ある月の給与明細に、突然見慣れない文字が出現したのを覚えている。そう、満40歳に達した時から徴収される「介護保険料」だ。当時の私は「税金がまたひとつ増えるのか」といった程度の認識で、その意義や利用方法についてはまったくの無知だった。その後、友人知人から家族の介護に関する切迫した話を聞くようになり、「介護保険」という制度が現在どれほど必要とされ、頼りにされているものなのかを知るようになった。
とはいえ聞きかじりの知識では心もとなく、実際の制度と使い方をざっくりとでも知りたくなって、本書を手に取った。まえがきによれば、介護保険制度は3年に一度改正されており、2021年はちょうどその年にあたる。本書では2018年に発行された本のデータ類を一新し、今回の刊行を迎えたという。
まえがきの後では、3つのケースをマンガで紹介しながら、イラストを交えて基本的なしくみが紹介されている。「制度を知ろう」と思うとついつい身構えてしまうものの、やわらかなイラストと読みやすく大きめの文字、そしてわかりやすい説明が、読み手の緊張をほぐしていく。
ちなみに介護サービスは主に65歳以上が対象とされているが、実は40歳から64歳までの人でもこの制度を利用できる場合があることを、私は本書で初めて知った。その対象は国が指定する特定疾病、たとえば脳梗塞やくも膜下出血、糖尿病性神経障害や関節リウマチ、パーキンソン病などにかかった人とされている。これらの病気は私と同年代の間でも実際に聞いたことがあり、その度、自分も無縁ではないと感じていた。40歳の節目で迎えていたのは徴収される義務だけでなく、支えてもらう立場でもあったのだ。知らない内に「もしも」の時の手を用意されていた気がして、なんだかありがたい気持ちになってしまった。
さて本編では5つの章にわたり、介護保険の制度が解説されていく。介護保険の大事なポイントとして、利用したい場合はまず「要介護認定を申請」することが重要であり、一般の健康保険証を使うのとは勝手が違うことが最初に知らされる。そして1章では申請の方法や提出する書類の内容、それらを作成するまでの流れが紹介されている。
また2章では、利用できる介護サービスの説明や支えてくれる関係者の業務内容、サービスの利用目的と実際の利用方法、ケアプランの作成例などが挙げられていた。そこで決められた内容は、4章と5章にある介護サービスのあり方ともかかわっていく。施設もサービスも多岐にわたっているが、考えてみれば家族も暮らし方も人それぞれ。その事情も、人によって少しずつ変わってくる。制度の中でよりよいサポートを受けるには、個々人のニーズに沿った利用と専門家の支えが不可欠だということがよくわかる。
個人的には、介護保険料について解説された3章も興味深かった。財源の説明に始まり、自分が払う側としての自己負担額から利用する側としての支給限度額まで、細かく書かれた内容はとても具体的。コラムでは「もし、保険料を支払っていなかったらどうなるの?」といった解説もあり、自分が払っているお金の使い道がよく理解できた。
健康であっても、年を取らない人間はいない。そして家族以外の誰かをうまく頼る方法を、突然手に入れることも難しい。介護保険制度はこの2点を踏まえた上で、「こんな味方が世の中にいるんだよ」と社会から差し伸べられたひとつの手だ。その手をうまくつかめるかどうかは、利用者と周囲の人々にかかっている。早く知っておいて損はない。いくつになってもより良く暮らしていくために、誰でも知っておきたい知識を、本書でぜひ手に入れよう。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。