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2021.01.04

レビュー

疲れ、不眠、うつ……におすすめ!イタリア薬膳ごはん。心と体を調える47品

食事で体をいたわる

真冬が近づくにつれ「風邪をひくまいぞ!」と必ず念じるけれど、2020年ほど自分の心と体をおっかなびっくり扱った年はないし、こんなに元気になりたい年もなかった。健康を気にしすぎてクタクタだ。でも、心身の些細な不調をきちんと気にかけてケアするようになったとも言える。そして、自分で自分をケアするうえで、睡眠と食事は大切な要素だ。

『イタリア薬膳ごはん 体の不調とおさらばできる』に並ぶレシピは「体によさそう」と「おいしそう」のいいとこ取り。そして見た瞬間にパッと心が明るくなる陽気な美しさをもつ。イタリア料理のワイルドな華やかさが大好きだ。

「薬膳」と聞いてどんな献立を想像するだろうか? 滋養たっぷりだけど少し地味で、たとえるならいぶし銀のようなイメージを私は薬膳に対して持っている。でも、この本に並ぶ薬膳はみんな明るく美しい。なんたってイタリア料理だから。

季節のクロスティーニの可愛らしさ。この本では“梅雨”も季節のメンバーに加えて五季としている。だからクロスティーニも5種類。

そして「薬膳の材料は近所のスーパーで手に入るんだろうか」「手間がかかりそう」「薬草っぽい味かな?」と身構えがちだが、さにあらず。いざ作ってみると日々の生活に無理なく組み込める料理ばかりだ。

イタリア料理の食材やハーブ、スパイスには、薬膳と共通するものが数多くあります。それがまた、薬膳の考え方をイタリア料理に取り入れやすくしているのです。

そうなんだ! 薬膳の基本的な考え方とイタリアの食養生の歴史を知る読みものとしても楽しい本だ。陽気で優雅な薬膳を知りたい人はぜひ読んで作ってほしい。

養生イタリア料理

最初の章では“それぞれの季節の養生に合った食事”が紹介されている。

たとえば“冬”ならば、

一年間に消耗した栄養を補う季節です。体を温かくして、栄養をしっかりと蓄えて抵抗力をつけましょう。

という言葉とともに、こんな料理がならぶ。

このなかで“ねぎのグラタン”に目が釘付けになった。大好きなイタリア料理店でいつも食べるグラタンは、ホワイトソースの味じゃないのだ。そうか、ソースに小麦粉を使わないからか! 作りたい!

ということで実際に作ってみたのがこちら。

 小皿にとり分け、生ハムに包まれたネギをナイフで切ると湯気がフワーっと立ち上る。ネギってこんなにおしゃれなご馳走になるのか! ゴルゴンゾーラチーズと生ハムの塩気がネギの甘みに合う。濃厚なソースにローズマリーとセージのみじん切りがふんわり香っておいしい。春にはアスパラでも作りたい。

もう1品、冷えた身体によさそうなこちらも作ってみた。

“症状別改善イタリア料理”の章で“腸が冷えている人”むけに紹介されていた“鶏肉の小悪魔風”だ。カリッカリで、塩気と唐辛子とローズマリーが効いている。下ごしらえと焼き方って大事なんだなあ……。

どちらもあつあつで、よい香りでおいしい。つまり当然のようにワインと抜群に合う。幸せ!

“イタリアに二千年以上前からあった食養生”という章では、ルネサンス時代にプラーティナという教養人が書いた健康書『正しい食事がもたらす喜びと健康』からこんな言葉が紹介されている。

おもしろいのは、「夕食にしても昼食にしても、ワインのない食事は楽しくないばかりか健康によくない」と、プラーティナが迷いもなく言い切っていることです。「イタリア料理はワインと楽しむためにできている」とイタリアでよく言われるのは、人文学者でもあったプラーティナがここまで断言したからかもしれません。

読みながらウキウキしてくる。本書はレシピに加えて、こういったイタリアに古くから伝わる食養生がたくさん語られる。古代ギリシアから伝えられたイタリア料理の基本的な要素にはじまり、中世のイタリア南部でうまれた「サレルノ医学校」の教えも紹介されている。このサレルノ医学校の考え方がおもしろいのだ。

サレルノ医学校の医師が訳しまとめた書物のなかに、およそ五百種類の薬草が並んでいます。体液と同じく、薬草にも温性か冷性、乾性か湿性の性質がある。いずれかの体液が熱すぎたり、冷えすぎたり、乾きすぎたり、湿りすぎたりしたときに、それを抑える効果のある薬草を使う。医学校の医師たちはそう考えました。

健康ネタが好きな人ならば「どこかで聞いたことがあるような?」と思わないだろうか。中医学でも「体を温める食材」や「体の熱をとる食材」があるのだ。薬膳とイタリア料理の共通点を知ることができる。

対応表を見るのも楽しい。なじみのある(そして好物の)食材ばかりだ。

季節や体調のことを考えながら食事を作ることと、「あー今夜はあれが食べたい!」と思うことがつながると、とても幸せだ。食卓に並べて、ワインもちょっと用意して、「おいしいな」と思いながら気持ちよく平らげる。元気にならないわけがない。

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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