Before/Afterの鮮烈な動画、その後に映し出される「結果にコミットする。」というキャッチフレーズ。誰もが「ああ、あれね」という思い浮かべるライザップのCM。ボディメイク(ダイエット)市場でなぜライザップは成長を続けられるのか。その秘訣は何なのか? この本はそれに迫った快著です。
「誰もが『成功させたい』と考えていながら、多くの方々が挫折、失敗してしまうダイエット」。結果にコミットするとはいっても、ダイエットにゴールはありません。ではなにがゲスト(顧客)を惹きつけ、時には苛酷とも思えるトレーニングをし続けられるようにできるのでしょうか……。
ゲストがトレーニングをし続ける意欲(自発性)を持ち続けられるように導いているもの、それこそが「ライザップ式接客術」です。
どうしてゲストのみなさまが、ともすると過剰とも言える私生活へのおせっかいや、厳しいトレーニング指導にも離れずについて来てくださっているのか。改めて振り返ったときに得られた答えは、私たちの原点とも言える「顧客との信頼関係を構築すること」にありました。
信頼関係が第一
ゲストを「100%肯定する」こと、そこからライザップ式が始まります。そしてゲストがトレーナーと二人三脚で目標を目指すようにならなければ「結果にコミット」できません。
ゲストと二人三脚になるという「信頼関係」を作るうえでトレーナーが心がけなければならないことが3つあります。
1.ゲストのニーズに向き合う力:ゲストの「動因」を把握する。
2.ゲストに徹底的に寄り添う力:「親密な空間」を作る。
3.ゲストとつながり続ける力:ゲストの「自己実現」を助ける。
「動因」とはゲストがジムに来た真の理由です。トレーナーはそれを知るための「5つのWHY」の問いかけをします。たとえば……・
1.なぜ痩せたいと思うのですか?
2.なぜ『健康な体を取り戻したい』と思うのですか?
3.なぜ、あなたは仕事の効率を上げたいと思っているのですか?
4.では、なぜ社内の評価を上げたいのですか?
5.あなたはなぜ、社内のライバルを見返したいと思うのですか?
ひとつの例ですが、かなり突っ込んだ問いかけです。ダイエットの目的を知るだけでなく、ゲストの「人生観」「価値観」を知ろうとしています。このような一歩踏み込んだ会話はゲストにトレーナーが本気で向き合っていなければできません。この「本気さ」が「親密さ」を育てることになります。
「向き合う」とはいってもトレーナーはいつも一緒というわけではありません。168対2という壁があります。これは1週間(168時間)のうちトレーナーがゲストに接する時間が2時間程度でしかないということを示しています。
ですからジムで接していない時間(シャドウタイムというそうです)でも「常にライザップのこと、ボディメイクのことを考えてもらう」ようにしなければなりません。それにはジム外でのゲストの質問に「できるだけ早いレスポンス」をする、ということが肝心になります。そうすればゲストの生活の中で「ボディメイクの優先順位」を上げていくことができます。ここにもトレーナーの「本気度」が問われます。そうして堅固な信頼関係を築いていきます。
表面的ではない「心の底からの信頼関係」を築き上げ、一般的に言えば「やり過ぎ」のレベルにまで、ゲストの方のプライベートに積極的にかかわっていきます。そして、ここまで「やり過ぎ」ても、ゲストのみなさまはトレーナーを信じ、ライザップを信じて、自らの「人生最後のダイエット」となるように結果を出すまでがんばってくれています。
トレーナーも変化する
このようにゲストに深くコミットメントするトレーナーには「3つのM」が求められています。
1.MANAGEMENT:正しい方法で実行できるように導く。
2.MENTAL SUPPORT:ゲストの弱いメンタルを支える。
3.MIND:ゲストの人生に何を提供できるか考える。それを通して「ゲストの人生を変える」。
「ボディメイク(ダイエット)」の目的ははっきりしています。美しく均整のとれた肉体を創ることです。でも、これはゴールではありません。ボディメイクは目標に達したとしても維持し続けなければ意味がありません。ですからゴールはずーっと先、ないといってもいい。「ボディメイクが日常の一部に」ならなければならないのです。ですからゲストがジムに来ていない時間(シャドウタイム)のマネジメントも必要になります。
また「人間は誰しも、弱い生き物」ということを忘れずに「ゲストの弱い部分をトレーナーの強さで支えて」ゲストに安心感を抱いてもらわなければメニューを持続して行ってもらうことはできないでしょう。さらに「ゲストの人生のために何を提供できるか」を考え続け後押しするリーダー的な人という自覚をトレーナーは持たなければならないのです。
つまり「相手に一生懸命興味持ち」、相手をむやみに否定しないこと。ミスを責め過ぎず、ゲストの「未来」へ向けて「横に並んで肩を組み、ときには前に立って」ゲストを導いていく。これがトレーナーに求められる姿なのです。
これらのトレーナーの働きかけを受けて、トレーナーとゲストの関係も変化していきます。その変化は3段階に及びます。
1.トレーナーがいないとできない:依存
2.トレーナーがいなくてもできる:自立
3.トレーナーと一緒にいればもっとできる:相互依存
ゲストの自己実現の欲求を大切に
ゲストとの関係の変化に従って、ライザップのトレーナーは、「どうすればいいと思いますか」とゲストに問いかけるようになるそうです。これは一方的に教える「ティーチング」でとどまることなく、相手から答えを引き出す「コーチング」へ進むということです。
トレーナーはゲストに「承認メッセージ」を発し続けることを忘れてはなりません。なぜならここから生まれる「自己実現の欲求」はそのまま「成長欲求」へと繋がるからです。
ゲストのこの欲求を認め、応え、ゲストが「よりよい人生」を求め続けていけるようにすること、これがライザップの「接客術」のキーです。ゲストがさらに上の目標を目指せるように新たな「提案」をし続けること、これがライザップのトレーナーの姿です。これはメンターといってもいいでしょう。
「やればできる」という言葉がそのまま、真実です。(略)逆もまた真なり。ボディメイクは「できていない者は、やっていない」ということ。
ゲストに強い意志を持ってもらうこと、その意志の元でともに目標に向かって歩もうとすること、これが「ライザップの本質」にあるものです。その意思の育みかたから私たちが学べることはたくさんあります。
ライザップの「接客術」は人間関係に悩む人や、接客業だけでなく、同志を募る起業を目指す人、相手を説得するのが苦手な人にも役立つ秘訣を教えてくれます。そんなことを思わせた1冊でした。
■この本のコミック版
『マンガでわかる ゲストの心を離さない ライザップ式接客術』
も発売中です。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の2人です。