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2020.11.14

レビュー

ビジネスでパフォーマンスを240%上げる食べ物・飲み物・その摂り方

いい年をした男がダイエット。ダイエットがお年頃の女性の専売特許と言われていた時代は昔。いまや、いい年をした男こそがダイエットなのである。

私はあいもかわらずダイエットに悩み、気がつくと自分自身の食に対する「最適解」を求め、奔走し、迷走し、逃走し続けている。

本書のサブタイトルに「健康本200冊を読み倒し、自身で人体実験をしてわかった」とある。

そして、研究の果てに著者が見つけたのが「食事法の最適解」。

私はこのコンセプトにしびれ、本書を手に取った。

もともと痩せ型だが、食生活から仕事や生活を向上させていこうと考える著者が、肉、魚、野菜など、各食材の扱い方、また、毎日のパフォーマンスを上げるための「体に良い食べ方」など、さまざまな文献の異なった意見を比較しながら、ていねいに言及していく。さらに感心するのは、それなりの手間と費用をかけ、「フードアレルギー検査」「遺伝子検査」「腸内フローラ検査」「カフェイン耐性検査」など、自分自身の体を知るための最新の検査も行っている点である。

なるほど、意識の高い、これこそ令和にふさわしいダイエッターの姿なのかもしれない。

いや、皮肉でもなんでもない。けっきょく(痩せようとする)「意識の高さ」以外痩せる方法がない。私自身はいまでもそう思っているからだ。(要するにすぐに本能に負ける)

パンクロックのスター、セックスピストルズのシド・ビシャスは、「パンクとはアティテュード(態度)」だと名言を残したが、ダイエットにおいても、常にいろいろと考え、調べ、比較し、試し、実践し、体に慣れさせていくという「態度」こそが本質であり、最短の道。いまでも、そのことは強く思う。

ただ、問題はその「意識」をどうやって高め、持ち続けるかということだ。

著者が描き出す食事法の最適解をここで並べ立てていくのは得策ではない。詳細は本書で確認して欲しい。

各食材に対して、

●現状、200冊のダイエット関連図書のなかで言われている見解を整理・比較し
●そこから導き出した「最適解」を出し、
●さらに役に立つ「食材への向き合い方」を紹介、
●最後に、著者自身の生活スタイルに合わせた「食べ方」の紹介、という構成になっている。

最初、読んでいて、本文中のこんな1節にひっかかった。

朝食は食べたほうがいいのか食べないほうがいいのかという難題に著者が答えたもの。

さまざまな説を検証した結果、私は朝食を食べる日と、朝食を抜いてデトックスする日のハイブリッドが良いのではないかと考えています。なんとなく体が重いときは抜き、調子の良いときは食べるという感じです。

ふむ。で、これが理由。

血糖値スパイクを防ぐため、また食が細くて夜に空腹で寝られなくなることもあったため、(総カロリーの調整のため・筆者注)食べる日も設けています。自分の体調を見ながら、朝食を摂る日と摂らない日を考えるというスタイルです。

つまり、理屈によって裏打ちされた「意識」によってきちんと体の声を聞き、本能の暴走をコントロールせよと言っている。

卑近な例で申し訳ないが、昔、私なりの無謀なダイエットに興じていたとき、妻がおもしろいことを指摘していた。家にマルチーズを飼っていたのだが、そいつは体がものすごく小さいこともあるが、ふだん飯を食べていると執拗に欲しがっているくせに、もう十分に食べたと思うとそれ以上は手を付けようとしない。また、「散歩に行くぞ」と声をかけると(エネルギー確保のためなのか)ガツガツと急いで飯を食べ始めるし、動き疲れて具合が悪いとなると、何も食べないでじっとしている。そりゃ動物だから「本能的」と言ってしまえばそれまでだが、食に対するすべての行動に無駄がない。だから、この犬の行動を見ておまえも見習えと私に言うのである。

いや、そりゃ無理だ。私たちは本能の塊ではなく(あるいは煩悩という名の)「意識」に支配された人間だからと抵抗していたが、なんのことはない、意識によっても同じようなアティテュードは実現可能。意識をコントロールできず、欲望のみに振り回されていたある種の動物頭はこの私なのであった。

あたりまえのことにこそ本質がある。結論は案外そんなところだ。

もちろん、最適解と言えども、体はひとりひとりが違うし、また感性も違うから、すべてが正確な「最適解」とは言えないのかもしれない。だが、ダイエットとはそういうものだし、また、著者の追求した「食事法」もそうそう簡単に解けないものだからこそ、この本の価値が生まれる。

本文にこんな1節がある。

体に悪いとされるものを避け、良いとされるものをできるだけ摂り入れ、自分の体と向き合いながら最強のポートフォリオ(食に対する考え方をまとめた行動表・筆者注)をまとめていく。自分にとって心地のよい選択かどうか、自分はどのようなものに価値を感じるのかという、個性や生きざまをそこに重ね合わせていけば、より人生は充実する(「おわりに」より)

これこそが、本書のテーマであり、著者からの力強いメッセージだ。

少し「ダイエット道」にイキりすぎた紹介になったが、よく整理されていて役に立つ本だ。

曖昧な惰性ではなく、戦略的な実践。感覚的な目論見ではなく、意識的な計画。

「食事法」にもそれを取り入れる。

現代を生き抜く「できる起業家、ビジネスマン」におすすめの1冊である。

レビュアー

中丸謙一朗

コラムニスト。1963年生。横浜市出身。『POPEYE』『BRUTUS』誌でエディターを務めた後、独立。フリー編集者として、雑誌の創刊や書籍の編集に関わる。現在は、新聞、雑誌等に、昭和の風俗や観光に関するコラムを寄稿している。主な著書に『ロックンロール・ダイエット』(中央公論新社、扶桑社文庫)、『車輪の上』(枻出版)、『大物講座』(講談社)など。座右の銘は「諸行無常」。筋トレとホッピーと瞑想ヨガの日々。全国スナック名称研究会主宰。日本民俗学会会員。

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