1日1杯飲むだけで確実にやせていく、「やせる出汁」などのオリジナルメソッドを使ったダイエット法を提唱、最近は、『ガッテン!』(NHK)、『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ)などでも人気のドクター、工藤孝文先生の近著です。
本の巻末にも載っている「やせる出汁」とは、かつお節、煮干し、昆布、緑茶を粉末にしたものをお湯に溶いた飲み物。1日1回飲めば、食欲の抑制、味覚の調整、デトックスなどが行われ、なんと2週間で11キロの減量、先生ご自身の体験によると「こわいくらい」にやせるというレシピです。
このダイエット法の肝(きも)は「ホルモン」にあります。「やせる出汁」には、いわゆる「うま味」がたっぷりとつまっています。このうま味には、赤ちゃんがお母さんのお腹のなかにいる時に入っている羊水や母乳の成分と同じものが含まれています。実際、赤ちゃんに「うま味、甘味、塩味」を与えてみると、いちばんよろこぶのは「うま味」であるという研究成果があるそうです。
そんなうま味をたっぷりと含む「やせる出汁」には、ホルモンに働きかけるさまざまなちからがあります。
多幸感を呼ぶホルモン「セロトニン」、食欲抑制効果のある「ヒスタミン」、満腹を感じるホルモン「レプチン」、ストレス対抗ホルモン「コルチゾール」。それらに働きかけ、食欲を落ち着かせ、カラダと心を安定させていくという効果があるのです。
「やせる出汁」に代表されるように、この本には、ホルモンのはたらきをコントロールすることが、わたしたちの健康につながるという多くの事例が紹介されています。
話は具体的です。(*カッコ内は作用するホルモン)
「朝1杯の牛乳を飲む」(メラトニン)
「食事の20分前にレモン水を飲む」(レプチン、グレリン)
「肉から食べる“ミートファースト”を実践」(インクレチン)
「背筋を伸ばして堂々と振る舞う」(テストステロン)
「お酒にはビール、つまみにはナッツ」(エストロゲン)
詳しいやり方やホルモンへの作用の詳細は本書に譲りますが、これら「ホルモンコントロール術」を実践することで、やせる、健康になる、元気になるなど、カラダに対する「いい効果」が期待できます。
ホルモンというものは、そもそもいったい何なのでしょうか。ホルモンは脳や膵臓、甲状腺などをはじめ、カラダ全体の各臓器から分泌される物質で、その数は100種類以上と言われています。(正確な数はわかっていません)
ホルモンという概念が確立されたのは20世紀に入ってからという、まだまだ未知なる領域です。
日本にも「病は気から」という言葉がありますが、著者の工藤先生は「心に起きることはすべて体に影響し、体に起きることもすべて心に影響する」という古代ギリシャ医師・ヒポクラテスの言葉を紹介しています。
ちょっとした心の変化でホルモンの分泌が変わる。ホルモンの分泌が変われば体調が変わる。すなわち、毎日の生活のなかで、自分自身の力でうまくホルモンをコントロールしていけば、カラダが変化し、生活が変わり、また人生までもが思い通りにいく、そんな可能性がおおいにあると言うのです。
先程の「具体例」に話を戻しますと、たとえば男性の場合。ここでは、テストステロンというホルモンに注目しています。テストステロンは、男らしいカラダをつくるはたらきの他、競争社会を生き抜く力強い意志を持ち、バリバリと仕事を進め、常にアグレッシブな行動をしていくための重要なホルモンです。もちろん、男としての老化にも関係していきます。
このホルモンの分泌を促すための方法。それは、筋トレなどで直接的にカラダを鍛え上げていくことも重要ですが、その他に、「背筋を伸ばして堂々と振る舞う」「腰に手を当て勝利者のようにポーズをとる」などが提唱されています。一瞬、「えっ?」と思うかもしれません。ですが、「背中にある大きな筋肉を刺激する+男らしい行動・姿勢を見せる」ということ自体が、テストステロンを分泌させる有効なスイッチになっているのです。
心とカラダの両面から考えた、さまざまな悩みを解決する「方法論」はまだまだあります。
「快適な睡眠を得る」「ダイエットを成功させる」「脳のパフォーマンスを上げる」「男性らしさと女性らしさ」「疲労回復」「若返り」「イライラを解消する」などなど。
日頃の人付き合いや仕事のたいへんさだけではなく、「コロナ禍」の昨今、外出自粛やエンタメの縮小など、ストレスの溜まることが多い状況が続いています。
「ウイルスやストレスに負けない」
「太りにくいカラダになる」
「心が安定する」
ホルモンにはたらきかけながら、自分のカラダと対話しながら、明るく元気に生活してほしいという著者の思いやりが伝わってくる温かい1冊です。
心とカラダを持て余し気味のわたしは、まず「出汁」の味わいから入り、男らしさと腹筋を取り戻し、朝1杯の牛乳を飲み(これは昔からですが)、幸福でホルモンライクな人生を追求していきたいと思っています。
レビュアー
コラムニスト。1963年生。横浜市出身。『POPEYE』『BRUTUS』誌でエディターを務めた後、独立。フリー編集者として、雑誌の創刊や書籍の編集に関わる。現在は、新聞、雑誌等に、昭和の風俗や観光に関するコラムを寄稿している。主な著書に『ロックンロール・ダイエット』(中央公論新社、扶桑社文庫)、『車輪の上』(枻出版)、『大物講座』(講談社)など。座右の銘は「諸行無常」。筋トレとホッピーと瞑想ヨガの日々。全国スナック名称研究会主宰。日本民俗学会会員。