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2018.04.06

インタビュー

【大ヒット!】「必ず死んでこい!」と言われながら9回生還を果たした特攻兵

「9回特攻に出撃して、9回生きて帰ってきた」人がいる。その佐々木友次(ささき・ともじ)さんご本人の取材を実現したのは、演劇界を中心に多方面で活躍する作家・演出家の鴻上尚史さん。「ずっとお会いしたかった」という鴻上氏は5回に亘る取材から小説『青空に飛ぶ』を執筆、さらに『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社現代新書)を発表した。『不死身の特攻兵』は昨年11月の発売から大きな反響を呼び、発売から4ヵ月で16万5000部の大ヒット。軍参謀長に「絶対に帰ってくるな。必ず死んでこい!」とまで言われながら、21歳の特攻兵はなぜ生還できたのか。そして多くの現代日本人を救う生き方を明かす──。

まずは数多くのビジネスマンが手に取った

── 昨年11月に『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』が刊行され、発行部数は16万部を超えました。これだけ大きな反響は想像されていましたか?

まったく考えてもいませんでしたね。「現代ビジネス」に友次さんについてのエッセイを寄稿したのも大きかったようです。40代以上のビジネスマンが組織論として手に取ってくれ、まず5万部にいきました。特攻のメカニズムというのが、言ってしまえば今のブラック企業とか、ブラックバイトのメカニズムとすごく似ているということですね。

──その指摘にはハッとさせられました。特攻は決して過去のことではなく、現代にも通じているのだ、と。

僕もスタートは皆さんと一緒だったと思います。はたして特攻は志願だったのか、強制だったのだろうか、とかね。でも、知れば知るほど今の日本社会と構造があまり変わっていない感じがしたのです。ブラック企業やブラックバイトも、命を消費しながらその組織が生き延びています。それが特攻では一番明確な形で現れて、とんでもないことだという話になるわけですが。

──読者からはどんな声が届いていますか。

ビジネスマンからは、「うちの会社と全く変わらない」「70年経っても日本の組織は変わっていない」と。いわば戦場のような職場で理不尽な命令が現実にあるわけです。そうした状況で、友次さんの存在は希望になるみたいですね。10万部を超えたくらいから女性読者からの声も増えました。女性からは、「今までは特攻隊の精神的なものが好きだったけど、それだけじゃいけない気がしました」という感想もありましたね。「お国のためににっこり微笑んで穏やかな顔で死んでいくイメージがありましたが、実際はそうじゃないんだというのがわかりました」と。

始まりは「とにかく会いたい」という思いから

──本を書かれたきっかけは、佐々木友次さんの存在を知ったのが最初ですか?

そうですね。最初は2009年に出版された『特攻隊振武寮 証言・帰還兵は地獄を見た』(小社刊)での、ほんの半ページにも満たない描写が始まりでした。「八度の出撃(※)にもかかわらずことごとく生還している」佐々木友次という人がいることに衝撃を受けて。その後、唯一友次さんに取材した高木俊朗さんの『陸軍特別攻撃隊』(文藝春秋刊)を読んで、「おお、こんなことがあったのか!」と。

──鴻上さんが友次さんを取材したいと思ったのは、「どうやって8回も帰れたのか」という興味から?

単純に、友次さんに会いたかったということです。最初にお会いしたときには、どういう形で本にしようとか、そういうつもりも全然なかったんですよ。

──初めは友次さんの息子さんに面会を打診して、「父は『もう話したくない』と言っている」と言われてしまったとか。

でも、話してくれなくても、顔を見るだけでも、とにかく会いたかった。それで息子さんに病院を教えてもらって、スケジュールを割いて北海道まで行ったわけです。会いにいくのは楽しみでしたよ。なんだろうね、やっぱり演劇をやっているからかもしれない。演劇がこのデジタルの時代でも生き延びているのは、「同じ空間で生身の人間を見る」というのがあって。生身の人間を前にすると、「こいつはテレビじゃすごく偉そうだけど、どうもいいやつらしい」とか、「なんかおびえてるな」とわかったりする。生身の人間には、こぼれるものがたくさんあるんだよね。映像はいくらでも噓つけるので。だからやっぱり、僕にとっては生身で会わないと意味がないというか。とにかく会いたかったのは、そういうことかもしれないですね。

──実際にお会いして、どんな印象でしたか?

実に穏やかな人でした。本当に小柄でね。そのときはもう92歳でしたし。僕は奇跡的に、友次さんが亡くなる2ヵ月前までに合計5回会うことができましたが、4回目でやっとすごくしゃべってくれて。3回目までは、自分の言葉を慎重に話している感じがありました。もちろんとてもナイーブなことだし、亡くなられている方もたくさんいることですからね。

※1944年11月25日に佐々木さんが受けた3回目の出撃命令をカウントしていないため8回となっていると思われる

この本で誰かの肩の荷を下ろすことができれば

──この本は、特攻隊というよりも、友次さんへの興味から生まれたわけですね。

それはそうです。でも、特攻という作戦を生んだこの国の国民性ということに関してはすごく興味がありました。世界中の軍隊を見ても、命令として死ぬという作戦を立てたのなんて近代戦争では絶対ありません。それ以前は資料があまりないのでわからないですが、結果的に死ぬしかない状況に陥ってということはあるにせよ、組織として死ぬことを引きかえに戦えという命令を出したのなんてほぼないはずです。それを出せる、そして受け入れる国民性ってなんなのだろうとすごく気になるし、不思議ですよね。

