“ダブル主演”とでも言うべきキャスティングです。
主役のひとりは、2015年ラグビーW杯南アフリカ戦で「スポーツ史上最大の番狂わせ」を成し遂げた元日本代表ヘッドコーチ(HC)のエディー・ジョーンズさん。もうひとりはビジネス界をリードする「最強外資」ゴールドマン・サックス証券社長の持田昌典さんです。
かたやスポーツ、かたやビジネスの名リーダーであるこのふたりが演者となり、交互に同じ壇上へあがって「勝利の哲学」を語る、共同プレゼンテーションのような1冊になっています。
ひとり21話ずつ。ふたり合わせて全42話収録です。話題はじつに多岐にわたります。「テクニックとスキルは、何が違うか」「危機の時こそ、冷静な分析が必要」「自信をつけるためには、努力しかない」「人間の可能性には、限界などない」「大きなチャンスは、大きなリスクの中にある」「夢を持つな。目標を持て」「信頼とは相手に責任を持たせること」など。そこに登場する言葉はいずれも「勝利の哲学」へと帰結するものばかりです。
そのなかでも、とくに「勝利」に直結するのが「目標」「準備」「自信」という3つのキーワード。
エディーさんの言葉の要所要所に登場しています。
大きな視点に立ち、最終的には、数年後のワールドカップの試合を予測します。
ワールドカップでは、どのようなチームになって戦いたいか。どうすればなれるか。それを考えながら、私は常に仕事をしています。
日本代表HC就任後に彼が真っ先に行ったのは、3年後のワールドカップで強豪国を倒して数勝あげる、という「目標」を設定することでした。それは「夢」を持つということではないとエディーさんは強調します。
私は、夢と目標は明らかに違うと思います。目標が明確であるのに対し、夢は茫漠として非現実的です。目標は、今の私たちに強く働きかけ、力を呼び起こしますが、夢はそのような作用に乏しいと思います。
エディー率いる日本代表チームは、明確な「目標」を定めたからこそ「勝つための準備」、すなわち、世界に類を見ないエディー流「ハードワーク」にも取り組むことができたのです。
長年、ラグビーという勝負の世界にかかわってきて言えるのは、勝利をもたらすのは、自信だということです。これはスポーツに限ったことではありません。ビジネスも同じでしょう。(略)
よく、自信が持てないという人がいますが、理由は簡単です。準備不足なのです。
自信を持つ方法は、実に簡単です。準備と努力を重ねればいいのです。
準備や努力とは、貯金のようなものです。すればするほど、自信という貯えは増えていきます。努力をせずに、自信がないと嘆いても、仕方ありません。嘆いている暇があれば、努力をすればいい。そうすればいつの間にか、想像以上の自信がつき、見たことのない風景が見え始めます。
ここで気づくのは、3つのキーワードは、「目標」→「準備」→「自信」→というかたちで、「勝利」へ向かって一本道でつながっている、ということです。もし自分に「自信」がないのならそれは「準備」ができてないからです。もし「準備」に取り組めていないのならそれは「明確な目標」がないからです。エディーは淡々と諭します。「勝つための心構え」をただす格好の機会を、私たちに与えてくれるのです。
また、エディーの言葉を具体的なビジネスシーンに即して実践的に"解釈"する持田さんの言葉も、いざ自分の仕事に生かそうとする際にとても有効な補助線となってくれます。その意味で本書はエディー哲学の基本と実践を同時に学ぶことができる、とてもお値打ちな1冊です。
最後に、エディーが率いた日本代表チームの選手たちが重ねた「準備と努力」、つまりエディー流「ハードワーク」の中身について詳しく知りたいという方には、単著『ハードワーク 勝つためのマインド・セッティング 』(講談社)のご一読をおすすめします。
レビュアー
出版社勤務ののち、現在フリー編集者。学生時代に古書店でアルバイトして以来、本屋めぐりがやめられない。夢は本屋のおやじさん。