妊娠したら確実に「受ける」「受けない」の決断を迫られる「出生前診断」について書かれた本です。
「出生前診断」という言葉自体は知っていたけれど、「羊水検査ってダウン症が分かる検査だったっけ……?」という程度の認識しか持っていない方も多いのではないでしょうか。
もし自分が妊娠して出生前診断を受けて「五体満足じゃない子供が産まれる」と事前に分かってしまったら……?
SNSでも「子供が産まれました」という報告はよく目にしますが「遺伝疾患が分かったので中絶しました」なんて書く人はいませんよね。
おめでたい報告の裏で、出生前診断を受けて胎児を中絶してしまう妊婦さんも多いこと、また、その診断自体が確実ではないことや診断では分からない疾患も多いことなど、あまり語られることのない現実について知っている人がどれだけいるでしょうか。
ここで、出生前診断にはどんな検査があるか振り返ってみたいと思います。
──妊娠中にはさまざまな検査を受けます。検査を受ける目的は、大きくわけて3つあります。
①妊婦さんの健康状態を確認するため
②お腹の中の赤ちゃんが順調に発育しているか、逆子でないか、など赤ちゃんの状態を確認するため
③赤ちゃんの病気や形態異常を確認するため
このうち③の目的で行う検査を「出生前検査」、その検査を行って診断を下すことを「出生前診断」と呼びます。──
診断に使われる主な検査は「超音波検査」「羊水検査」「絨毛検査」「母体血清マーカー」「NIPT(新型出生前診断)」の5種類。また、妊娠22週以降の人工妊娠中絶手術は認められていないので、それまでに検査を受けたうえで、決断をする必要があります。
実際には疾患を持っていないかもしれないけれど、産まれるまで分からないという状況で、その子を産むのか、産まないのか、判断を迫られるというのはとてつもなく重い話です。
いっぽうで、この出生前診断というものは本当に必要なのか?ということも考えさせられます。事前に分かっていて迷いすぎるよりも、何も知らないで出産に臨み、産まれてきた子に障害があった……と分かったほうが迷わず受け入れられるのかもしれません。
恋愛や結婚はやり直しがききます。でも、出産や育児はその結果を受け入れることはできても、やり直すことはできません。自分のことなら努力である程度どうにかなるけれど、子供はコントロールがきかない。「出産、育児」は、大きな責任が伴うことでもあり、また、何十年にも渡って行われることなので、迷っている人に対して簡単に「産めばどうにかなる」とは言えない話です。
──成人になるまで、親の期待を1回も裏切らない子どもはいません。通常であれば、一枚一枚薄皮がはがれるように、親は子供への期待を手放していきます。しかし、子どもに障害があるとわかった親の場合は、それを一度にしないといけない。でも、結局は、どの親でも子育ての過程で行うことです。人は誰もが一人では生きていけませんし、誰かの手助けを必要としない人はいません。だから、本質的に障害のある子どもと暮らすことが、ほかの家族と違うとは、私は考えません──
しかし、子供は授かるもの。社会に育ててもらうもの。そんな価値観でいることができれば、もし自分が出生前診断の結果と直面したときに受け止め方も変わる気がしました。
人は、自分の持っている情報の範囲でしか判断ができません。しかし、ネット上には中途半端で不確かな情報が多く出回っています。そのような情報に振り回されて、間違った決断をしてしまわないためには正しい知識を広く持っておくことも大事だと思います。
この本には、お腹の子が二分脊椎症という障害を持っていることが分かっても出産を決意した人、染色体異常の診断を受けて中絶を選んだ人など、さまざまな"出生前診断と向き合った人たち"が登場します。
産んだ場合、産まなかった場合、どんな結果を選んだとしても、悩んで悩んで、悩みぬいて出した結果なのであれば何を選んだとしてもそれはきっとその人にとって正解なのだと思うのです。
産んだ人、産まなかった人、そして、今現在迷っている人にも"今、どうしたら良いか"という心の重さを軽くしてくれるための様々なアドバイスが載っています。巻末にさまざまな支援団体やホームページのURLなどもまとまっているので、もし自分がその立場になったときにはその後の決断をする手助けにもなってくれるだろうなと感じました。
これから「産むかもしれない」女性はもちろんのこと、妊娠、出産を一緒に経験するパートナーの気持ちを理解したい、そんな男性にも読んで欲しい1冊です。
レビュアー
20代のころは探偵業と飲食業に従事し、男女問題を見続けてきました。現在は女性向け媒体を中心に恋愛コラム、男性向け媒体では車のコラム、ワインの話などを書いています。ソムリエ資格持ちでお酒全般大好きなのですが、花粉症に備えて減酒&白砂糖抜き生活実践中。