わたくしごとですが40歳になりました。冒頭からいらぬ告白をすみません。40歳になったことの精神的ダメージが想像以上に大きかったので、つい……。
頭ではわかっていたけれど、実際迎えてみると信じられないというか受け入れられない自分がいました。
「老い」の実感。やはり「老い」は怖い。
40歳になった瞬間一気に届いた特定健診やがん検診の受診票。(ああ……受け入れたくなくてまだ受診していない)
それらを目の前に、否応なく「あなたは病気の可能性がある、そうでなくても近い将来病気になるのよ! 弱っていくのよ!」と言われているようで辛い……。
老いといえば、自分だけでなく周りも同時に年を取っていくわけです。夫はアラフィフ。夫の両親は2人ともガンで既に亡くなっています。夫がガンになる可能性を考えると恐ろしすぎです。そして私の母親は70歳でまだ比較的元気ですが、一度でも転倒して骨折……などの事態になれば寝たきりの可能性だって否めない。
人生の後半戦がこんなに恐ろしいものだったなんて!
元気に楽しく生きているように見えるみなさんも、こんな恐ろしさと戦ってアンチエイジングに励んだり、もしくは忘れようと現実逃避したり、はたまた悟りを開いて受け入れて生きているんでしょうか……?
著者の医師・和田秀樹氏は、老いを受け入れるマインドがないと、いざ介護される立場になった時に本人も家族にも負担がかかると警告します。
私が本書を書こうと思ったのは、ある程度の年齢に達するまで「老いに抗(あらが)う」にしろ、その後に「老いを受け入れる」にしろ、どの年代でどういうことが自分の心身に生じ、それは実際にどのようなものなのかを教えてくれる「人生の未来予想図」のようなものを携えていることが、「平均寿命80歳超」時代を生きる私たちの大きな助けになりうると考えたからです。
さらに
本書の特色といえるのは、将来自分の心身になにが起こるのかという「傾向」を述べるだけでなく、私が30年以上にわたって高齢者専門の精神科医をつづけてきた経験から、可能なかぎりの「対策」を提言している点です。
……老いはたしかに怖い。でもいずれ必ず迎えなければいけない事実を受け入れ、そのリスクを少しでも減らせるよう対策をしておけば、なにかが起きる前の恐怖も減るし、実際起きてからも確実に差があると思います。
災害に向けて避難訓練したり非常持ち出し袋を用意しておく・しないの違いに近い気がします。
自分の場合、子どもたちに迷惑をかけることは本当にしたくない。そう、怖がっている場合ではない……! 早速本書に従って、老いにより起こる現象とその対策を学んでいこうと思います。
前頭葉の萎縮が始まる40代
まずは身近な40代から探ってみます。
脳の萎縮は「なんとなく定年の60歳くらいかな?」と想像していたらまさかの40代! 早い!
じつはこうした「きれいな」脳の状態を、特に努力もせずに維持できるのは30代が限界です。後述するように萎縮の進行度合いにはかなりの個人差はあるものの、早ければ40歳を過ぎた頃から頭蓋骨と脳のあいだにちょっとずつ隙間ができはじめ、その隙間は年をとればとるほど大きくなっていくものなのです。
前頭葉の萎縮が肉眼で確認できるほど進むと、30代までのその人とくらべて、意欲とか創造性といった能力が明らかに乏しくなってきます。
そして50代や60代に入り、さらに本格的に前頭葉機能が落ちてくると、今度は感情を抑制する力も衰えてきますから、人によっては些細なことでカッとなって部下や家族を罵倒してしまうことが増えるでしょう。
うっすら気づいていながら気づいていないふりをしていました……。意欲の低下。このまま意欲も創造性も衰え、キレる老人まっしぐらなんでしょうか。助けて!
