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2021.12.28

レビュー

【中学受験】麻布、開成、筑駒、桜蔭……学校案内ではわからない名門校の真実。全30校!

久しぶりに友人と会い、互いの近況を話していた時のこと。彼女が「もうすぐ“チュウジュ”の準備が始まるんだよね」と言った。とっさに漢字が浮かばず、意味もわからなかったので聞いてみたところ、それは「中受」すなわち「中学受験」の略称だった。子どもの進路を検討中の彼女にとっては耳慣れた言葉だというが、私には新鮮だった。東京といっても23区外の地域に住み、高校までを公立で過ごした身にとって、中学受験は未知の世界でしかなかった。

とはいえ、最近ではドラマや漫画、小説でも中学受験を舞台にした作品はよく目にする。本書によれば

現在、都内では小学生の4人に1人が中学受験をする。

という。それだけの数の人が経験するものであれば、多くの物語が生まれるのも頷ける。

本書は、「日刊ゲンダイDIGITAL」で始まった不定期連載に学習塾などの現状を描いた連載を加え、加筆修正の上、最新情報を盛り込んだものだ。第一章では主に東京やその近郊の中高一貫校を、第二章では小学校と幼稚園を、それぞれ学校ごとに分けて取り上げている。また第三章では、「受験戦線に向けた最新データ」というタイトルで、学習塾の状況や塾の選び方、そして麻布学園の校長へのインタビューも収録されている。全体をざっくり見渡すというつくりは、初心者の私にはわかりやすかった。

さて本書に登場する学校は、主に首都圏にある。それ以外の地域に住んでいる方は、私のようにどこか遠い世界の話と受け取るかもしれない。ただ、「だから読まない」というのはもったいない。本書では、学校ごとの成り立ちや教育方針、実績だけでなく、その学校がどんな人物を輩出したかにも触れている。たとえば現在の岸田首相は「開成高校」(東京都荒川区)、日本テレビアナウンサーの水卜麻美さんは「渋谷教育学園幕張」(千葉県千葉市)など、出身者を知ることによりその学校が身近に感じられてくる。また、学校での縁がその後の社会での立場にまで繋がってくる様子も興味深い。

たとえば、小学校受験で名を馳せる慶應義塾幼稚舎について書かれたこのくだり。

1学年はK、E、I、Oの4クラス。生徒の特性や今後の進路を考えてクラス分けがされている。K組はオーナー経営者の子弟が多く、将来のビジネス上の人脈づくりに役立ててもらおうという意図がある。E組とI組は、それほどカラーがあるわけではなく、ごく一般的な父兄(といっても裕福な家庭が多いが)の子弟。O組は開業医の子弟が多く、将来の医学部入試を考え、スパルタ式の詰め込み教育が行われる。

クラス分けの段階で、そんな発想が盛り込まれているとは……! おそらく、その界隈にいる方であれば当たり前すぎるほど当たり前のことなのだろう。しかし実力や進路といった指針による一般的なクラス分けしか知らない私にとっては、目から鱗だった。未来の日本社会を担うべく、小学生の時点から社会で役立つ関係性を培っていく。その目的に沿い、時間と経験を自然と共有するような場所に身を置いていれば、互いの絆が深いものになっていくのも当然だろう。

他にも本書では、入試方法の違いや学費、内部進学の状況なども詳しく伝えている。また、経営者や校長が変わることで校風や合格実績が変わり、受験倍率や評判が変化していくさまは、学校も企業経営の1つであり、ある意味で「サービス業」だとも思えておもしろかった。「中受」やそれに類する世界に初めて触れる方にとって、幅広く「今」の名門校が見渡せる本書。入門書として、うってつけの1冊かもしれない。

レビュアー

田中香織 イメージ
田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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