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2020.09.14

特集

これは最後の恋──妻でもなく、母でもなく、娘でもなく、私は女になりたい。

赤澤奈美は47歳、美容皮膚科医。カメラマンだった夫とは別れ、シングルマザーとしてひとり息子を育て、老いた母の面倒を見ながら仕事一筋に生きてきた。ふとしたことから、元患者で14歳年下の業平公平と、事故に逢うように恋に落ちてしまう。心を閉ざすように生きてきた奈美の、モノクロームだった世界が、色と音を持ち始めた。

窪美澄 (くぼ・みすみ)

1965年東京都生まれ。'09年「ミクマリ」でR-18文学賞大賞を受賞しデビュー。'11年『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞、'12年『晴天の迷いクジラ』で山本風太郎賞、'19年『トリニティ』で織田作之助賞受賞。他の著書に『雨のなまえ』『じっと手を見る』『いるいないみらい』など多数。最新作は『たおやかに輪をえがいて』。

著者より

重さを手放し、もっと好きに生きていい

女性はいつまで恋ができるのだろう、という問いが私の心のなかにずっとありました。恋は(それがどんな恋であっても)嵐のような出来事です。その体験に年齢というのはあまり関係ないのではないか、とも思います。

年齢を重ねた女性の恋愛と若い女性の恋愛と唯一異なるところは、縁を結んだ人間の数の多さです。妻、母、娘などの役割の多さ、といってもいいのかもしれません。

そんな主人公の奈美が、ただの女になって、その重さをするりと抜け出すことができたのが、十四歳年下の、公平との恋だったのではないか。

日本では、年齢を重ねた女性が恋をしたり、年齢差のある男性と恋をすることが、眉をひそめられ、時にグロテスクで醜い、と誹られることが多いように感じますが、女性はもっと自由に、自分に生きたいように生きてもいいのではないかと強く思います。

自分の人生は誰のものではなく、自分のものです。人生は自分が思っている以上に短いし、時間は有限です。それならば、心からやりたいことをやり尽くして、人生を全うしたい。私も奈美のようにいい恋をしたいし、いい人生だったと思って死にたいと思っています。

“本読みのプロ”たちから、続々と応援コメントが到着!

タイトルのストレートさにざわついた。主人公の年齢も窪さんと重なっており、否が応にも自身の恋愛観や体験、女としての感情が色濃く反映されている。ぜひ、体性感覚で堪能していただければと思う。――唯川恵(作家)

生傷から血が滴るような序章にぐっと気持ちを掴まれた。恋とは時に凶器にもなり得ることを改めて突き付けられた。――山本文緒(作家)

渡辺淳一の『失楽園』と好対照を成す作品。人生の秋を迎えた女性を主人公にして、女性の性を通した命の在り処に切り込んでいる。――内藤麻里子(書評家)

ただ、欲しいのは心を縛られない自由。一人の女として、いくつになっても誰かを恋する自由を、そのことがごく当たり前のこととして認められる自由を、心を縛られない自由を欲しいのだ。――吉田伸子(書評家)

ひとりの女性の鮮烈な生き様を描いた作品。ままならぬ空気の中で運命に翻弄されながらも強かに生きる女性の姿は著者の生き方そのものだ。――内田剛(書評家)

大人になってこそ恋が必要なのかもしれない。年齢でもなく、世間でもなく、自分への諦めでもなく。だれかに恋をすることが、世界をちがったものにしてくれる。――三宅香帆(書評家)

担当者より

大きな翼を持つ人生讃歌小説

かつて小説雑誌がたくさん読まれていたとき、「中間小説」と呼ばれるジャンルがありました。もともとは、純文学と大衆小説の中間の作品、と言った意味合いで、人生そのものを活写した大人の読み物がそれに当たると言われています。

窪美澄さんは、中間小説の当代一の書き手だなあとこの作品を読んで改めて感じました。人生には素晴らしいこともたくさん起こりますが、理不尽なこともたくさん転がっています。現実の憂さを、痛快なエンターテインメント小説で晴らすことも素敵ですが、窪作品のように理不尽を直視しつつ読者に寄り添ってくれる小説が、もっともっと読まれて欲しいと思います。

本作品の中心テーマは「アラフィフ女性の恋」ですが、それにとどまらない大きな翼を持っています。ぜひご一読ください。

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