でも安心してください。この本はきちんと対策が書かれているのです。
前頭葉を鍛えるための手っ取り早い方法としては、日常生活におけるルーティーンをなるべく避けることがまず挙げられます。
本書で「軽い保続」と表現される「今までのやり方を変えたがらない」、「同じ店でしか食事をしない」、「初めて行く場所が億劫」などの症状、すでにあります。慣れた場所で慣れたことをやるのが楽で、ついそうして過ごしてしまう。でもこれからはいつもと違う道を歩いてみよう、違う街・違う店に行ってみようと決意!
そして
もう少し知的な前頭葉の鍛え方としては、自分とは真逆の、相容れない意見の本をあえて読んでみるのも良い刺激になります。
……すごく簡単なことのように見えて、無意識に遠ざけていることではないでしょうか。自分と反対の意見や思想に対して近づかないとか、敵対心を表してしまいがちですが、一度正面から向き合ってみれば新たな発見もあるでしょう。刺激物として楽しんでみるという視点の変換、取り入れたいものです。
アルツハイマー病への誤解
年代を少し飛ばして70代の話。70代後半になると8~10%の人が認知症になるそうです。そのうち6割以上がアルツハイマー型認知症とのこと。
過去に何度か老人福祉施設を見学したことがありますが、そこで見た虚ろな目のご老人の姿ばかりが目に焼き付いて、アルツハイマーにかかったら、記憶障害はもちろん、知性も理性も感情もなにもかも失われてしまうのかと恐ろしいイメージしかありませんでした。
でも本書を読んでイメージが一転しました!
こうした(アルツハイマーになったら基本的には知能が失われるという)意見に対して私が何度でも強調しておきたいのは、アルツハイマー型認知症においては一般的にまず記憶力が低下し、その後に知能が少しずつ低下してくるのは事実であるものの、じつはアルツハイマーがかなりの程度進行した人でも、依然として多くの残存機能を有している、ということです。
例としてロナルド・レーガン元大統領が、在任中も記憶障碍が始まっていたと推測できることが載っています。アルツハイマーでも軽度であれば、アメリカの大統領が務まり、かつ歴史的な業績を残せるほどの知能を有しているということだと。
とても勇気が出る話です。
そして同じ脳の萎縮の程度があっても、明晰さを保てる人はやはり頭を使っているとのことです。
問題はどうやって「頭を使う」かですが、私の経験上、もっとも効果が高いと感じられるのはやはり人との会話です。他人とのお喋りでは、自分の話したことに対して相手からの反応が返ってきますし、強制的に頭を働かさなくてはいけない局面を増やせるのでしょう。
さらに、声を出すという行為それ自体にもポジティブな効能があるようです。
お喋り最強説! 逆に1人きりで黙って過ごしていたら知能の低下まっしぐらということですね……。
70代の母親に気を付けてもらわねばいけません。ママさんコーラスも続けてもらわねば。
対策をしておけば老いたとき後悔しない!
本書はほかにも、
50代では鬱病のリスク増大に気をつけろ
60代では介護離職は危険
80代では「できないこと」ではなく、「できること」に注目する
などの傾向と対策を細やかに示してくれています。
「正直なことを言えば、私は健康診断については受ける価値などほとんどないと思っています」、「意味があるのは脳ドックと心臓ドックだけ」という、日本の医学会的にそれ言っても大丈夫なんですか?とこちらが不安になりつつも(笑)、たまらなく興味深い話も掲載されています。その真相はぜひお手に取って確かめてください!
本書を通じて、老いのプロセスについて、知らなかったことによってひどい目にあうことだけは避けるための一助になれば、著者の本意です。
必ず迎える老い、そして死。
その時に後悔したり苦しんだりしないよう、前もって対応するに越したことはありません。
人生折り返し地点を過ぎた大人のみなさんにぜひ読んでいただきたい教科書的な1冊です。
レビュアー
一級建築士でありながらイラストレーター・占い師・芸能・各種バイトなど、職歴がおかしい1978年千葉県生まれ。趣味は音楽・絵画・書道・舞台などの芸術全般。某高IQ団体会員。今一番面白いことは子育て。