「オペ室に入り、ベッドに横たわる。過去最高に念入りな消毒、エコーで内診、子宮の入り口左右に麻酔を打つ。
麻酔が効くまでの5分間、先生も看護師さんふたりも私も、しーんと無言で静寂。
ついに始まるんだと思ったら、ここで何かのスイッチが入って涙が止まらなくなった。
オペ開始。
まず金属製のヘラみたいなやつで子宮口をグイグイ広げる。鉗子でカチャカチャ(ガシガシ?ゴリゴリ?)と内膜を削り取る。圧迫される鈍い痛み。麻酔が効いてない頸管部で時々激痛が。
そして掃除機みたいにブイーンと吸引される。
私も辛いけど、赤ちゃんはもっと辛くて痛いよねと思って、涙が滝のように流れて止まらない。
リカバリールームに戻り、抗生剤の点滴。
この休養時間、泣いた泣いた。数年分泣いた」
──これは2016年5月、私が初めて流産になり手術した時の日記だ。
更に連続して10月にも同じ手術をした。この世の終わりのような絶望と悲しさだった。
私は33歳で結婚し、それと同時に高齢だと自分で判断し婦人科で検査やタイミングの指導をしてもらったがなかなか妊娠しなかった。人工授精にステップアップしてもかすりもせず。そして36歳の時にはじめての顕微授精で妊娠し、第1子を出産することができた。
第2子の治療も第1子出産後半年で始めたが、そこで2回連続の流産。もう授からないのかと絶望し、特別養子縁組についても勉強したり行政に問い合わせたりした。
そんな中、ぽんっとまさかの自然妊娠をし、去年39歳で第2子を出産した。
不妊治療の先が見えない辛さも、金銭面の大変さも、採卵の痛みも、受精卵が胚盤胞になった喜びも、着床した喜びも、流産の発狂しそうな悲しさも、妊娠中のトラブルの辛さも、そして長い長い遠距離恋愛のような気持ちの末に我が子に会えた瞬間の歓喜も、一通り体験してきたつもりだ。
その経験から、子どもをいずれ欲しいと漠然と思っている女性に伝えたい。「焦って。1年でも1ヵ月でも早く『妊娠とは奇跡』ということに気づいて、できることを始めて」と。
もちろん、「今は結婚や子どもより仕事のキャリア形成を選ぶ時期だからできない」という事情なども、それぞれの人生なので他人があれこれ口出しする資格などないことはわかっている。
この本も、淡々と事実だけを述べている。「早く子どもを作ったほうが…」とすすめているわけではない。高齢になるとこういうことが起きるよ、という事実だけをただ教えてくれるだけ。
でもやはり同じ女性として、冒頭に書いたような高齢の妊娠に多い辛い流産の経験をする人が1人でも減ってほしい。不妊治療の辛さを味合わなくていいならそれに越したことはない。本気でそう思うので、ついおせっかいな感情が発動してしまう。
「子どもがほしいと思ったときにはもう遅かった」ということがないように「生殖可能な年齢に達したら読む本」が必要だと思って書きました。
と、著者の産婦人科医・河野氏は言う。
ほんとにその通り! 私が中高生の頃の保健体育の授業では、「避妊しろ」「若すぎる妊娠、望まない妊娠の悲劇」こればかり。それも確かに教えなきゃいけないことだけど、年齢とともに妊娠率は下がり30代後半になったらかなりまずいことになるという事実もきちんと教えてほしかった……。「望む妊娠が叶わぬ悲劇」。
避妊なしで性行為すればほぼ妊娠できるとばかり信じていた。この意見は高度不妊治療(生殖補助医療)を体験した私の友達、みな口をそろえて言う。
20代30代の女性たちに読んでほしいのはもちろんのこと、男女ともに思春期以上の子どもを持つ親御さんは、この本で妊娠についての真実を伝えてあげてほしい。事実を知った上での選択はその先の話。真実も知らないで後悔する人生にならないように……。
妊娠できたはいいが、出生前診断は?
高齢でもラッキーなことに妊娠できた! でもまだ油断はできない。
卵子の老化は生まれてくる子どもに何らかの影響があるのでしょうか。
一番大きな影響といえるのは、染色体異常の子どもが生まれる確率が高くなることでしょう。
ほとんどの場合、染色体異常の赤ちゃんは冒頭のように流産の経過になりますが、ダウン症の場合は20%程度が出生に至るとのこと。
「ダウン症の子どもは天使」とよく言われますが、それが真実だとしても、実際育てるとなるとそんな綺麗事だけではすまないでしょう。なまやさしいものではないと、容易に想像できます。
そこであなたは、羊水検査や母体血清マーカー検査を受けますか? 受けて赤ちゃんがダウン症の確率が高いとわかれば、堕胎しますか? これは非常に個人的で難しい問題です。私は不妊治療を経て、お金も時間もかけて切望した妊娠だったので、どんな子でも受け入れる覚悟で出生前診断は受けませんでした。
それぞれの家庭の事情、考え方で違う答えが出るでしょうが、高齢の妊娠は本気でこの問題と向き合わなければいけません。受難ばかり……。
特別養子縁組にも年齢制限がある
著者は、
ぜひとも子どもがほしいということであれば、不妊治療にはある程度の時期で区切りをつけたほうがいいと思います。
要保護児童の里親になる、あるいは特別養子縁組をすることなどを、不妊治療と並行して考えてもいいのではないでしょうか。
と言いますが、完全に同意です! 里親や特別養子縁組は子どもも里親もみんな幸せになれる素晴らしい制度だと感じます。
ただこれも落とし穴があって、ギリギリまで不妊治療をして諦めて、いざ特別養子縁組を!と考えた時には、年齢の上限を過ぎていて養子を迎えられないことがあるのです。
あらかじめ勉強したり児童相談所に問い合わせておくことをおすすめします。
エピローグの
自分の人生設計の中で、子どもを持つ、持たない、どちらの選択をしようと、人それぞれです。でも後悔だけはしないように、十分な知識を習得しておいてください。これが私からのメッセージです。
この言葉の重みは、経験者には本当にずしんと響きます。
どうか、妊娠をめぐって涙を流す女性が1人でも減りますようにと、この本を薦めます。
〈関連書籍〉
『出生前診断、受けますか?』
レビュアー
一級建築士でありながらイラストレーター・占い師・芸能・各種バイトなど、職歴がおかしい1978年千葉県生まれ。趣味は音楽・絵画・書道・舞台などの芸術全般。某高IQ団体会員。今一番面白いことは子育て。