片付けの好き嫌いを聞かれたら、どちらかといえば好きな方だ。とはいえ、もちろん「面倒くさい」と思う気持ちもあって、家の中には「ある程度きれいになっていれば……」と、目をつむった部分が多くある。だから我流ではない、より良い片づけ方があるなら知ってみたいと思っていた。
タイトルに惹かれたのは、定番の「収納」「片づけ」といった言葉ではなく、「物の減らし方」とあったからだ。ちょっと珍しいスタンスにそそられた。
そのための「レッスン」は二部構成で書かれていて、第一章の名前は「『整理』『収納』ができるメンタルになる!」だった。冒頭では、私たちの「いま」を全肯定してくれる。すなわち、片付けができないのは当たり前です!と。まずこの一言に驚いて、「そこから始めてくれるんだ……!」と嬉しくなる。
現在の小学五年生は、家庭科の授業で片づけについて学ぶという。学ぶ機会があるのは素敵なことだが、そういった機会をもらえないまま大人になった私たちや親の世代が、正しい「片づけ」方法を知らないのは当然のことだと著者は説く。その上で「片づけとはなんぞや?」と、話は進む。
片づけに関する言葉でよく聞く「整理」「収納」「片づけ」は全て意味が違うこと、御存じでしょうか?
「物を捨てること」=「片づけ」と取られがちですが、全く違います!「整理」とは「物を減らすこと」。「捨てること」ではありません。あなたがこれからも大切に使いたい物、好きな物を「選んで残す」ことが、「整理」です。
なるほど、確かにその違いは考えたことがなかった。同様に「収納」「片づけ」についても言葉の定義が見直され、固定観念が払われていく。
次の「あなたが整理できない理由」では、物が増える時の「あるある」がイラストと共に解説されていた。どれも片づけの壁となりがちな事例だが、著者の問いかけを元に考え直すと、いずれも自分を正当化するために言い訳や思い込みだったことに気づいた。価値観が、ゆっくり変わっていくのを感じる。
……と、読んでいるだけではもったいない気持ちになってきたので、手始めに著者が薦める「箱の整理」をやってみることにした。「小さなスペースを片づけ、それを繰り返していくことで、判断力が身について整理や収納のコツが掴める」ようになるらしい。今回はずっと気になっていた「開かずのコスメボックス」に挑んだ。
ボックスは普段使いの道具入れとストック用の2種類に分けていて、前者は日々整理していた。しかし後者は収納力があったおかげで、中に入っているものが把握できない箱へと変わり果てていた。教えに従い、まずは中身をすべて取り出してみる。
覚えのないものが盛りだくさんで、自分でも引いてしまった……。試供品も多かったが、同じブランドのあぶら取り紙やアイブローペンシルが、パッケージ違いで複数あった。商品自体が途中でリニューアルしていたようだが、まったく気づくことなく、古いものを溜めては次を買っていた自分が露わになった。ここで頭に浮かんだのは、著者の巻頭の言葉である。
物の整理は人生の棚卸しです。
もう、まさにその通り……! 自分が何を大事に思い、何を気にしなかったかが丸見えである。片づけとその前後には、「その人らしさ」が一番表れるのかもしれない。まるで過去の自分を覗き見ているかのようで、赤面しながら作業を続けた。
そうして振り返っていくと、自分がうっかり溜め込んでしまうのは中身が見えない時だと気づいた。「細かいものをきちんと立てて収める」「使う種類、目的別に分ける」「使わないストックは手放す」の三点を決めて、仕分けにとりかかる。
たったこれだけの空間なのに、全部出して収めきるまで1時間以上かかった。「作業を始める前には『時間』もしくは『範囲』を必ず決めてほしい」と、著者が強く主張していた理由を実感する。ちなみに著者が教えた生徒さんたちは、「本気で家を整えた結果、平均して3kg痩せた」と書かれていた。それも納得の重労働……。
ただ、終わった後の爽快感と達成感は素晴らしかった。毎日使うものだけに、それが片付いていると効率も良く、見るたびに心が軽くなる。「物の減らし方」とは「物の持ち方」でもあるのだと気づかされた。こうやって「理想の快適さ」を実現していくことが、より良い暮らしのスタートであり、新しい自分との出会いにもなるのだろう。迷ったときには何度でもページを開き、著者の言葉に励まされながら生活を変えていきたい。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。