数年前、いわゆる「メタボ検診」で引っかかり、このままではあっという間に死にますよと驚かされた。空腹時高血糖、高血圧、高脂血症のすべてがアウトで、適度な運動をし痩(や)せて生活をきちんとしたものに戻さないと、長生きができないどころか、糖尿病、動脈硬化などによる重篤(じゅうとく)な病はすぐそこだと脅かされたわけである。
だが、こんな脅しも筆者のようなベテラン「不規則生活者」には初めてのことではないし、それほど心に残らない。見てもよくわからない検査結果を引き出しの奥にしまい込み、(その晩はともかく)翌日には脂っこい食事をつまみながら深酒をしていたりするのがだいたいのパターンである。
だが、今回は違った。わたしはある意味医者の言っていることに感動し、ダイエットと生活改善を決意した。それはわかりやすかったからだ。
検査結果をもとに診察をしてくれたのは、なんでも血液学が専門の「あんちゃん」先生(ロン毛、消化器内科勤務)だった。「あー中丸さんが60歳過ぎならまだしも、まだお若いのにこの数値だとあっという間に死にますね」と、あんちゃん先生は笑いもせずに言った。これほどまでにはっきりとリスクを口にしたことにわたしは感動し、なぜか急に「やる気スイッチ」が入ったのであった。
紆余曲折あったものの半年のダイエットと生活改善で体重は見事に落ち、さまざまな数値が改善され、とりあえずの危機を脱した。
何ヵ月目かの診察のときの話である。ほぼすべての数値は問題なかったが、どうしても中性脂肪だけが正常値の範囲を超えていた。検査結果表を前にして、わたしは「でも、ここまで改善されたわけだし、わたしも前よりは生活に気を使っているし、もうこんなんでいいんじゃないですか? ははは」と言った。するとあんちゃん先生は、わたしに向かってこう言い放ったのだ。「いや、それじゃだめなんです。ここまでやったんです。どうせなら数字出しましょうよ」。
「数字出しましょう」。わたしは心の中で笑った。
ふだんニコリともしないあんちゃん先生は、わたしがいいつけを守りすぐに目に見えるかたちで結果を出してくれたことを少しだけうれしそうに語った。でも、それをきちんとした「数字という結果」で出さなければいけないという。「正義」なのか「偏執」なのか「思いやり」なのか当時はわからなかったけど、とにかくそう「煽った」のであった。
その後、中性脂肪値もすべて正常範囲内になり、とりあえず心配はなくなった。
前置きが果てしなく長くなったが、「わかりやすい」「検査数値という結果を出す」、このふたつのことが何よりも重要なことだとわかったわたしが、さらにその確信を深めたのがこの『脂質異常症がよくわかる本』(寺本民生監修)であった。副題は「コレステロール値・中性脂肪値を改善させる!」とある。
ひと目で分かるイラスト図解。薬なしで数値を改善する食事や運動による療法や、動脈硬化が進んだ人への「脅し」や「フォロー」なども徹底的に解説される。メタボと同時に老化が気になる世代向けに、大判カラー・サイズ、文字が大きく読みやすいのもいい。
わたしがあんちゃん先生に教わり改善することができた「食べすぎ飲みすぎを改善しても数値が高い状態が続く」ことのリスクも、本書にはわかりやすく解説してある。
わたしにとってのあんちゃん先生は転勤になりもう診てもらえなくなった。前述したように、数年前にダイエットに成功したが、やはり中年太りの根は深く、この「脂質異常症」も時折顔を出し、「数値」を改善すべく奮闘の日々は相変わらずいまも続いている。
だが、こういう「わかりやすく」「結果を出す」本がそばにあるだけで心強い。良書というのは内容がいいのもあたりまえのことだけど、それを手に取った人がどんな思いを持ち、またどんな結果を出すかというのも重要なんだと思う。
ややこしい用語ではなく明確な数値。理解を促すのでなくやる気にさせる。これがこの本の良さであり、また、脂質異常症改善の第一歩だと確信している。
レビュアー
コラムニスト。1963年生。横浜市出身。『POPEYE』『BRUTUS』誌でエディターを務めた後、独立。フリー編集者として、雑誌の創刊や書籍の編集に関わる。現在は、新聞、雑誌等に、昭和の風俗や観光に関するコラムを寄稿している。主な著書に『ロックンロール・ダイエット』(中央公論新社、扶桑社文庫)、『車輪の上』(枻出版)、『大物講座』(講談社)など。好きなアーティストはジム・モリスンと宮史郎。座右の銘は「物見遊山」。全国スナック名称研究会代表。日本民俗学会会員。