いきなり「捨てるものを決めろ」は、難しい!
ネットで「片づけ」「片付け」で検索すると、じつに多くのサイトや記事がずらりと並びます。
思えば、物心ついてよりこのかた、「片づけなさい!」と叱られ、お尻をたたかれてきているはずなのに、片づけが苦手な人のいかに多いことか! 村上さん、そもそも「片づけ」ってなんでしょう?
私は「家にあるものや新たに買ったものなどを、適切な場所に移動し、その場所からあぶれたものは減らし(処分し)、次に出しやすいようにしまうこと」と考えています。
まさにその通りなのだけれど、それが難しい! それができない! どうして、やり遂げることができないのでしょうか?
村上さんは、大半のいわゆる「片づけ本」が、最初に「ものの要・不要」を迫るけれど、片づけが苦手な人は「要・不要」が判断しがたいため、この段階で挫折することが多いと指摘します。
片づけが苦手な人はここですぐに挫折します。要・不要を判断する基準が明確になっていないと判断に迷うばかりで片づけが進まず、自信喪失するからです。
片づけが苦手な人にとっては、たとえば量を決めるにしても「しまい場所に入りきる分」のような目に見える尺度に沿って進めていくほうが、現実的で実行しやすいでしょう。
なるほど。「断捨離」という言葉が流行したのは記憶に新しいところですが、部屋に散乱し、クローゼットからあふれんばかりのものを前にして、「要・不要」を即断できる人は、なかなかいません。
そもそも、すんなり判断できる人なら、いつも整理・整頓バッチリな環境が維持できているはずで、今さら片づけに重い腰を上げる必要はないでしょう。
しかし、我々はそうではない!(胸を張って言うことではないけれど)
片づけられない歴=年齢、の私はいったいどこから手をつけてよいのかさえ、わかりません。村上さん、どうしたらよいでしょう?
「場所」「量」「入れ方」を決める
要・不要の判断に迷って片づけられない人は、村上さん、何から始めればいいのでしょうか?
まず重要なのは、ものの「しまい場所」です。使いたいときにすぐに出せる場所、しまうのを面倒に感じなくてもすむ場所にしまうことで、使いやすく、散らかりにくくなるからです。
なるほど、普段使うことを考えて「場所を決める」のですね。片づけたあとの「きれいさ」ばかり考えていて、使う時のことをあまり考えていませんでした。
しまい場所が決まったら、そこに入れるものの量を決めます。(中略)しまい場所からあふれるほどものがあると、どうしても散らかってしまいます。多くの人の場合は、「しまい場所に入るだけの量に減らす」ことになるでしょう。
「場所を決める」ことができれば、ここにはこのくらいしか入らない、という尺度になるので「量を決める」ことができますね!
場所も量も決まったら、最後は「どう入れるか」です。引き出しにぎっしり詰めたり、ただ積み上げておいたりするのでは、取り出しにくいうえにしまいにくくなってしまい、散らかる原因になります。
「入れ方を決める」ことをいい加減にして、ぎっしり詰めた引き出しは、出し入れしにくいから、次にしまうときはもっといい加減になります。積み上げた書類や本は、下の物を取り出すときになだれを起こしたりしますね。
この「場所を決める」「量を決める」「入れ方を決める」という3つのステップを踏んで片づけができれば、結婚や引っ越しなど、ライフスタイルの変化によるものの量や収納方法の変更にも柔軟に対応できると、村上さんはいいます。
なるほど、これならできそうだ。ではさっそく、片づけ始めますか!
え? ちょっと待てって?
3ステップを実行するためのルールを作る
これらのステップを実行するためには、片づけのルールを具体的に決めていくことが必要になります。
確かに、片づけには「場所を決める」「量を決める」「入れ方を決める」の3ステップが必要ということはわかったけど、具体的にどんな作業をすればいいのか、って言われると……。だから、今まで気合いを入れて片づけても、すぐにまた散らかってしまったのか。
村上さんは、どうやってルールを決めたんですか。
自分の普段の行動を見直して、片づかないのは、どんな問題があるかを洗い出してみました。次に、その問題が起こっている理由を考えてみました。
起こっている問題の理由を洗い出し、その解決策から、こんなルールを導き出したそうです。
【問題1】使ったものを元の場所に戻せない
【理由】しまうまでの動作が多いからおっくうになる、つまり使用頻度や動線を考えてものを置いていないため
⇒【ルール1<場所を決める>】もののしまい場所(定位置)は、それをよく使う場所の近くに設定する
【問題2】行き場のないものがあふれている
【理由】しまい場所を確保せずにものを買ってしまうから
⇒【ルール2<量を決める>】しまい場所を確保できない場合は、ものを買うのをあきらめる
【問題3】必要なものがすぐに取り出せない
【理由】ものを寝かせて(横にして)入れているので、下のほうに入っているものが出しにくいから
⇒【ルール3<入れ方を決める>】ものはできるだけ立てて収納し、重ねない
なるほど、散らかる=片づかないという問題とその理由(原因)をはっきりさせてから、そうならないように解決策を考えれば具体的なルールができますね!
