ニュースの本質を読み解くために!
じぶんが若い頃に、こんな「おとな事典」があればどんなに心強かっただろう。本書を手に取った瞬間そう思った。
“政治と経済のしくみ”の基本の基本を、あのニュース解説の達人・池上彰氏が、ワンテーマにつき見開き2ページ完結でバッチリ解説してくれている。まさに新社会人必携の1冊だ。
いざ社会に出て働き始めたら、自分の“知ってるつもり”がいかに役に立たないか思い知る。公言しないだけで、多くの人がそう感じるのではないだろうか(筆者はそうだったなぁ)。そんなとき、本書をひらけばいい。実社会へのよき水先案内役となってくれる。
筆者の場合、まずつまずいたのが新聞・ニュースだ。「社会人たるもの、ちゃんと新聞を読まなきゃいけないよ」。それが20年前の新社会人に向けられる王道のアドバイスだった。そこで毎朝、新聞をひらいてみるが、来る日も来る日もニュースの本質に近づけず苦労した。連立、離脱、解散を繰り返す「政界再編」、大企業の倒産やリストラが続く「経済不況」……。いったいどのあたりから自分と関係してくるのか、実感がわかない。ニュースを読むための下地がなかったのだ。
本書が授けてくれるのは、日々目にするニュースの価値を判断し、読み解いていくための下地だ。ニュースの根幹について必要な解説のすべてが、この1冊に詰まっている。手元に置いておけば、いつでも振り返ることができる。新聞に限らず各種ニュースアプリを読むのも一段と楽しくなるはずだ。
先輩が語りかけてくるような見出しが秀逸
もっとも書店に行けば「政治経済の基礎知識」を扱う“事典”類は他にもある。筆者の記憶を振り返れば、高校時代の「政経用語集」や、あまり熱心でなかった就活期に試しに買った「一般教養」本なども思い浮かぶ。
しかし、本書はそれらと一線を画す。その特色のひとつが、「見出し」の素晴らしさだ。先輩が語りかけてくるようなフレーズ(見出し)にまず引き込まれてしまう。
本書は政治、経済、国際情勢の3章仕立て。各章には、それぞれ「政治を知らなければおとなじゃない!」「企業活動に必須! 経済の基礎知識」「国際情勢を知れば、日本がみえてくる」の大見出し。
各章には「みんなのお金」を集めて使うのが政治の役割」「「ねじれ」があると話がまとまりにくい」「官僚を使いこなすのが真の「政治主導」」「投票だけでない政治参加の方法」(政治の章)、「モノの値段が安くなるデフレ。じつは困る」「私たちは国にも地方自治にも税金を払っている」「給与明細をみて「天引き」に驚かないように」(経済の章)などの見出しが立つ。
こうした見出しが、たとえば政治の章であれば、政治の基本、国会・内閣・選挙のしくみ、地方の政治、憲法といった中分類ごとに関連する話題が隣りあって並ぶ。頁をめくるたび、芋づる式に理解が深まる仕掛けだ。
1テーマ見開き完結
もうひとつの特徴は、1テーマ“見開き2ページ”完結型のページ構成。数ある池上彰氏のニュース解説本のなかでも、見開き完結タイプは本書だけである。見開きで見出し・リード・図解・本文・4コマ漫画を順繰りに眺めながら頭のなかを整理していくのにも好都合だ。
たとえば、政治の基本についての最初の話題。
<「みんなのお金」を集めて使うのが政治の役割>の見出しによって、解説内容の本質が1行でまとめられているので、読者としては安心して読み始むことができる。続いて、見出し下のリード文、さらにはイラスト図解とフローチャートの右上に置かれたリード文に目を移せば、そこには「みんなの~」「私たち~」という語りかけ。徹底して「ひとりの社会人として働いて、暮らしていく」生活者としての目線に応えようという思いが伝わってくる。4コマ漫画もニクい演出だ。本文で触れると客観性が削がれてしまうような尖った表現やユーモアが挿入されることで、テーマの理解を助ける大事な補助線になる。
池上彰の「伝える技術」が随所に生かされている
見出しと見開きページへのこだわり。本書の2つの特徴は、まさに監修者である池上彰氏のニュース解説の極意そのものだ。
池上氏の代表作に、ニュース解説の極意を伝授して話題となったベストセラー『わかりやすく〈伝える〉技術』(講談社現代新書)がある。同書のなかで、3つの極意が述べられていた。①話にはリードをつける、②誰に向かって伝えるかを意識する、③図解してから原稿を書き直す。これらのエッセンスは本書にズバリ生かされている。見出しやリードのつけ方に①と②が、見開き2ページの構成に③が実践されている。『わかりやすく〈伝える〉技術』が具現化したものが、本書『おとな事典』とも言える。もし、どちらか未読ならぜひ併読をおすすめしたい。
レビュアー
出版社勤務ののち、現在フリー編集者。学生時代に古書店でアルバイトして以来、本屋めぐりがやめられない。夢は本屋のおやじさん。