タイトルから受けた最初の印象は、「これからリーダーになる人が、リーダーになっていくために読む本」だった。「じゃあ今の私には必要ないか」と思っていたのだが、読み進めるにつれ意外にも、当初の印象はどんどんと変わっていった。最後には「これ、リーダーになる人だけじゃなくて、むしろならない人も読んだ方がいいのでは?」という気持ちにまでなったほど!
著者は国内外で20年以上にわたりスポーツ心理学を学び、2012年から2015年にかけては、ラグビー日本代表チームの前ヘッドコーチであるエディー・ジョーンズ氏に招かれ、チームのメンタルコーチを務めた。そんな著者が、本書の冒頭でこのように語っている。
欧米や日本で「組織におけるリーダーシップ」を見て学んできた私が本書でもっともお伝えしたいのは、リーダーシップはスキルであり、鍛えることができるという点です。特別な才能のある人だけが持ち合わせる「資質」ではなく、誰でも伸ばすことができる「技術」なのです。
つまり、技術を習得するための適切な取り組みを理解すれば、リーダーシップは誰にでも身に付けることができるのです。
それを証明しているのは、本書が当時のリーダーだったエディー氏について書かれた本ではない、ということ。もちろん、彼の考え方や選手に対して行ったこと、著者にとっても良きリーダーであったエピソードなどはとても面白かった。だがより重要だった点は、著者が共に歩んだ日本ラグビー代表の成長とその過程、である。「負けることしか知らないチーム」が抱えていた「負けて当然」という姿勢を、まずはリセットする必要があると見抜いた著者の分析。そしてチームを作っていく中で、彼らはリーダーシップをどのように必要とし、磨き、力としていったのか。
実はこの流れ、形を変えれば誰にでも覚えがあるものだともいえる。入りたての場所で、動き始めたばかりの企画で、チーム内での立ち位置がわからないまま、仕事をやみくもに覚えたこと。そこで起こした数々の間違いや勘違い。失敗が続いた時の挽回の難しさ、自信の喪失……。
そういった「社会人あるある」の経験に、著者の示す導きは確かな光となるように思えた。「あの時の自分に、もしこんな指針があったなら──」そう考えたら、まったく他人ごとではない。自分の過去も思い出しながら、ぐいぐいと読まされていった。
教えを受ける側については、ほかにもこんな記述があった。
指導する側には、人に教えるための「コーチングスキル」が必要なことは、きっと多くの方がご存じでしょう。
でも、実は、教えを受ける側にもスキルが必要なのです。それは教えられたことを自分のものにする「教えを受けるスキル」です。スポーツ心理学では「コーチアビリティ」(教えを生かす能力)と呼ばれ、選手にとって重要なメンタルスキルに含まれます。
ああ! それもスキルなのか! そういうこと、もっと早く知りたかった……。
この本はおそらく、リーダーになる前に自分で自分を育てたい人にすごく向いている。本書を読むことは、自身の中で教師と生徒のコツをワンセットで得るようなもの。それぞれに必要とされる技術と思考法が何なのか、端的に知ることができるだろう。
教えの少ない場所で、上司のいない場所で。たった一人で過ごしている人にとっては、大きなヒントが詰まっている。自分を働きやすくするための1冊、ぜひ手に取ってみてほしい。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。