらせてもらえる環境でした。会社員だからやりたいことができないわけでもないと思います。
現代を生きる人たちに必要な「自己生産性」とは?
『その働き方、あと何年できますか?』著者、木暮太一(こぐれ・たいち)さんと、担当編集者の呉(くれ)
呉 そこで大事になるのが、この本のキーワード「自己生産性」ですね。改めて教えてください。
木暮 前作では、資本主義の経済や給料の構造はこうなっているから、自分の努力を“最適化”してその中で一番大きな見返りをもらいましょうという話をしました。今回は、最適化ではなく“最大化”。他人が決めたルールから出て、自分が一番欲しいものを取りにいきましょうという話です。
今、世の中で言われる生産性向上とか労働生産性とかは、乗っている船の行き先は変えず、その中で早く動いたほうが勝ちという最適化の話。そうではなく、その船から降りて自分で行きたいほうへ行きましょうというのが自己生産性です。
そのために必要なのはやりたいことをやるだけじゃなく、お金をちゃんともらえるようになるとか、人に貢献して喜んでもらう自己存在感とか、日々心が疲れていない、本当に嫌なことを避けられる状態にあるとか、自分が行きたい方向の中でしっかり選択肢も持つということです。
今の社会はみんなで椅子取りゲームをしている状態で、その中で早く動こう、スキルを磨いていこうみたいな話をしていますが、そんなゲームにはもう意味を感じられません。それより、本当に行きたいところへ行きましょうよという話ですよね。
呉 自己生産性を上げるには?
木暮 3段階で考える必要があります。まず第1段階として、自分の中で折り合いをつけること。ほとんどの人が、本当に望んでいるものを言えていない。仮に、アキバのアイドルが好きでも、周囲から変に思われるかもと感じ、本心を言えなくなっています。仕事でも望んでいることがあるのに、望めないんです。これではいくら仕事を頑張っても満たされません。次の段階では、周囲との折り合いが必要です。お金や時間の使い方にしても、将来の身の振り方にしても、家族の理解が必要になる。そうやって自分の中で折り合いをつけ、周囲と折り合いをつけ、その次に第3段階として、好きなことを仕事にする準備ができます。
自分自身や家族との折り合いがついてない段階でやりたいことを仕事にするのは至難の業です。この3ステップに分けて考えることが必要と思います。そしてそもそも、多くの方はこの1番目の「本当に望んでいることを認めること」をしていない。
「人生の目標は?」と聞いても、会社の目標を掲げるのでは、誰のための人生なのかわからなくなりますよね。人目を気にして自分の欲求を言えない人が多いので、まず自分が本当に行きたいところ、やりたいことに気づいて、前に進んでもらいたいなと思います。
呉さんはこの本をつくって、いかがでしたか?
呉 おかげさまで(笑)、仕事で何を本当にやったらいいか、より意識するようになりました。これが、自己生産性が上がる第一歩なんですね。
1977年生まれ。作家、起業家、投資家。慶應義塾大学経済学部を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルート勤務を経て独立。現代日本人の「幸せな働き方」を目指し、リアルな現場と経済学の両面から分析・提言する。大学在学中に『資本論』を解説した本が学内で大ヒットし、現在では、実務家、ビジネス書作家として活躍。著書に『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(現在、講談社+α文庫に収録『人生格差はこれで決まる 働き方の損益分岐点』)、『カイジ「命より重い!」お金の話』など60冊超。累計180万部の発行部数を誇る。