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2018.02.21

レビュー

ジョブズと並ぶ感動の名スピーチ──米海軍特殊部隊SEALsの教えとは?

「Stay hungry, Stay foolish(ハングリーであれ。愚か者であれ)」という印象的な1節で著名なスティーブ・ジョブズのスピーチは2005年のスタンフォード大卒業式でのものでした。

ジョブズはスピーチで3つのことを語っていました。
1.労働者階級の両親は蓄えのすべてを学費に注ぎ込むことになったが「僕はそこまで犠牲を払って大学に通う価値」が見出せず退学する。
2.「我々の最良の商品、マッキントッシュを発売したちょうど1年後、30歳になったときに、私は会社から解雇」された。自分で立ち上げた会社から、解雇される。
3.ガン告知を受ける。死に直面した。

これらもとにジョブズはこう語りかけました。

あなた方の時間は限られています。だから、本意でない人生を生きて時間を無駄にしないでください。ドグマにとらわれてはいけない。それは他人の考えに従って生きることと同じです。他人の考えに溺れるあまり、あなた方の内なる声がかき消されないように。そして何より大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです。あなた方の心や直感は、自分が本当は何をしたいのかもう知っているはず。ほかのことは二の次で構わないのです。(英語力.bizより http://xn--tfrt83ip2e.biz/235)

10年以上前のスピーチにもかかわらず、アメリカだけでなく全世界のスピーチ史に残る優れたスピーチの見本としていまでも分析され、語り継がれています。

このスピーチと並び称されるようになった名スピーチがあります。それはこの本の著者ウィリアム・マクレイヴンが2014年5月21日テキサス大学の卒業式で話したものでした。

この本はその名スピーチで語られた10の教訓をさらに深めて綴られたものです。(当該のスピーチもこの本に収録されています)

マクレイヴンは米海軍特殊部隊SEALsの出身でSEALsの司令官、特殊作戦軍司令官を歴任した海軍大将、現在はテキサス大学名誉総長だということです。

SEALs出身とはいえ彼のスピーチは少しも軍人臭がありません。訳者が記しているように「人間としてほんとうにたいせつなのは何か、胸を張って生きるとはどういうことか」を力強く語っているものです。もちろんユーモアをこめながら。

マクレイヴンが語るこの本(もちろん元のスピーチも)のテーマは「世界を変えるにはどのようにすればいいのか」です。

そのために彼が語った10ヵ条があります。
1.日課を1つなしとげてから1日を始めよう:世界を変えたいのなら「ベッドメイクから始めよう」
2.ひとりでは強くなれない:世界を変えたいのなら「一緒に舟を漕ぐ友を見つけよう」
3.大切なのは心の大きさ:世界を変えたいのなら「器の大きさで人を判断せよ」
4.人生は不公平。だから走り続けろ!:世界を変えたいのなら「理不尽な目に遭おうとも前進あるのみだ」
5、失敗するから強くなる:世界を変えたいのなら「サーカスを恐れるな」
6.勇気をもって挑め!:世界を変えたいのなら「立ちはだかる障害には思い切って頭から突っ込め」
7.いじめに立ち向かえ:世界を変えたいのなら「サメを見ても逃げ出すな」
8.難局に臨機応変に対処せよ:世界を変えたいのなら「真っ暗闇に包まれてもベストを尽くせ」
9.希望をはこぶ人になれ!:世界を変えたいのなら「首までぬかるみに浸かっても声を振り絞って歌え」
10.何があっても投げ出すな!:世界を変えたいのなら「絶対に鐘を鳴らすな」
※サーカス:居残りで行う追加の体力訓練。“しごき”。
 鐘:ギブアップする時に3度叩く鐘のこと。

「世界を変えたいのなら」、自分を鍛え、勇気を持って進まなければなりません。どんな苦しいことがあってもあきらめることなく、未来への希望を持ち続けよう、自分を変えることで世界を変えていこうというメッセージです。

でも「ベッドメイク」はどのようにして「世界を変えていこう」につながるのでしょうか。

人生には苦労が付き物であり、ときに自分の力ではどうにもできない日々があることを誰もが心得ていた(略)だから、私たちは心を癒やしてくれそうなもの、1日の始まりに奮起させてくれそうなもの、醜い出来事が絶えない世の中で自尊心を与えてくれそうなものを見つけようとする。

ベッドメイクのようにささやかな行動も1日の始まりに気持ちを高め、1日の締めくくりには満足感をもたらしてくれる。人生を変えたいのなら、そして世界を変えたいのなら、まずベッドメイクで1日を初めてみよう。

これは小さなことから始めようということだけではありません。現実のつらいこと、苦しいことに立ち向かい、不公平なことに出会ってもめげずに希望を持ち続けるにはどうすればいいのでしょうか。心が弱くならないためにどうすればいいのでしょうか。それにはなにより心の落ちつき先を作っておくことだ、そういうことをいっているように思えます。

このスピーチは一見ジョブズのスピーチと大きく方向が違っているように思えます。ジョブズのスピーチはどちらかというと少しずつ降りていくように見え、マクレイヴンのは1歩ずつ上がっているように見えなくもありません。

でもこの2つには大きな共通点があります。

将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。(ジョブズのスピーチ)

これは謙虚でありつつも、くじけることなく、未来を信じていこうというものだと思います。この1点でふたりの思いは共通しています。マクレイヴンとジョブズのスピーチを比べるのではなく、このふたりの優れたスピーチをじっくり味わって欲しいと思います。きっとめげない心を作り上げるなにかのパワーを感じ取れるのではないかと思います。

1日1つ、なしとげる! 米海軍特殊部隊SEALsの教え

著 : ウィリアム エイチ・マクレイヴン
訳 : 斎藤 栄一郎

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レビュアー

野中幸広

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note⇒https://note.mu/nonakayukihiro

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