読み進めるうちに活気がみなぎってくるのを感じた1冊です。クラウドクレジット社を率いる著者の融資型クラウドファンディングへかける思いが熱く伝わってきます。融資型クラウドファンディングという言葉を初めて耳にする人も、この本を読み終わる頃にはその世界が持っている可能性に気づかされ心惹かれるでしょう。
融資型クラウドファンディングってなに?
クラウドファンディングという活動も最近ではだいぶ知られてくるようになりました。新製品の開発、新商品の輸入、書籍の翻訳、映画の制作など、プロジェクトを立てて賛同者、資金提供者などを広く募り、プロジェクトが達成したときには出資者になにかのリターンをするという活動です。リターンとしては製品・商品の廉価提供、映画等ではクレジットや関連グッズの提供などがあります。(ちなみにこの「クラウド」は「CROWD=群集」を意味していて、「CLOUD=雲」というものとは異なります)
融資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング、貸付型クラウドファンディング)はこのクラウドファンディングの延長で生まれました。
「融資を受けたい人」と「金利を得たい人(=余裕資金を運用したい人、投資家)」との間を仲介するビジネスのことです。貸し付けた資金には金利が付き、資金を必要とする人、余裕資金を意義ある社会活動に出資したい人、双方にとってメリットのある関係の構築を目指します。
本来、金融機関は「お金が余っているところから不足しているところに、お金を流すことを業(ぎょう)として行っている事業者」のことですから、融資型クラウドファンディングはその本来の事業を現代風にインターネットで行っているということになります。
相手の顔が見える投資
融資型クラウドファンディングが生まれた背景には既存の銀行などの融資が必ずしも生きた融資になっていないということがあります。銀行の融資状況については本書で「預貸率」を使った分析がありますが、それによると実に3分の1の預金がうまく活用されていないそうです。「資金需要が十分に出てこない」状態なのです。金融緩和政策で世の中に出回るお金の総量は増えたはずなのにこれでは経済は円滑に働きません。
ところが、世界を見渡せば資金不足で悩んでいる新興国は数多くあります。けれどいまの銀行のやり方では柔軟に対応できません。著者がいうように「本当にお金を必要としている人」に届くようにはできていません。
21世紀の今、世界では、事業と社会を成長させる「やる気」も「能力」もあるのに株式や債券という伝統的な資本市場と銀行融資ではリーチできず、資金不足のため、事業を実行したり拡大したりすることができていない方々が溢(あふ)れています。
このように世界に目を向けて、資金を求める人たち(企業、グループ等)と投資家とのマッチング事業、「本当にお金を必要としている人に直接的に、お金を届ける」というのが融資型クラウドファンディングです。
これはまた、事業利益率が高い「新興国の成長産業」を投資(融資)先としていることから高い利回りが期待できるというのも融資型クラウドファンディングの特長です。
実践の手引きとしても読める好著
投資ですからリスクがないわけではありません。たとえば新興国投資なので返済遅延などのリスクが考えられます。さらに為替変動の影響もあるでしょう。なにより「自分のリスク許容度がどの程度かをしっかり把握」し、「株式投資のようにハイリスク・ハイリターン(であることが多い)と心に留めて」おく必要があります。ですが、長期投資、分散投資などリスクを少しでも回避する投資術もこの本で紹介されています。融資型クラウドファンディングに興味を持った人は必読。とても具体的に投資の心構えや投資法が書かれているので、実践の手引きとしてもこの本はとても役に立つと思います。
元気がでてくる1冊
この本で著者が紹介した融資型クラウドファンディングには大きな可能性があります。顔の見えない投資(資産形成)では感じられない社会参加が感じられるかもしれません。また融資先の事業の展開をリアルに知ることで経済のダイナミックスを感じることもできるでしょう。
財テクということだけでなく「事業としての投資」、社会を成長させることへの参加としての投資、それが著者の抱いている夢です。これは新たな金融資金の流れを創ることにもなります。そこには大きな「夢」があります。クラウドファンディングは確かに事業・プロジェクトへの投資ではありますが、それがそのまま人への投資であり、人と人とをつなぐものでもあります。それを思わせる1冊です。
ところで、とても興味深いエピソードで綴られた著者のクラウドクレジット社を設立するまでの半生もまたこの本の魅力となっています。さまざまな点で読む者に「やる気」を起こさせてくれる本です。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の2人です。