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2018.06.05

レビュー

「浮世絵×狂歌」は江戸の遊び心そのもの。天才美人画師・歌麿をプレイする

子どものころから漫画が好きなので、浮世絵はどこか漫画に似ていて面白いなぁと思っていました。はるか遠い昔に描かれた作品なのに、今日読んでいる漫画と、どこか通じる線の省略や文字の入れ方、色のフラット感。髪の毛を描く曲線美は、漫画だけでなくデザインのベクター曲線のようにも見えます。

江戸時代、美人画の絵師として有名な歌麿。彼が若い頃『狂歌絵本』に絵を描いていました。美人画を描く前の時期です。この『狂歌絵本』時代の歌麿は、鋭い観察力と描写力、若さ溢れる筆運びで素晴らしい作品が多いのですが、狂歌の解説がないと絵を眺めるだけになってしまい、もう一歩踏み込んだ楽しみ方ができませんでした。

■絵と解説を行き来して味わう

「歌麿『画本虫撰』『百千鳥狂歌合』『潮干のつと』」の本書は、前半はフルカラーで絵を紹介し、後半はモノクロで狂歌の解説をしています。まずは絵を楽しみ、それから後ろページにある解説を読んで、もう一度カラーに戻ってくる読み方がおすすめです。余計な先入観のない初見の感動と、深みのある解説で得た知識。それらがあわさって作品を味わいやすくなります。ページを行ったり来たりしながら楽しんで読める良い本です。


(絵を楽しめるカラーページの例)


(絵の中の歌の解説を楽しめるモノクロページの例。解説と見比べると書の字がだんだん見えてきます)


■狂歌絵本ってどんな本?

この本を楽しむために少し説明を。

狂歌とは、当時の社会風刺や洒落をきかせた短歌のこと。江戸の中期に特に流行したと言われています。この狂歌に絵を付けたものが『狂歌絵本』『絵入狂歌本』です。

この2種類の本は明確に区別できるものではないので、本書では

● 狂歌絵本:絵が紙面の大部分を占め、絵の邪魔をしない箇所に狂歌を書いたもの
● 絵入狂歌本:狂歌を集めた狂歌本に挿絵として絵を入れたもの

としていました。わかりやすい分類だと思います。本書では『狂歌絵本』をピックアップしているので、絵が全面にたっぷりと描かれていて、迫力があり見応えがあります。


■江戸にも「名プロデューサー」がいた

歌麿の絵を狂歌と組み合わせよう! とアイデアを出したのは、当時の版画の版元である蔦屋重三郎。時代の匂いや空気を読み、人々の興味に刺さる斬新で面白いヒット作を続々と世に出していた人物で、現代で言う「名プロデューサー」のような仕事をしていました。

社会や時代から生まれた狂歌と若き歌麿の画の才能を組み合わせて生まれたのが『狂歌絵本』で、蔦屋重三郎のヒット作のひとつです。歌麿の描いた『狂歌絵本』は『画本虫撰』『百千鳥狂歌合』『潮干のつと』の三部作と呼ばれています。

● 画本虫撰:主に虫がモチーフの狂歌絵本
● 百千鳥狂歌合:主に鳥類をモチーフにした狂歌絵本
● 潮干のつと:貝類とそれを取り巻く植物たちをモチーフにした狂歌絵本

読みやすいように、モチーフを絞っているわかりやすさが、現代の出版方法とも似ていて、蔦屋重三郎の編集能力の高さを感じます。江戸の文化には現代につながる欠片を見つけることができて面白いなといつも思います。歴史の先に今日があるので、少し遠い同じ風景を眺めるような味わいが好きです。


■いろいろな絵師の狂歌絵本を見比べる楽しみ

『狂歌絵本』は他の絵師のものもあるので、歌麿を楽しんだ後は、絵師毎の個性と見比べる楽しみもあります。奥深く豊かな文化読書が広がっていくようです。江戸中期、そこは今日へつながる素敵な文化が人々の暮らしの真ん中に、たしかにあったのだと感じます。

歌麿の絵や当時の狂歌を読んでいると、時代は移り変わっても、人間の観察する力は同じだなと感じます。よく見る、よく見ることを楽しむ。よく見て楽しかったことを共有する、みんなで共感する。歌麿や歌人たちがもし現代に遊びにくることがあれば、ぜひともSNSをしていただきたいと思いました。彼が面白がって切り取る現代の日常はどんなポイントだろう? とても興味深く感じます。何を面白がってつぶやき、何を面白がって画像投稿するのか。フォローして「いいね!」を押したくなるだろうなと感じました。

レビュアー

兎村彩野 イメージ
兎村彩野

AYANO USAMURA Illustrator / Art Director 1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始、17歳でフリーランスになる。万年筆で絵を描くのが得意。本が好き。

https://twitter.com/to2kaku

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