「読むだけ」で漢字力がアップ
「であう」って「出会う」? それとも「出合う」? 意思って「固い」? 「堅い」? ……同じ読みの、微妙に意味の違う漢字の使い分けって悩ましい。仕事のメールの「思う」が「想う」になっている違和感で、肝心の内容が頭に入ってこないこともありました。読書が好きで漢字の知識がある人ほど、迷う場合もあるのでは? 自信をもって漢字の使い分けができている人は案外少ないのではないでしょうか。
「マンガでわかる 漢字の使い分け図鑑」は、漢字のイメージをマンガと適切な例文で表し、その使い分けのコツを直感的に理解できる1冊です。著者の円満字二郎先生は、高校の国語教科書や漢和辞典の編集に長年従事し、現在はフリーの編集・ライターとして活躍されています。そんな「日本語のプロ」が選んだ「漢字の使い分け」が満載です。
収録した訓読みの数は、254。取り扱った漢字はのべ650字以上で、その中には、いわゆる『常用漢字表』の範囲外の漢字もたくさん含まれています。日常的な日本語の文章を書く上で必要な訓読みの使い分けは、ほぼすべて網羅しました。
このボリュームが頼もしい。早速見ていきましょう。
見出し語である「あお」に対し、その読みに該当する漢字が【】内に掲げられています。
常用漢字ではない「蒼」「碧」には“*”が付けられています。使い分けの難易度を表す「悩まし度」は「あお」の場合は星3つ。マンガと文で使い分けのポイントが解説に加え、ある漢字(A)の意味がほかの漢字(B)の意味に含まれる場合は、Aの代わりにBも使えることが枠線で示され、広い意味で使える漢字には、「迷ったらこれ!」マークがついています。この場合、「蒼」「碧」という漢字の意味も「青」に含まれるので、顔色の悪さの「あお」や、宝石の「あお」を「青」と書いてもよいということですね。
さらに、各漢字の使用例やワンポイントアドバイスを参照すると、使い分けがより具体的に理解できます。
冒頭で触れた「“出会う”と“出合う”の使い分け」にも「なるほど!」な見分け方がありました。一発で腑に落ちる適切な用例は、漢字の達人ならでは。読むだけで漢字力アップが期待できそうです。
「意味が分かる」から記憶に定着
「おさめる」と読む「収」「納」「修」「治」……。このうち「自分のものになる」意味を持つ字はどれでしょう?
答えは「収」!
「収納」「回収」に「自分のものにする」ニュアンスがあるとは思いませんでしたが、「受け取ったお金を財布に収める」「勝利を収める」という言い回しがあります。「収穫」という言葉も併せて考えると、納得できると思いませんか? 見慣れた漢字の意外な意味を知るのも楽しい驚きです。
さらに「収」と「納」の使いどころは、こう見分けます。
「収納」という熟語があるように、【収】と【納】は意味がよく似ています。「おさめたもの」が「おさめた人」のものではなくなる場合には【納】を使う、と考えるのがおすすめです。
こんなに短い解説なのに、深く意味を理解できるのがこの本の凄さです。サッと読むだけなのに、しっかり記憶に定着するのがうれしい!
ここ、使い分けるんだ? マニアックな楽しさも
シンプルな絵柄でわかりやすく描き分けられたマンガは、本書の大きな魅力。本文を読まなくても「見るだけ」で漢字の意味が分かります。例えば「ひげ」。正直なところ、この字に使い分けがあることは本書で知ったのですが、この抜群のわかりやすさを見てほしい!
「悩まし度」こそやや少ない星2つですが、言われてみれば、確かに「ひげ」にもバリエーションがあります。マニアックな使い分けですが、「わかる」と「楽しい」の合わせ技は記憶に残るから、一度見たらもう忘れません。いつか私が文章で「ひげ」の描写をする日が来たら、この使い分けを披露したいと思います。
「見るだけ」でもう迷わない! 漢字の意味を理解するための部首コラム
この本にない漢字の使い分けも、見分け方のコツを知れば迷いません。そしてその方法の一つが「部首に注目する」こと。
たとえば、「送」の部首「辶(しんにょう、しんにゅう)」は、「進」「退」「通」「過」などにも現れているように、“移動”を表すはたらきがあります。一方、「贈」の部首「貝(かい・かいへん)」は、「財」「貯」「費」「貧」など、“お金”に関係する意味を持つ漢字に使われます。そこから考えれば、「送」は単に“何かを届ける”場合に用い、「贈」は“価値のあるものをプレゼントする”場合に使うことが、理解できるでしょう。p9-10
このように、部首は漢字の意味を理解する大きな手掛かり。本書は、主要な部首21個についてのコラムを掲載しています。
なかでも印象的だったのは「又(また)」についてのコラム。
由来となった「戦場で敵を討ち取った証拠として、相手の耳を持ち帰る」のインパクトよ……。これは忘れそうにありません。前述の「自分のものにする」意味を持つ「収」にも「又」がついていますね。このように、部首の成り立ちを知ると、より正確に漢字の持つ意味を理解できるから、漢字の使い分けの応用力まで身につきそうです。
漢字辞典を引けば、字の成り立ちや意味を知ることはできますが、そこに「読む楽しさ」はないように思います。本書は、漢字についての読み物として楽しく読むだけで、自然と知識が定着するのが大きな魅力。自分の頭がグイグイ知識を吸収する様子は久々でしたが楽しかった……! この楽しさを、ぜひ多くの人に味わってほしいと思います。
レビュアー
ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
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