村上さんの抱えていた問題は、私も含め、多くの人が片づけでつまずいているところでしょう。このルールは非常にシンプルなので、だれにとっても役に立ちそうですね。
発達障害の家族も守れるルールを作る
家族がいる場合は、家族に配慮した片づけのルールである必要がある、と村上さんはいいます。家族の誰かにとって難しいルールでは、守られずに崩壊してしまうからだ、ということです。村上さんのルールは、ご家族の方にも理解されやすかったのでしょうか?
わが家は、ASDに加えてADHD(注意欠如・多動性障害)やLD(読み書きの学習障害)の傾向のある夫との二人暮らしです。片づいた状態を維持するには、彼にとって片づけやすいことも重要ですから、夫の行動をよく観察し、私の場合と同様に分析してみました。
ADHDは、「身のまわりのものを管理できない」「忘れものが多い」という傾向があるといわれます。
彼は私と話し合ってもののしまい場所やしまい方を決めても、なかなか覚えてくれず、しばらくの間は忘れてしまうということがしょっちゅうでした。一方、いったんしまい場所やしまい方が定着するとルール変更が難しいようで、話し合ってしまい場所を変えたあとでも、それを忘れて以前の場所に戻してしまうことがありました。
また、扉があると中に何が入っているのかがわからなくなってしまううえに、扉を開けて探してもなかなか見つけられないという特徴もありました。扉の中にストックがあっても探し出せず、新しいものを買ってきてしまったりするのです。
なかなか、手強そうです。旦那さんに片づけを理解させるのは至難の業だったのではないでしょうか?
ところが、旦那さんが片づけられない問題と、その理由を振り返ってみると、意外に解決は難しくなかったようです。
つまり、「しまい方が少し複雑になると覚えにくい」という問題を解決するために<入れ方を決める>際には出し入れの動作が単純になるようにする、「見えないものを想像して探すのが苦手」という問題を解決するために<場所を決める>ときに入っているものがひと目で確認できるようにしまうにラベルを貼る、という工夫をしました。そして、その工夫はかなり成功を収めたそうです。
生まれながらの特性として片づけられない、ということだけを見ると、解決はとても難しく思えますが、起こっている問題からたどっていくと、すんなりと解決法が導きだせます。発達障害の人にもわかりやすく、実行しやすい「しくみ」だということがよくわかります。
まずは、財布で"プレレッスン"!
村上さんの片づけの極意をわかりやすくまとめたのが『発達障害の人の「片づけスキル」を伸ばす本 アスペルガー、ADHD、LD……片づけが苦手でもうまくいく!』です。
「プレレッスン」と称して財布、ポーチ、バッグで片づけの基本をしっかり学び、<場所を決める><量を決める><入れ方を決める>の3つのステップに沿って、自然と片づけのスキルが身につけられます。これまで、何度も片づけに挫折した人にこそ参考になるはずです。
3つのステップがさまざまな具体例で解説されているので、何をどう片づけてよいのかがよくわかります。また、全篇にわたって、ツボを得たイラストと、よくあるシーンに思わずにんまりしてしまうマンガで、スラスラ読み進められそうです。
最後に、村上さんの実体験に裏付けられた本書は、片づけに目覚め、ご自身がスキルを伸ばしていく過程が反映され、とても興味深いものがあります。ご自身の特性を生かした格好例ともいえるのではないでしょか。
さて、片づけのスキルもぐんぐん伸びたことだし、さっそく、この散らかったリビングを片づけますか!
え? まだ早いって? あ、そうそう、そうでした。まずは、財布でプレレッスン、でした。レシートメタボな私の財布は、どこにいったかな……。
レビュアー
前世紀後半生まれ、横浜育ち。医書などの編集に携わり、最近は医書や生命科学を中心とした科学書を紹介するWeb記事を神出鬼没に発信中。