■三戸政和氏、著者インタビュー
──フリーランス(独立)や起業のすすめではなく、「会社を買え」というメッセージ、驚きました。なぜこのテーマで執筆しようと思ったのですか?
みなさん気づいていないんですが、個人で会社を買う「個人M&A」は、起業をするよりはるかに難易度が低いんです。また、サラリーマン制度はもはや崩壊が見えていると思います。そこで、このコンセプトを新しいビジネスキャリアプランとして提案したかったのです。
私は、ベンチャーキャピタル(ベンチャー企業へ投資するファンド運営会社)からビジネスキャリアをスタートさせました。仕事を通し、数々の起業家や起業家を目指すフリーランスの方をたくさん見ました。そこで、ゼロからの起業の「地獄」を垣間見ました。本書にも書きましたが、まるで氷山。きらびやかな成功者のみが一部表面に出て目立ちますが、大多数は水面下に沈んだまま死屍累々。起業して10年間生存している会社は、3割にも満たないでしょうね。
一方で、すでに安定飛行に達して経営がしっかり回っている会社を買って運営することは、起業に比べればはるかに容易です。加えて、近年「大廃業時代」といわれ、中小企業の後継者問題が深刻になっています。黒字経営なのに、休廃業する会社がたくさんあるんですね。こうした中小企業の中に、個人で買ったり、経営することが可能な先がたくさんあります。中小企業の「事業承継」という社会問題を解決するためにも、個人M&Aをオススメしたかったのです。
──とはいえ、私たち普通のサラリーマンにはとてもとても……と思ってしまうのですが、私にも社長、できますか?
日本には企業が全部で約410万社あります。単純計算で、世の中の勤労者の16人に1人は社長です。石を投げれば社長に当たりますし、名乗れば、誰でもみんな社長になれます(笑)。
サラリーマンの方には、社長という存在は縁遠く感じるかもしれませんが、社長になるのって、難しくないんです。私が初めて自分でお金を稼いだのは小学校4年生の時で、道端に落ちてあるアルミ缶を集めて鉄くず屋さんに売りました。段ボール2箱分で200円になりました。これを継続、拡大すれば立派な商売。こんな仕事でも、会社を登記して、社長と名刺を作れば立派な社長のできあがり。つまり、社長にもピンキリがあるんです。
今回提言する「個人M&A」の対象となる中小企業は、社員30人にも満たない先です。大企業などのサラリーマンで管理職の経験があるなら、そのくらいの組織を束ねたことがあるでしょう。すでに回っている中小企業ならば十分マネジメントできます。また、大企業が有する経営改善のノウハウ、最新のマネジメント手法は、中小企業の経営管理からすれば、珠玉のノウハウです。
つまり、サラリーマンの方でも社長をするのは難しくないんです。それどころか、大企業のサラリーマンの経験で得たノウハウを中小企業に注入することで、相当なハイパフォーマンスを見込むこともできるのです。
──実際にやろうと思っても、そのため手続きは難しいのでは? また、300万円で会社は買えるものですか?
難しいと感じるのは、やったことがない分野だからという面が大きいと思います。中小企業のM&Aは、ここ5年、10年に出来上がってきた市場です。あまり情報が流通していません。どのように買う先を見つけて、買っていくのかは本に書かせていただきましたが、端的に言えば、仲介やフィナンシャルアドバイザーといった業者さんに当たるか、知り合いの社長に声を掛けてみるかです。今や70歳以上の経営者の4割くらいが後継者が決まっていないという状態ですから、探せば見つかります。
M&Aの手続き自体は、それなりの専門知識が必要です。ですから、手続きは専門家からのアドバイスを受けながら進めたほうが良いでしょう。ただし、そのような知識は、事業引き継ぎセンターなどの公的機関でも提供していますから、工夫すれば低コストで集めることはできます。1つ注意が必要なのは、このような新しい市場/業界には、知識や情報に格差がある点です。くれぐれも、ぼったくられないように気をつけてください。
300万円で会社を買うというのは、うまく借入や他人資本を使うことで成立します。このあたりはかなり細かなノウハウになりますから、ぜひ本を読んでいただきたいですね。
──堀江貴文さんの「終身雇用は現代の奴隷制度」という推薦の言葉が刺激的です。サラリーマンという働き方は、もう“オワコン”ですか?
今のサラリーマンって、幕末の武士みたいなものだと思うんです。石高(給料)は減り続けることが分かっているのに、組織と制度を重んじて集団で座して死を待つ、みたいな。
サラリーマン制度は、経済成長をしている時代に、売り上げが右肩上がりになることを前提に先行投資として出来上がったものだと私は思います。しかし、経済成長が終わった時代には、そんな硬直した組織は不要です。
商売というのは、本来的には、プロジェクト単位でプロが集まり、プロジェクトが終われば解散するのが自然な形です。プロがシームレスに情報共有できるテクノロジーが発達した今、ますますプロジェクトチーム型の組織が増えていくと思います。
また、AIやRPAなどのテクノロジーの発達は、人々の働き方を多く変えていきます。たとえば、単なる作業系の仕事はすべて取って代わられるようになるでしょう。また、タクシー業界といった分野でも大きな変化が起こりえます。自動運転が10年もすれば実現し、かつ、オンライン会議システムやVRなどの進化でビジネスマンの移動自体が不要になったとしましょう。そういう時代に、たくさんの運転手をサラリーマンとして抱え込んでいたら……? そんな未来が見えているのに、タクシー会社が新卒採用するなんて狂気の沙汰です。10年後、彼らは何をするのでしょうか。
──社長になるのは、ぶっちゃけ、カネ、名誉、やりがい、モテる……何のため?
自分の人生を心豊かに歩むために必要な「自由」を手に入れるためです。限りある人生において、何をするかはとても重要なテーマです。バリバリ仕事をするとか、意識高い系のリア充感を求めるとかだけではなく、「好きなことを、好きなときに、好きなようにやる」ということが、一番充足感が高いのではないでしょうか。眠たい時に寝て、食べたい時に食べる。旅行したい時に旅行して、ダラダラしたい時にダラダラする。そのために必要なのは、「時間」と「お金」です。
時間の切り売りをしているサラリーマンでは、時間は自由になりません。また、自らの身体を動かして報酬を得る給与制度のもとでは、お金を稼ぐのにも限界があります。ところが、ここで会社という「箱」を持つ発想を持つと景色が一変します。他人が持つお金と時間をうまく自分のものとして使うという道が開けます。
詳細は本に譲りますが、要するにこれからの時代は、お金に働いてもらい、人に働いてもらうのです。これにより、自分のお金と時間を効果的かつ効率的に自分の人生を豊かにすることへ集中投下することができるようになります。
激変する世の中にあって、社長になるという戦略は、人生100年を豊かに生き抜くための「もうひとつの選択」になりえます。そんな視点で読んでいただけら嬉しいですね。
株式会社日本創生投資代表取締役CEO。1978年兵庫県生まれ。同志社大学卒業後、2005年ソフトバンク・インベストメント(現SBIインベストメント)入社。ベンチャーキャピタリストとして日本やシンガポール、インドのファンドを担当し、ベンチャー投資や投資先にてM&A戦略、株式公開支援などを行う。2011年兵庫県議会議員に当選し、行政改革を推進。2014年地元の加古川市長選挙に出馬するも落選。2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行っている。また、事業再生支援を行う株式会社中小事業活性の代表取締役副社長を務め、コンサルティング業務も行っている。Twitterアカウントは「@310JPN」。