「株のことはよく分からないけど、とにかく儲かる銘柄が知りたい!」そんな人にぴったりなのがこの1冊。2020年の東京オリンピックの"後に伸びる"という視点で取り上げた217企業をまとめて紹介してくれている本です。
平成27年度に実施された日本証券業協会の調査「証券投資に関する全国調査」によると、株式を保有している人の割合は約13%。8人弱に1人といったところでしょうか。株式を「今後1年以内に購入したい」「時期は未定だが購入してみたい」とした人の合計の割合は、平成24年度が7.5%、平成27年度が12.7%と関心が高まっていることがうかがえます。
ですが、株式投資をしてみたい……と思っても、初心者にとって最も困るのは「銘柄が多すぎていったいどれを買えばいいのか分からない」という点ではないでしょうか。世の中には怪しい投資セミナーや儲け話が溢れかえっていますが、情報の取捨選択が難しく「何を信じていいのか分からない」というのも株へのハードルを上げている点でしょう。
その点、本書の著者の経歴は、大学卒業後にラジオ局に入社、東証記者クラブで金融マーケット取材を担当、海外での生活経験を経て1993年、東洋経済新報社に入社し「週刊東洋経済」「会社四季報」「就職四季報」に執筆。株式雑誌「オール投資」の編集長も務められ、べストセラーに『みんなが知らない超優良企業』『無名でもすごい超優良企業』などもあり、銘柄のリサーチに関してはプロ中のプロ。
株式投資の勉強で「会社四季報」を読み込んだ経験のある方も多いかもしれませんが、その本を作っている側の“プロ”がまとめた情報なので信頼性は抜群です。
本書の構成は
第1章 電気自動車で儲かる企業群【パート1】
第2章 電気自動車で儲かる企業群【パート2】
第3章 外国人相手に稼ぐ企業
第4章 イスラム関連ビジネスで伸びる企業
第5章 国内の少子高齢化に勝つ企業
第6章 社会貢献企業に投資しよう
となっており、電気自動車に1、2章をガッツリと割いて解説しているところに著者の関心の高さが伺えます。
■東京オリンピックを境に日本の景気はどうなる?
ちなみに過去のオリンピックの事例をもとに「東京オリンピックを境に景気が悪くなるのでは?」と懸念されている方も多いのでは? その点については著者は以下のように考えています。
前回の東京五輪は1964年10月10日から24日まで開催された。そのため、その2年前の1962年10月から1964年10月まで好景気が続き「五輪景気」と呼ばれた。五輪終了後は不況に突入したが、翌1965年10月を底に不況を脱し、経済成長は1970年7月まで継続した。この57ヵ月間に及ぶ景気拡大期間を「いざなぎ景気」と呼ぶ。
これを今回の東京五輪に当てはめてみよう。パラリンピックが終了するのが2020年9月。その後景気が低迷しても、2021年9月を底に不況を脱し、2026年6月まで景気が拡大することになる。
もちろん、60年前の状況がそっくり同じようになるとは言えません。ですが、2027年に完成予定のリニアモーターカーや東京・日本橋の大規模再開発、名古屋駅に完成する巨大ビル(高さ180メートル、全長400メートル)などによる経済効果から先行きは明るいと予測しています。
著者が本書で選んだのは217の企業。なぜその企業を選んだのかの視点が詳しく書かれているので、一部をご紹介します。
■電気自動車の普及によって変わるもの
2017年9月に天津で開催された自動車フォーラムで中国工業情報省の高官が「化石燃料の生産や販売を禁止する時期の検討に入っている」と発言。世界中の自動車関係者に衝撃を与えた。
同年7月イギリスとフランスが2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止すると発表し、EVへの関心が高まってはいた。
(中略)
ところが中国高官の発言によって、「次世代の環境対応車はEVで決まり」という流れができあがった。EVはエンジンではなく、モーターで走るのでこれまでエンジン関連の部品を製造してきた企業は仕事を失う。その一方で、新たな企業が自動車産業に参入する機会を得る。
EVの主要部品は電池、モーター、この2つを結ぶインバーター(直流を交流に変換する装置)などだが、その他にも重要な素材・部品が多数ある。
電気自動車としてまず名前が上がる「テスラ」ですが、その重要なパーツであるリチウムイオン二次電池の発注先はパナソニック1社だそうです。しかしパナソニックは出荷量世界シェアトップの位置を2017年に中国の寧徳時代新能源科技(CATL)に抜かれました。
そしてさらに、リチウムイオン二次電池(LIB)の次の電池として注目されているのは全固体電池です。
現在のLIBでは液体である電解質を固体にして、正極と負極を含めた部材をすべて固体で構成する。正極と負極の接触を防ぐセパレーターは不要だ。電解質が固体であるので液漏れのおそれがない。またLIBは電解液が可燃性のため衝撃によって燃えることがあるが、固体の電解質は難燃性のため安全性が高い。
全個体電池のメーカーの「伸びる企業」としてはマイナス30℃でも稼働する性能を開発した「オハラ」や、長期間の使用に耐える性能を開発した「日立造船」、量産化に成功した「TDK」、チタンを配合し従来の5倍のイオン伝導率を達成した「東邦チタニウム」などが紹介されています。
こういった情報を知っていれば、自分なりの知識や予想と組み合わせてさらなる情報を拡げるきっかけになるのではないでしょうか。
また、本書のテーマである「この先伸びる企業」という視点は、就職先、転職先の候補という視点で読んでも面白いはず。これから儲かる銘柄のヒントが手っ取り早く欲しい、まだ株式投資をしたことはないけれどいつかは始めてみたい、倒産しない企業が知りたい、そんな人がとっかかりにするには「ハズレのない」1冊になるでしょう。
レビュアー
20代のころは探偵業と飲食業に従事し、男女問題を見続けてきました。現在は女性向け媒体を中心に恋愛コラム、男性向け媒体では車のコラム、ワインの話などを書いています。ソムリエ資格持ちでお酒全般大好きなのですが、花粉症に備えて減酒&白砂糖抜き生活実践中。