まず以下のチェックリストをやってみてください。
・「やるべき」という言葉が頻繁に出てくる。
・「期待しているよ」ということをつねにいわれる。
・「改革」や「変革」などの言葉の張り紙が貼ってある。
・問題点を指摘すると「後ろ向きだ」と相手にされない。
・提案には「いったいどんなメリットがあるの?」とすぐ返される。
・「KPI」という言葉がよく俎上に載せられる。
・「それは正論だけど……」と言葉につまることが多い。
・「メリット」「デメリット」が判断の基本になっている。
・「妙に前向きでハイテンションな人」が多い。
・外部のコンサルタントに「打ち出の小槌(こづち)」を期待している。
・現実味のない理想を掲げていて、どこへ向かおうとしているかわからない。
・仕事を標準化したり、マニュアル化することに躍起になっている。
・社内のふだんの会話もメールでやりとりしている。
・会社のHP等で「イノベーション」「絶えず変革を続ける」「グローバル」「国際競争力」「チャレンジ」「飽くなき挑戦」という言葉を多用している。
これらのことに当てはまることが多い会社は「うつ化」が進んでいる会社です。「会社がうつ?」と驚く人も多いかもしれません。著者によれば会社も「うつ」や「心が折れる」ことがあります。
(※著者がいう「会社のうつ化」とは「抑うつ気分、意欲の低下、焦燥感、思考停止などが企業経営にもおよんでいることを比喩として」あらわしたものです)
ブラック企業は社会的な注目を浴び、批判されるようになりました。ブラック企業は一目見てわかるだけに、問題点も指摘しやすいといえます。とはいってもどのくらい改善されたのかは軽々にいえませんが。
これに対して「うつ化(心の折れた)会社」は見た目ではわかりにくいのです。たとえばこの本の中で著者が何度も取り上げている「ハイテンション(=ポジティブ)会社」がそうだというと、えっ?と思う人も多いでしょう。なぜ「ハイテンション(=ポジティブ)会社」がうつ会社になってしまうのか……。
ハイテンションうつ会社では、思慮深い意見や批判精神をもった意見が、「ネガティブ思考だ」「スピードが勝負だ」といって簡単に切り捨てられる傾向があります。(略)会議では、「圧倒的なシェアをとりに行く」とか、「前年比200%」といった威勢のいいスローガンが打ち出されます。ここで懸念材料をもう一度よく検討しようともちかけても、「できない理由をさがすのではなくて、どうすればできるか考えようよ」などといわれてしまう。批判的な意見はいえないムードが漂っています。
そのような場ではネガティブな情報や発言は「吟味することなく、そのまま排除」されてしまうことが起きがちです。
こうしたハイテンションうつ会社にいる方のなかには、勤務時間以外の時間を利用して、ビジネスのセミナーに通っていたり、MBAを目指しているような方も少なくありません。
「自己研鑽」の大事さを認めながらも著者は懸念を感じずにはいられません。
その目的が「モチベーションを維持するため」だけになっているとしたら、それも手段が目的化してしまっているといえます。セミナーで具体的な何かを学ぶというより、テンションを上げるため、カンフル剤を打つために行っているような方です。何かを学んだような気になって、勢いだけはあるのですが、傍から見ると空回り気味です。あえていわせてもらえば、底の浅さが透けて見えるような、薄っぺらい感じがするのです。
これでは「やりがい」というよりも「やらされがい」です。 この「やらされがい」をもたらすものに「正論」というものがあります。この「正論」とは「正しい論」というのではありません。「正しいだけの論」とでもいうべきなのでしょう。たとえば「〇〇すべき論」などがそれにあたります。いっていることは確かにその通りですが、その通りにできないことが多いのもよくあります。 さらに「正論」をいう人にはどこか“上から目線”が入っていたりします。聞かされた人は、“正しさ”より“無理解”を感じてしまうのです。「正論」は相手を追い詰めます……。
効果・効率を追究するあまりに、正論ばかりがはびこる会社の現状、それに追い詰められることによって、働く人ばかりでなく、会社自体が“うつ化”しやすくなっている。
「正論の落とし穴」です。一見正しい正論が“うつ化”をもたらします。聞かされる人が「心を折れるような状態」になるだけではありません。本当は会社も「心が折れる」あるいは「心を喪失している」状態になっているのです。
ネガティブはNG、ポジティブはOK、という単純な善悪の価値観を持ち込んでしまうと、悪いものは排除すればいいということになります。しかしこれは人の可能性まで失わせるもったいない考え方です。(略)ネガティブがダメだと思うことで、心が折れてしまうことのほうが、よくありません。
“うつ化”からの脱出口はここにあります。「正論」などで作られた「ポジティブ思考」は薄っぺらいものになりがりです。どこかに弱さを見ないふりをしているだけです。
ネガティブに蓋をし、「私にはできるはずだ」とか「自分の可能性を信じて進むんだ」とばかりにテンションを上げていると、ある日ポッキリと折れてしまうものです。(略)ネガティブなものに蓋をしない人は、薄っぺらいポジティブ思考の人よりもタフです。
ネガティブな部分に向き合ってこそ強い自分(それに会社)を作れるし、新たな道を見いだせるのではないでしょうか。弱さを包んでこそ強くなれる、そんな激励にも似た言葉にあふれた1冊です。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。