「当社は、直接あるいはウェブ上で人に教える際に利用できる便利なビデオのライブラリを提供します。当社のビデオの多くは日本語に翻訳されています。全リストは下記をご覧下さい」
という文言がTOPページにある会社、コモン・クラフト社の創設者がこの本の著者です。アイディアを分かりやすく説明する動画制作をしている会社です。説明のプロが教える説明術がこの本です。
自分が思っていること、考えていることがうまく伝えられない、そんな経験は誰もが持っていると思います。いずれ真意(狙い)が伝わる、と思うのは、もしかしたら怠惰なのかもしれません。かつて「男は黙って○○」というCMがありましたが、黙ってすむということはそんなにはありません。
だとしたら仕事の上はもちろんのことですが、自分を誤解されないためにも「説明」する力は身につけたほうがいいのではないでしょうか。
ところで「説明」というとなにやら分かったような気持ちになりがちですが、「そもそも説明とはなに?」と自分に問いかけて見てください。自信を持って「説明」できたでしょうか?
ラフィーヴァーさんはまず「説明ではないもの」を上げていきます。
1.描写:行為、人物、出来事などについてそのまま述べること。
2.定義:正確で字義的な意味を述べること。
3.指示:何かをするようにという指図または命令のこと。要求や進め方を明確にするためのもの。
4.詳述:包括的で厳正な見方をあたえるために詳細な情報を提示すること。
5.報告:出来事について口頭で述べたり文章でまとめたりすること。
6.例証:アイディアなどを明確にするのに役立つ例のこと。
どれもが「説明」に必要なもののように思えますがそうではありません。ラフィーヴァーさんは改めて「説明」を定義します。
説明:事実をわかりやすく述べること。理解を深めることが狙い。
肝心なのは「理解」を深めるということ。先の6つの「非・説明」項目はこの理解を深めるためのツールといえるかもしれません。これらの6つとは次元の異なるコミュニケーションとして「説明」というのがあります。
さて、多くの説明上手といわれている人たちに共通するものはないのでしょうか。
──その共通点は、一言で言うと“共感”だ。説明上手な人は、他人の立場に立って、その視点からコミュニケーションを図る能力がある。(略)わかりやすい説明を生み出すには、自分の立場を離れて、相手の立場になる必要がある。これは、ほかの人の感情を理解し共有するという、共感に基づく作業だ。──
この共感が弱いと「説明」はうまくいきません。
ラフィーヴァーさんはさらに失敗の要因には次のようなものがあると指摘しています。
1.知の呪縛:よく知っている人は“知らない”という状態を想像しにくくなる。
2.内輪の用語:情報を持たない聞き手が理解できない、自分の仕事固有の言語を使う。
3.知識と理解の不足:理解が不十分なのに説明を行う。
4.賢く見せようとする。
5.背景なしの答え:相手の質問の背後の意図をくみ取れず事実のみを述べる。
どれもが「共感」の不足で生じてくることはすぐに分かります。私たちは「説明」というと、ややもすると一方向のものと考えがちです。「知っていること→知らないこと」という流れが「知っている人→知らない人」という一方向に変わっています。でもそうではありません。「説明」することが自分の姿を浮き上がらせてくるにつながるのです。
「共感」の不足は相手から興味・好奇心を失わせ、無関心を呼び起こします。
──たった一言でも、説明が失敗に追い込まれることがあるのは、その一言が聞き手の自信を揺るがすからだ。たった一言によって、他人の関心を無関心に変える力があるのだ──。
また、「共感」に立つということは相手の「なぜ?」に答えることでもあります。つまり「説明とは、事実や法則、細部が、“なぜ”筋が通るのかを示す術(アート)である」ともいえるのです。そしてこのアートのために先の「描写」などの6つのツールが使われるのです。
「説明」に有効な方法としてというものがあります。手法としてなじみが深いものです。
──説明でストーリーを用いる場合には、事実が必要となる。また事実はストーリーの形で伝えた方が効果的に説明できる。つまり、事実はストーリーに実体を授ける。ストーリーは事実に意義を授ける。──
事実というものだけにとらわれると相手の「理解が当然だ」と思いがちになり(=知の呪縛)、「背景なしの答え」をしていしまい、説明(=説得)に失敗してしまいます。ですから「ストーリー」を使う場合にも注意すべきことがあります。
・ほかの人が持つ知識について、恣意的な推測を働かせてはいけない。
・できるかぎり基本的な用語を用いること。
・テーマを俯瞰して、できるかぎり広い視点からみるようにすること。
・例外や詳細は脇に置いて、全体的意図に集中すること。
・正確を期すことと引き換えに、聞き手の理解を得ること。
・基本的考えを、聞き手がすでに理解している考えと結びつけること。
(これらに留意した実践例がこの本に収められています)
自分の説明力を高めることは同時に他者への共感力を高めることでもあります。
──「どんな仕事をしているのですか?」と訊かれても、「あなたの仕事に対して、なぜ関心を寄せるべきなのですか?」と訊かれたと思って、質問に答えるようにしよう。説明という観点から自分の人生や仕事を考えることで、どんな答えよりも説得力があるストーリーや結びつきを考案して膨らますことができるようになる。──
「説明」とはクリエイティブなものであり、自分に気づくことです。ビジネスパーソンはもちろんのことですが、自分に自信がない人にも読んで欲しい1冊です。
ビジュアルの手法の使い方、またストーリーの手法の使い方も詳述されています。ぜひご自分の目で確かめてください。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
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