「数学って何の役に立つの?」という声は相変わらずあるようです。もっとも、数学が苦手な人に限ってこのようなことをいいがちですが……。
そういう人にこそ読んでほしい1冊です。数学の本質は計算を行うものではなく、もちろん公式を覚えることでもないことがよくわかります。
ではなにが本質かというと、「それは『コトバ』だ」というのが著者の主張(数学観)です。このコトバ=数学という視点は私たちに新たな数学の価値(=役割)を示してくれます。
1.数学は人生を変えるためのもの。
2.数学はものごとの構造をつかむためのもの。
3.数学は納得をつくるためのもの。
4.数学は簡潔にわかりやすく伝えるためのもの。
つまり「数学コトバ」を身につければ、「数学的に考え、生きる」ことができ、より充実した毎日を送れるようになれます。
では「数学コトバ」とはどのようなものをいうのでしょうか。
■定義する:定義
■言い換えると・裏を返せば:変換
■しかし・一方で:対立
■反例が存在する・矛盾する:否定
■かつ・または・少なくとも:条件
■そして・しかも・さらに・また:追加
■仮に:仮定
■いったん整理すると:整理
■だから・ゆえに・したがって・すなわち:因果
■たとえば:比喩
■なぜなら:理由
■以上より・つまり:結論
■明らかである・自明である:省略
(:の右側がコトバの機能を表しています)
一見してよくわかるように、これらのコトバを適切に使えれば、自分の考えていることを的確に、必要にして十分に、誰にでも伝えることができます。これは自分の頭の中で問題を明確に整理できているということです。つまり、これらの数学コトバを意識することによって“事前に”問題点を整理することができるようになっているのです。問題点が整理できている人は無意識でこれらの「数学コトバ」を駆使しているのです。
数学コトバを意識すれば、問題点が未整理な人にも問題点の所在がを明らかになります。また、気づかなかった新たな問題点を浮かびあがらせることもあるでしょう。
こうして「数学コトバ」を使いこなせるようになると次のようなメリットがあります。
1.ものごとの構造を把握する能力が飛躍的に高まる。
2.1%の矛盾もなく論証する技術が身につく。
3.わかりやすく簡潔な説明ができるようになる。
同時に話を聞く相手(説得したい相手など)にも大きな影響を与えます。「数学コトバ」は、なにより、話を聞きやすくする、話の流れ(=話し手の意見・主張)をつかみやすくする効果があるからです。(著者によればこれらの“効果”はビジネスシーンだけでなく、デートの際の会話にも大きな“効果”を発揮するそうです)
「数学コトバ」を使うことで自分の頭も整理できます。実は、それは「ものごとの構造を把握」していることにほかなりません。「構造の把握」とは「どこになにがあるか」と「それらの関係性」をつかむことです。「整理する能力」そのものです。
さらに「構造の把握」ができると、同じ構造を持つものがわかるようになります。いままで気づかなかったものの共通性が発見できます。すると「他の例を発見する力」「いい換える力」すなわち「喩(たと)える能力」が身につくようになります。リテラシーが格段と上がるようになります。この「構造の把握」の例として、「足し算」と中華料理の「レバニラの看板」が同じ構造を持っていることを“論証”しています。とても面白い論証です。この本ならではの“論証”ですから、ぜひ一読してください。さらに「喩(たと)える」ということがどういうことかがわかると思います。
この「構造の把握」「喩え」に「論証」が加わる「思考の整理」の仕方は数学そのものであることがわかります。もちろん数学には“量”“空間”“変化”というものが含まれますが、“構造”も重要な数学の要素です。つまり「数学コトバ」を使うということは、実は「数学的にふるまう」ことと同義なのです。
「数学的にふるまう」ことによって自分が直面している関係(ビジネスだけでなくプライベートなものまで)、それらを明確に把握し、問題点(困難なこと難しいこと)がどこにあり、どのように解決すれば良いのかがわかるようになります。
「数学コトバで人生からムダをなくし、人生を変えていこう」
人生を変えるその出発点には、「そもそも」という「コトバ」が置かれています。困難に出会ったときにキーとなるコトバです。自分の希望や目的、しなければならないことはなんなのかを確認できる魔法のコトバです。
一見数学コトバに思える「いわば」や「まさに」などというコトバが昨年は政界で飛び交いました。このような不毛な(しかも誤用さえしている)コトバではなにもはじまりません。正しい「数学コトバ」を身に付けてそのような不毛さから脱出をしたいと思わせた1冊です。少しも計算式はでてきません。でも数学の本質を教えてくれるものです。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。