夏がやってきた。
暑さで何をやるのもおっくうになるが、そんなとき心と身体に潤いを与えてくれるのが、水族館である。
水族館といえば、ファミリーやカップル向けお出かけスポットの定番だが、大人なら「おひとりさま」で行くのが、実は最先端だと思う。
マニアのように、魚や生き物に詳しくある必要なんてない。解説を丁寧に読む必要もない。何もかも忘れて、お気に入りの水槽の前で「ボ~っ」とするのが一番だ。チコちゃんに叱られたって気にしない、気にしない。
この「ボ~っ」とするのを楽しむのに、注目のキーワードがある。それが「水塊」だ。実はこのキーワード、サンシャイン水族館の「天空のペンギン」水槽など、斬新な展示を手がけた水族館プロデューサーの中村元氏が生んだ言葉。「水塊」という文字から連想できるように、まさに水の中にいるかのような浮遊感や清涼感・光のきらめきを体感できる水槽のことである。
つまり「ボ~っ」として癒やされたいなら、水塊度の高い水槽を見に行くのがいい、というわけ。
そこで参考になるのが本書『中村元の全国水族館ガイド125』。「水塊」に人一倍厳しい著者が、全国の水族館を実際にまわって総チェック。すべての水族館に対して「水塊度」を評価しているのだ。北は稚内から南は沖縄の美ら海水族館まで、その数125カ所。全水族館の水槽をナマで見ているのだから、その評価は確かだ。
参考までに、水塊度の高い水族館を本書の中からいくつか紹介しよう(P52 コラム「魅惑的な水塊がある水族館」より)。
1)名古屋港水族館
圧倒的な水量という力業で極上の水塊を実現。しかも複数、魅力的な水塊水槽がある
2)サンシャイン水族館
遠近法を駆使した最新の水塊がある(写真)。空を借景にした「空と飛ぶペンギン水槽」の浮遊感も魅力的
3)沖縄美ら海水族館
元祖水塊水槽。巨大水槽にジンベイザメの浮遊感が積算される
4)しものせき水族館 海響館
世界最大級のペンギン水槽がある。ペンギンの躍動感と立体感が圧巻
5)アクアマリンふくしま
自然光の射す水槽と、暗い親潮や深海のコントラストがダイナミック
いかがだろうか。
写真を見ているだけでも、十分に癒やされてくるが、実際の水槽はまた格別だ。生き物たちが生み出す水や光のゆらぎ、そして生き物そのものの動きが、水槽に命を与えているかのようで、いつまで見ていても見飽きないはず。
ぜひ本書を片手に、この夏はお気に入りの水槽探しを楽しんでもらえたらと思う。
なお、水族館といえば、やっぱり「魚」や「海獣」をしっかり見たい! と思う方、そんな方も安心されたい。本書の解説には、珍しい魚や一度は見ておきたい秀逸のパフォーマンスなどもたっぷり紹介されている。ファミリーでのお出かけにもきっと役立つはず。
写真:中村 元
レビュアー
陸・海・空すべての乗り物とフィールドを愛するフリーライター。目指すは全天候型の物書きだが、猛暑と寒さに弱く、道のりは遠く険しい。