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2017.11.15

レビュー

澤田秀雄『変な経営論』要点──ハウステンボス再生と「変なホテル」なぜ?

1人もリストラせずになぜ?

2010年、経営破綻した長崎県佐世保のハウステンボスに、旅行会社であるエイチ・アイ・エスが経営に乗り出したというニュースは、大きな話題となりました。開業以来、一度も黒字になったことがない不良案件に手を挙げるなんて、なんて無謀なことをと誰もが思ったことでしょう。

私自身も番組のロケで、1995年当時のハウステンボスを訪れたことがあるのですが、不便だし、美しい街並と高級ホテル以外、遊ぶところがなく、絶対に自腹を切ってまでは行かないなと思った場所です。

ところが現在は、東京ディズニーランド、ユバーサル・スタジオ・ジャパンに次ぐ、第3位の動員数を誇る人気のテーマパークに生まれ変わりました。

しかも、1人もリストラをしなかったというのですから驚きです。

一体、何をどうやったら、そんな不可能を可能にできたのか?

エイチ・アイ・エスやスカイマークの創業者で、ハウステンボスの社長でもある澤田秀雄氏が、その秘密を教えてくれます。

さらに本書は、成功者の本にありがちな自画自賛ではなく、どういう理由からその方策を用いることとなり、どんな失敗をしたのかまで、具体的に包み隠さず書かれているのです。

ですから、経営者でなくても、ビジネス書を読んだことがない人でも、将来、何をやりたいか迷っている人でも、かなり面白く読めるようになっています。

表紙画像

日本企業に未来はあるのか? 日本人の働き方はどうなってしまうのか? あらゆる業種でビジネスの先行きがあまりに不透明な今、激変する近未来をどう考え、どう動けば正解なのか?ヒントは、「ハウステンボス」と「変なホテル」にあった。 澤田秀雄氏がハウステンボスでの成功の秘密と、変なホテルに象徴される今後への布石、その発想を初めてすべて明かした。

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「オンリーワンかナンバーワンしかやらない戦略」

さまざまな事業展開をしている澤田氏が、一貫して行っている戦略は、オンリーワンかナンバーワンしかやらないというもの。

ハウステンボスを蘇らせるために行ったイベントは、人気コミック『ONE PEACE』に登場する船を模した遊覧船でのクルーズ、100万本のバラが咲き誇るバラ園、九州で一番大きな花火大会、300機ものドローンを使った光のショー、プロジェクションマッピング、ハウステンボス歌劇団と多彩で、このどれもが、日本初や世界初だというのです。

しかし、ここにたどり着くまでには、数々の失敗があったそうです。その1つが陶器市。確かにこれは、オンリーワンでもナンバーワンでもありませんからね。

それでも「7割失敗しても3割成功すればよい」という成功者の言葉は、たくさん失敗しても大丈夫なんだよと勇気づけてくれます。


「素人という強みを生かす」

さらに澤田氏は、テーマパークを手がけるのは初めてというズブの素人だったといいます。

テーマパークに限らず、成果を収めた数々の事業はすべて素人であり、そこに配置された社員たちもほとんどが、その業界の素人で、専門家はほんの一握り。敢えてそうした人事を行った理由は、「素人は業界の常識と消費者のニーズのズレを的確に捉えることができるという強みがあるから」だといいます。

やったことがないからと尻込みをしたり、それを言い訳にしてはいけないと、また、背中を押された気分です。


「価格破壊に挑戦したロボットホテル」

これまで、業界の常識を覆す「価格破壊」にチャレンジしてきた澤田氏が、次に着手したのは低価格ホテル。

建設費、光熱費削減を目的とした省エネコンテナ(スマートハウス)をハウステンボス内に建て、自ら実験台となって寝泊まりしていたそうですが、最初のころはカーテンもなく丸見えで、モルモット状態だったというのだから笑えます。

さらに高い人件費を押さえるために、起用したのがロボット。

現在、「変なホテル」という名で、ハウステンボス、愛知のラグーナテンボス、舞浜の3ヵ所で展開していて大盛況だそうです。

ただし、ここでも笑える失敗談が紹介されています。当初、宿泊料の価格破壊を狙った澤田氏は、1泊を3,000円~20,000円までの入札制にし、宿泊の1ヵ月前に落札金額を決めるという方法を取り入れました。

ところがキャンセルが相次ぎ、メールを読むことができないロボットの代わりにホテル以外のスタッフまで投入する羽目に。価格破壊をねらったはずが、逆に人件費がかかってしまったのだと。

しかし、そんな失敗も、ここで開発されたロボットを売ることで、新しい事業に結びつけてしまうのですから、さすがとしか言いようがありません。


「世界から戦争をなくすために」という信念

また、誰でも電気を売ることができる電力の自由化に伴い、エイチ・アイ・エスの支店が全国に約300店舗あるという強みを生かして、エネルギー事業にも参入。

今までとは全く違う業種という印象ですが、「国の政策が大きく変わるチャンスを逃してはいけない」と、自由化まで半年しかない状態で事業を推し進めた、この行動力も驚きです。

しかしそれには、こんな思いがあったからでした。

──「旅行業は平和産業である」という信念がある。少しでも安いエネルギーを提供できれば、世界から戦争はなくなる。それが再生可能エネルギーなら、貧しくて化石燃料が買えない国でも自給できる──

こうした信念があったからこそ、事業を成功に結びつけることができたのかも知れません。

では一体、この信念は、どこから生まれてきたのでしょうか?


「若い人は海外へ行くべき」

澤田氏は、大阪の工業高校卒業後、アルバイトで学資金を貯め、西ドイツの大学に留学。留学自体がまだ珍しい時代に、西ドイツを選ぶというところが、らしいといえばらしいのですが、それと同時に50ヵ国以上を旅したのだとか。そして、ビルマで死にかけた経験が、今に大きく影響しているといいます。

──挑戦しなかったことを後悔しながら死ぬのだけは嫌だ。チャレンジして、失敗したとして、何か問題があるのか? お金を失うとか、人に笑われるとか、信用をなくすとか、それぐらいだ。べつに命をとられるわけじゃない──

言われてみれば、まさにその通りなのですが、実際にそういう生き方をして来た人から言われると、やはり説得力があります。


「優秀なリーダーをつくるには?」

会社を成功させる秘訣は、いいリーダーに任せることだと澤田氏は言います。でも、そのリーダーを見つけて育てるのが難しいんだよ、とツッコミたい人も多いと思いますが、これについても澤田氏の経験に基づいた持論が、本書の中で語られています。

しかも、協立証券(現澤田ホールディングス)の立て直しの際に、情報システムのトラブルが起きたり、法令違反で金融庁から処分を受けたり、ライブドア事件に巻き込まれたりという失敗談があったからこそだと、隠したくなるようなことも正直に語られているので、納得してしまいました。

このほかにも、上に立つ者として部下をどう扱ったらいいのか、ビジネスに結びつける勘はどうやって培ってきたのか、どうすれば健康でいられるのかなど、とにかく、さまざまなアドバイスを受け取ることができます。

この本は、起業家はもちろん、こうしたビジネスとは関係ない人でも、もうちょっと頑張ってみようかなと思わせてくれる1冊だと思います。

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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