「大金持ち」になるには2つの方法がある。著者によれば、1つは「起業家」、もう1つは「投資家」になることだ、と。けれど「起業家」には資本や人脈、そして何より事業を興すための努力が必要。となるとそれを実現する可能性が高いのは「投資家」ということになる。つまり、明日からでもできる「投資家」を目指すべきだ、と。とはいってもどのように「投資」で成功できるのか……その秘訣がこの本にあります。その秘訣の教え方がとてもユニークな本です。著者は国際金融コンサルタントで投資家の菅下清廣氏、"経済の千里眼"の異名を持つ相場のスペシャリスト。
この本を開くと「お金の使い方」「お金に好かれる人」「働き方」「生き方」「株式投資」という5つの章に、総数26のトビラ(設問項目)があります。このトビラを1つずつ正しく開けていくと、その先には「大金持ちになる」道が開けてくる。「お金持ちとしての思考・行動が身につく」ようになっていきます。重くて開けにくい(難しい)トビラではありません。気軽にできるようになっています。
たとえば次のようなトビラにはどう答えますか?
・投資をしたいが経験ゼロ! あなたなら?
選択肢は2つ
1.初心者だから、リスクが低いと言われる債券から始める
2.損をするのも勉強だから株式投資から始めてみる
正しい選択は2。設問のあとのワンポイントレッスンにこうあります。
初心者はリスクを過度に嫌うため、低リスクの金融商品から投資を始める傾向にあります。(略)一見正論に見えますが、これではお金は儲かりません。投資は知識だけでは不十分で、経験が不可欠。自分でやってみないとわからないことが多いのです。
次のはどうでしょうか?
・お金儲けばかり考えている友人からの儲け話! あなたなら?
1.話を聞いてみて、可能性を感じたら話に乗る
2.自分の頭を使って行動しなければ成功しないものとだから断る
こちらも正しい選択は2。こんな注意が載っています。
本当にうまい話だったとして、お金儲けのことばかりを考えるような人が他人にその話を教えるでしょうか? そんなはずはありません。話を聞くだけ時間の無駄です。
時間のムダというのが重要なキーワードです。さらに「お金持ち(一流の投資家)」になるためにはしてはならないムダがあります。
1.時間
2.体力
3.ネットワーク
体力、ネットワークという人脈はいわずもがな、ついムダ遣いしてしまいがちな時間もしっかりコントロールできなくては一人前になれません。
このように1つずつYes/noの答えを見ていく中で「投資家」として意識・自覚しなければならないことがはっきりしてきます。なによりも強い意志と覚悟です。それを身につけなければ「大金持ち」にはなれません。
そしてそれは投資家を目指す始めから身につけなければなりません。著者がメリルリンチへ転職したときのエピソードが載っています。著者の教育係となった先輩がこういったそうです。
「いいか、スガシタ。ウォール街で生きるために必要なこと、それはまず、身だしなみだ」
これは贅沢ではありません。自覚をうながすとともに、自己投資そのものだからです。これが著者の考え方です。
一流を知ることは、成功者やお金持ちの思考やセンスを知る意味でも重要です。ファーストクラスの人間に形だけでも近づくことで、自分に自信が生まれ、それが仕事上の自信にもつながります。
もちろん一流の人びとが入会している場、たとえばスポーツ・ジムへも入るべきです。そこには一流の人びとのネットワークがあるからです。そこに「大金持ちへのヒント」があるからです。知り合った「成功者」からは「ダメもとでもしたがってみる」、そこには成功者だからゆえの知恵があるからです。もちろん人の話に素直に耳を傾けることの重要さもあります。
ところで「大金持ちになりたいという夢」と「大金持ちになるという意志」は想像している以上に異なっています。
著者もまた「大金持ちになるという意志」を貫いてきました。では、どのように生きてきたのか……その姿はこの本のいたるところからうかがえます。ですからこの本の実践法は、投資の最前線で生き抜き、その結果を出した人ならではのものといえます。
たとえば、著者は大和証券在職時、自ら「一番厳しい」支店へ行かせてくださいと申し出ます。そこは毎朝7時に出勤しなければならなくなるような職場でした。
たいへんな環境に身を置くことで、自分を鍛えることができる。そこを乗り越えれば、苦労した分だけ成長幅が大きいことがこれでおわかりでしょう。将来、お金持ちになりたいのなら、今はあえて苦しい場所に身を置くべきです。
また、信頼できる人からのアドバイスを大事にしたから開けた「運」というものが著者にもあったようです。もちろん人は幸運ばかりではありません。上司に恵まれないこともあるでしょう。そんな時は……、
能なし上司と正面対決はダメ! 仕事の手は抜かず、上司が異動するのを待ちなさい。
正面対決は時間のムダ、自分の意志を強くして次を待つ、このほうが有効な時間の使いかたです。
このように、サラリーマンの生き方、仕事の仕方について語られたとこもこの本の隠れた(?)魅力です。著者の半生の歩みとともに語られた、仕事への取り組み方、仕事先との付き合い方などには多くにサラリーマンへのアドバイスにもなります。
アドバイスといえば、投資初心者への問いかけと回答が著者の特徴をとてもよくあらわしています。
・投資の勉強を始めたい! あなたなら?
1.証券会社などの金融機関主催の無料セミナーに参加する。
2.投資で成功した人の自伝を徹底的に読んでみる
正しい選択は2。なぜなら、さまざまな「必勝を謳う投資法」があふれているのは「『これが正解だ』という大本命がないから」ということだからです。
特に投資初心者は、こうしたテクニックに頼ろうとするのはやめておいたほうがいい。むしろ、株式投資とはどういうものか、その大局をからだでつかむほうが勝ちに近づけます。
著者が実践の参考になる投資家としてあげたのは3人、ジョージ・ソロス、ウォーレン・バフェット、ジム・ロジャースです。投資家を目指すならば、これらの三者三様の投資スタイルを知って、「誰かの投資方法を真似」して「体感」することを進めています。(3者の投資スタイルの特徴はこの本で)
さらに初心者には投資の世界の「イメージトレーニング」として石田衣良氏の小説を読むことを奨めています。これもまた自らの経験の上にたつ著者らしい実践法の特徴があらわれているようです。
さらにいえば、「大金持ちになってなにをしたいのか?」という(究極?の)問いかけもあります。ここもまた、著者らしいというべきでしょう。(この問いへの回答はこの本でさがしてください)
この本は、投資のノウハウ、あるいは投資家の心構えも含めて、どのように投資に世界に向かうかをyes/noクイズゲーム風に考えさせる実践書です。でもそれだけではなく、厳しい投資ビジネスの世界を生き抜いた著者が教えるビジネスマンとして成功する法としても読める1冊です。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の2人です。
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