──小説でも友次さんの体験が描かれましたが、新書では友次さんのインタビューも掲載されましたね。

みんなが知りたいであろう肉声をちゃんと載せられたのは大きいですね。たとえば、当時は「あとに続くからな」と言っていたのに、そのまま戦後も生きた司令官たちに対して何か思ったりするかという問いに「いや、なんもありませんね」と答えられたくだりなど、伝記ではなかなか書けないところだと思います。厳しい軍隊組織の中で、いち伍長がそんな雲の上の人間をジャッジするようなことはなかったということですよね。それから、僕が何度も聞いた「なんで9回も帰って来られたんですか?」への答えも。これは歴史に関わる非常に貴重な証言なので、あまりバイアスをかけたくないという思いもあり、できるだけそのまま載せました。

──ぜひたくさんの方に読んでいただきたいですね。

より多くの人に佐々木友次さんという人の存在を届けたくて、この本を書きました。小説的な文章もあれば、インタビューもあり、特攻への考察もある、盛り沢山な新書になったと思います。この本に関しての取材なら、テレビ、雑誌、ネットにかかわらず、朝早いラジオでも行きます(笑)!
僕も表現者になったからには幸せになりたいし、人にも幸せになってもらいたい。だから、誰かの肩の荷を下ろせるような活動が続けられたらいいなと思うんです。もし今、日本的な組織で苦しんでいるとか、もっと簡単に言えば「世間」とかが息苦しいと思っていたりしたら、友次さんを知ることで少し勇気が持てるようになるんじゃないでしょうか。

精神を語るのはリーダーとして安易な道

──執筆の際、特攻について調べを進める中で意外だったことはありましたか?

特攻に行った人たちの中にも、階級の違いがあったことなどですかね。士官クラスのエリートは温存され、若い20歳前後の下士官や学生出身の予備士官ばかりが出撃していました。また志願か命令かということでは、間違いなく志願していた人たちもいた。でもそれは、陸軍なら少年飛行兵学校、海軍なら予科練で10代の早いうちから軍人教育を何年も受けて育ったような人たちだったと考えられる。ただ、その人たちでもベテランになると、特攻という攻撃の非効率性が分かっていたんです。

──非効率性をわかっていながら従わざるを得なかったというのは、驚くべきことです。

今でも、企業の残業の問題だって、「上司が残業するから仕方なく残る」という人たちはみんな知っているじゃないですか。「本当はやることないんだけどさ」みたいなことを。

──特攻を生んだ日本人の国民性は、今の社会構造にも表れているのですね。

構造的にね。でも、それを全面的に賛成しているわけじゃなくて、嫌だなと思っている部分があるから、この本もこれだけ受け入れられたのだと思います。今回、本の帯に担当編集者が書いてくれた「“いのち”を消費する日本型組織に立ち向かうには」という宣伝文句を見たときに、「ああ、なるほど!」と思いましたね。だから僕は、すごく友次さんに会いたいと思ったんだろうなぁとわかりました。

──当時の軍参謀が精神論に偏っていたことについて、「精神を語るのはリーダーとして一番安易な道」と断じていましたが、耳の痛い指導者も多いのでは。

多いでしょうね。会社では、「死ぬ気で働け!」とかね。家庭では、一つのことしか言わない人。たとえば子供に「とにかく人に迷惑をかけるな」だけ言うのは、何も語っていない。精神論とすごく近いですよね。言うのが簡単だからつい出ちゃうんだと思いますけど、それがかえって自信を持たない、イヤと口にできない子供たちを量産してしまっている。

──「本当にすぐれたリーダーはリアリズムを語る」という指摘は、演出家としてのご自身の経験からの実感も大きいのでしょうか。

そうかもしれないですね。もちろん場違いなリアルもありますよ。たとえば余命いくばくもない人に対して病状をこと細かく説明してもしょうがない。それよりは「お花見をするまでは生きていましょう」みたいなことを語るほうがいいですよね。それはそのときに必要な精神論というか。でも、特攻は敵の艦隊を沈めることが目的だったのに、だんだん死ぬことが目的になってしまった。日本の企業で言うと、本来は仕事をするために残業をするのに、いつの間にか残業が目的になってしまうようなことです。それに対して「残業は全部ダメ」と言い放つのも簡単だし、「上司がいるのに帰れるわけがないだろう」というのも簡単です。そうじゃなくて、「今はとにかくやる時期」と言うのと、「これは残っても意味がないから上司がいても帰ろうよ」というのが、リアルを語るということで。

──今“命令する側”にいる方にも、これから社会へ出る方にも知ってほしい本ですね。

そうですね。これから働き始める人が読んでくれるとうれしいかもしれないな、本当に。

こうかみ・しょうじ イメージ
こうかみ・しょうじ

作家・演出家。1958年愛媛県生まれ。早稲田大学在学中の'81年に劇団「第三舞台」を結成。'87年「朝日のような夕日をつれて'87」で紀伊國屋演劇賞団体賞、'95年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞。'97年に渡英し、演技ワークショップのリサーチを行う。2011年に第三舞台封印解除&解散公演「深呼吸する惑星」を上演。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に活動。'10年に戯曲集「グローブ・ジャングル」で第61回読売文学賞戯曲・シナリオ賞受賞。舞台公演のかたわら、エッセイや演劇関連の著書も多く執筆し、ラジオ・パーソリナティ、テレビの司会、映画監督など幅広く活動。『クール・ジャパン⁉』『八月の犬は二度吠える』『青空に飛ぶ』(以上、講談社)他著書多数。

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