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2018.03.09

レビュー

【自傷・自殺がわかる本】なぜ、助けを求めてくれなかったのだろう。

突然ですが、あなたは親(ちか)しい人を自殺で亡くしたことがありますか?

私はあります。

忘れもしない2010年12月のこと。当時の日記とともにこの本のレビューを書きます。

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友達と晩ご飯を食べてるときに、Tちゃんのお母さんから「時間があったら電話ください」と留守電が入っていて、その瞬間何が起きたのかすぐわかってしまった。

電話をしたら、お母さんは泣いていた。
泣きながら一生懸命どういう状況だったかを説明してくれた。思い出すのも辛いだろうに、一生懸命。
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自殺は突然やってきます。そして「死にたい」という思いは想像以上に身近なものです。

20歳以上を対象にした調査結果では、およそ4人に1人が過去に自殺を考えたことがあると答えています。(厚生労働省「平成28年度自殺対策に関する意識調査による」)

そしてこの思いは、誰にでも起こり得る可能性のあるものだと考えます。

家族、仕事、金銭、健康の問題、天災、うつ病やアルコール依存症などのメンタルヘルスの問題……。いつ誰にふりかかるかわかりません。


〈自殺既遂者が抱えていた問題〉

また、「切りたい」というリストカットの衝動を持った人も少なくないそうです。中高生を対象にした複数の調査では、およそ1割の子が「わざと自分の体を刃物で傷つけたことがある」と答えているとのこと。

自傷や自殺をする人には、ある共通する行動パターンがあります。それは、「つらいときに人に助けを求めない」ことです。(中略)もしかすると、この人たちの行動のなかで最も自傷的なふるまいは、リストカットでもオーバードーズ(過量服薬)でもなく、「つらいときに人に助けを求めない」ことなのかもしれません。

自傷したり死にたいと言う人は「かまってちゃん」だと考える人もまだまだ多いようですが、実際には辛い状況を誰にも伝えることができない、助けてと言うのを諦めているのが実態のようです。

周囲の人間は、まずここから意識を変える必要があります。

〈切りたくなるのは苦しいとき〉

〈生きていたいから、つらい気持ちを切り離したい〉


ふと、昔見たTV番組を思い出しました。リストカットをやめることができない20代前半の女性を追ったドキュメンタリー番組でした。

彼女は言いました。
「死のうと思って切るのではない。血が流れていることで自分が生きていることが実感できて安心するから、切るのだ」

私はその言葉に、人間の強い生命力を見つけてはっとしました。

私たちは「手首を切る」と聞くと、「自殺の手段」「注目してほしい」という風にしかなかなか結びつきませんが、本人の中ではそんな「生への否定」や単純なことではないのです。

「生き続けなさい」という生命からの肯定的な命令の結果であり、生命は「生きたい」という強い意志、ただそれだけで私たちを動かしているのです。

では具体的に本人、そして家族や友人や支援者はどうしたらいいのでしょうか?

本書では
援助を求めるレッスン:愚痴をこぼしてみる。プロの支援者のいる機関に相談してみる。(本人、家族向け)
正しく応えるレッスン:自傷する人を追い詰める言動を控える。行動の裏にある思いに耳を傾ける。(家族、支援者向け)
すぐに切らないレッスン:記録をつけて行動パターンを知る。2段階の取り組みで魔の時間をやり過ごす。(本人向け)
関係を変えるレッスン:離れる。離れるための準備を重ねる。諦めずに複数の“依存先”をつくっていく。(本人、家族向け)

という具体的で段階的なレッスンを、イラストとともにわかりやすく説明しています。


〈行動の裏にある思いに耳を傾ける(家族、支援者向け)〉


2010年の私の日記に戻ります。

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何もかも見えないくらい、自分のかわいい娘のことも大事なお母さんのことも全部忘れて、
「永遠に続くであろうこの苦しみから逃げたい」
もう、それで世界がいっぱいになってしまったんだろう。

ああ、とてもとても辛かっただろうな。
電話してあげればよかった。毎日、私は一緒だから大丈夫だよって、言い続けてあげればよかった。
Tちゃんの辛いのを放っておいてごめんね。
気付いてあげられなくてごめんね。

誰が悪いわけでもないんだ。
だから自分を責めちゃいけないこともわかっている。でも責めずにいられない。

言葉にできない悲しさ。もう会えない。何も伝えられない。何もしてあげられない。無力だった。
流れて止まらない涙はなんのものだろう。
自責? Tちゃんの辛さを思って? 残されたご家族の辛さを思って?
全部かな。

「自殺は100%悪である」と、
「そんなことする人の気持ちなんて一生理解できない」とあっさり言う人もいるけれど、
そういうことを聞くととても寂しくて冷たい風が心を抜ける。
「じゃあもしあなたが、1メートル四方の壁に囲まれて、終わりがわからない未来までずっとその中で生きていきなさい」と言われたらどうする?と問いたい。
気が狂うか、必死に死のうとすると思う。
例えればそういう状態なんだ。

とりあえず今は、Tちゃんが今は長い苦しみからやっと解放されて笑っていてくれたらいいなと、それだけを願う。
次は幸せに生まれてきますようにと。
祈りながら私は彼女の分もちゃんと生きようと心に誓う。
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こんな不幸を、誰にも味わってほしくないと心から願うのです。

8年も経った今でも、この時のことを思い出しただけで目の前が闇で覆われるほどの絶望感と悲しみに襲われます。

自殺で本人の苦痛はその瞬間消えるかもしれない、でも何倍にもなって周囲に「死にたくなるほどの苦しみ」が拡散されるのです。

著者の松本俊彦氏は言います。

もしも自傷を繰り返したり、「死にたい」とつぶやいたりする人に対して、今よりほんの少しでも優しい社会になれば、彼らの孤立は緩和され、リアルな世界で人に助けを求める気になり、そのことがひいては自殺予防にもつながるかもしれない──そう信じるからです。(中略)
本書には、今まさに自傷や「死にたい」気持ちに悩む当事者にとってすぐに役立つスキルや情報も、たくさん提示されています。しかし、注意してください。くれぐれも、ここに書かれたことをすべて実行しようとしないでください。大切なのは、自分にとって都合のよいものだけを採用すること、すなわち、「イイトコ取り」です。そして忘れないでください。嫌なものを嫌といい、納得できないことには従わず、苦手な人を避けることは、生き延びるうえで必要な技術である、ということを。

ああ、なんて優しい世界でしょう。

嫌いなものを避けて生きていっていいんだよ、と言われるだけで救われます。自分を守ることができます。

傷ついている当事者のあなたは、どうか心の闇を打ち明ける術を見つけ、今より楽に生きることができますように。

親しい人が悩んでいるあなたは、彼らの行動の裏にある気持ちに寄り添って、程よい距離感で支援できますように。

この本を手がかりに、人に打ち明けることができない弱者への優しさの一歩を、それぞれが踏み始めることができたら本当に素敵です。

レビュアー

野本紗紀恵 イメージ
野本紗紀恵

一級建築士でありながらイラストレーター・占い師・芸能・各種バイトなど、職歴がおかしい1978年千葉県生まれ。趣味は音楽・絵画・書道・舞台などの芸術全般。某高IQ団体会員。今一番面白いことは子育て。

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