読み終わった後、タイトルが深く響いた。かつて辛(つら)い思いをした時の自分に、本書を届けたくなるほどに。もしもあの時、この本があったなら。著者のように知識を授けてくれる人がいたならば──。私はおそらくもっと楽に、苦しかったあれこれを乗り切ることができただろう。そう強く感じたからこそ、これから本書を読める人がうらやましくなった。
著者は産婦人科の専門医であり、日本スポーツ協会公認のスポーツドクターでもある。テレビ出演や執筆活動、SNSや音声配信アプリでの情報発信を通じて、さまざまな人々の悩みに寄り添ってきた。副題に「女性ホルモンと人生のお話111」とある通り、本書では111のテーマを9つのチャプターに分け、女性の身体の変化とホルモンの関係、そこから生じる仕事、家族、生き方に関する悩みへのアドバイスを、著者ならではの視点で丁寧につづっている。
目次のあと、最初に目に入るのがこのグラフ。
知識としては知っていたものの、実際に図として見ると衝撃が走る。女性の生涯において、女性ホルモン(エストロゲン)が分泌される時間はそれほど長くないことがよくわかる。その移り変わりを、著者はこんな風に解説する。
女性の人生は、20代、30代、40代、50代と、そのときどきでいろんな悩みが出てくると思いますが、実はこれ、女性ホルモンの変動と関わっているんです。ですから、女性ホルモンを知ることは、自分の人生を知ることと同じなんです。
身体に起きている現象と向き合い、対処法を知ることは、人の生き方を確かに変える。たとえば生理ひとつとってみても、私は大人になるまで低用量ピルという選択肢を持たなかった。それはあくまで避妊のための手段であって、生理痛とは関係のないものだと思っていたのだ。だが社会人となり、忙しい日々が続く中で苦痛と毎月戦うのは本当につらかった。そんな私の様子を見かねた友人がアドバイスをくれたことで、思い切って婦人科に足を運ぶと、想像以上に快適な日々が私を待っていた。そのおかげで生きていて初めて、私は自分の手で苦痛をコントロールできるようになった。その驚きと嬉しさを、今でも鮮明に覚えている。
だからこそ著者の導きは説得力を持つ。本書の前半には、婦人科にかかる前の私が知りたかったことと、それ以上の知識がしっかりと収められていた。また、今後迎えるであろう更年期や閉経といった年齢に伴う身体の変化に加えて、仕事や家族、心身の不調への対策など、性別を問わず起こり得る悩みも興味深かった。
たとえば「考えても答えが出ないものは考えない」というテーマ。世情のため、先の見えない不安を抱える人が増えていると聞いた著者は、こんな風に語りかける。
こういった不安に対して私が思うのは、自分でコントロールできないことについて考えることに、長い時間を割かないほうがいいということです。それよりも、自分がコントロールできる範囲のことを具体的に考えるほうが大事だと思うのです。
そうして不安への向き合い方や考え方を提示するとともに、日々を着実に過ごすことが少し先の、そして遠い未来まで繋がっていくと穏やかに諭す。女性はもちろん、男性にも知っておいてほしい話であり、家族や友人で本書を一緒に読むことができればいいのにと感じる話でもあった。
人により歩む道が異なるように、年齢や状況も人それぞれ。すべてのテーマを身近に感じるという方はいないかもしれない。それでも、起こりうることをあらかじめ知っておくことは未来の自分の選択肢を増やす手になるかもしれないし、大切な誰かの人生を変える助けになるかもしれない。著者の言葉と知識をプレゼントとして受け止め、より良き時間を過ごしていけるよう、繰り返し読み直したい。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。