水族館は魚を見に行くところ、と思っている人が多いと思うが、その認識は正確ではないと思う。魚を見るだけなら、魚屋のイケスでもアリだと思うが、水族館の展示はひと味もふた味も違う。多くの水族館が目指しているのは「命」の展示であり、魚(生き物)の生き様を見せることであるからだ。
『中村元の全国水族館ガイド125』をめくると、各水族館が力を入れる、数々の命の展示を発見することができる。展示の狙いや効果までに解説が及んでいるのは、水族館プロデューサーの著者だからこそ出来ることだろう。前回のレビューで紹介した「ただただ、ボ~っ」と楽しむ水族館もいいが、本書をきっかけに知的好奇心を刺激する水族館の楽しみ方にもトライしてみてもらいたい。
知的好奇心や命の展示と書くと、とたんに敬遠したくなる人も出てきそうだが、難しいことはまったくない。たとえば、水族館の人気展示、パフォーマンスショーからも実感できるはず。たとえばイルカショー。著者によれば「観覧者に感動を与えるポイントは、トレーナーとイルカあるいはイルカ同士のコミュニケーション能力であり、それによって実現する息の合った行動だ」と解説するとおり、イルカたちの素晴らしい演技のなかに、私達は無意識に、すごい能力を感じ取って楽しんでいるというわけなのだ。
では、そんな生き物たちのすごさを実感できるショーを楽しめる水族館を本書の中からいくつか挙げておきたい(P74 コラム「海獣パフォーマンスがすごい」水族館より)。
1)アドベンチャーワールド
規模、スピード、ストーリー性、どれを取っても飛び抜けており、最高!
2)名古屋港水族館
日本最大のプールでイルカの飛距離は本物の海並み。シャチも登場する
3)鴨川シーワールド
シャチのショーは大迫力で感動。シロイルカの水中ショーはここが日本初
4)伊勢シーパラダイス
元祖かつ究極の柵無しふれあいショーは泣く子が続出するド迫力だ
5)マクセル アクアパーク品川
円形スタジアムのプールにシャワーや光が交錯しイルカが演技
このなかで異色なのは、伊勢シーパラダイス。柵無しのふれあいショーで、著者によれば「観覧者のいるギャラリーに、セイウチやトド、アザラシが出てきて吠える! 触れられる! 挙げ句にはセイウチにお尻をバンッと叩かれる! 毎回チビッコが何人か泣き出すほどの迫力だ」という。また「実はヒレアシの仲間たちは、他種の生物と争うことがなく、野生の群れに人が訪れても逃げたり襲ってきたりしない。そのヒレアシ類とフィールドで出会う感動を展示したのがこの柵無しショーだ」ということだ。これは、行かない手はない!
本書には「ショー」や「海獣度」を示す評価表が掲載されている。ファミリーでのお出かけに、大いに参考になることだろう。きっと大人も子どもも楽しみながら、発見と感動を味わえるに違いない。夏の思い出に、また子どもの自由研究のテーマに活用するのも面白いと思う。
写真:中村 元
レビュアー
陸・海・空すべての乗り物とフィールドを愛するフリーライター。目指すは全天候型の物書きだが、猛暑と寒さに弱く、道のりは遠く険しい。