「最近、昔に比べてもの忘れが激しくなったなあ……」
記憶力の低下は、加齢とともに誰しもが感じるものですが「年だからしようがない」とそのままにしてしまっていませんか。でも、その物忘れ、でも、その物忘れ、実は認知症予備軍(軽度認知障害のこと)になったからかもしれません。予備軍の50%が将来認知症に進んでしまうそうです。
本書によると、「自分にはまだ早いと安心するのではなく、40歳過ぎたら認知症に関心を持ち、正しい情報を持つことが、認知症で不幸にならないための第一歩なのです」と述べられています。同年代の人より明らかにもの忘れが酷(ひど)くなってきた軽度認知障害の状態では、すでに脳内での異常が進んでいます。軽度認知障害というのは認知症一歩手前の状態のことですが、こうなってしまうと認知症になる確率は高まります。
認知症にも段階があり、初期で目立つものはもの忘れです。認知症になると元に戻ることはないそうで、軽度認知障害から5~10年かけて本当の認知症に進んでいきます。しかし、認知症になる15~20年前から実は脳内にゴミがたまりだしています。このような「異常はないけれどゴミが見つかる」状態が今「プレクリニカル認知症」と呼ばれ最先端の医療現場では、予防にとって重要な時期ということが分かってきました。
では、私たちは認知症予防のために何ができるのでしょうか?
・糖尿病の人は2倍
・脂質異常症の人は2~3倍
・睡眠時無呼吸症候群の人は1.85倍
・運動不足の人は2倍
・歯を失って噛めなくなった人は1.9倍
これは、健康な人とそうではない人の認知症になるリスクの差の一例です。
日本と違ってイギリスやアメリカ、北欧などの先進国では、認知症の罹患率がすでに下がってきています。それは、認知症への正しい知識の普及と生活習慣病や血管に影響のある病気の治療によるものだと分析されています。
私たちは自らの意思で「認知症になりやすい人生」を避けることはできるのです。適度な運動としっかりした睡眠、バランスの良い食事、少量の適度な飲酒、人と会って刺激を受けたり、趣味を楽しんだりすることは認知症予防に一定の効果があるとされています。
そのもの忘れ、大丈夫?
では、すでに「最近もの忘れが増えたなあ」と感じる状態になっていた場合にはどうしたら良いのでしょうか。
もの忘れには年齢による自然なもの忘れと、認知症一歩手前の危険なもの忘れの2種類があるようです。たしかに多くのケースでは加齢によるものですが、軽く考えることで認知症の悪化を見過ごしてしまう場合もあるので、自分がどちらに当てはまるのかぜひチェックしてみてください。
■心配のいらないもの忘れの特徴
・名前や場所などの固有名詞がすぐに出てこないが、しばらくすると思い出す。
・「あれ」「それ」などの代名詞が多くなるが、部分的に忘れているだけでその出来事自体は忘れていない。
■認知症の可能性のある危険なもの忘れの特徴
・過去の旅行の記憶など、出来事自体の記憶がない。
・テレビでよく知っているはずの有名人の顔を見ても、それが俳優なのかスポーツ選手だったのかすら思い出せない。
食事をしたこと自体は覚えていて、メニュー名を忘れた程度なら心配はないけれど、食事をしたこと自体を忘れてしまうのが認知症の可能性のあるもの忘れです。
つまり、手がかりがあれば思い出せるのか、すっぽり記憶が抜け落ちていてヒントを聞いても思い出せないような忘れ方なのかによって見分けがつきます。
自分は大丈夫かな、と不安になったときは「もの忘れ外来」や「メモリークリニック」という名前の外来があり、そこで受診できるそうです。
認知症の記憶障害をコップにたとえてみましょう。コップを記憶が蓄えられている入れ物とします。コップに水を入れるように、記憶はコップの上から注がれていきます。新しい記憶は上のほうにたまり、コップの底には古い記憶がたまっています。
認知症が進行するにつれ、コップの背丈はじょじょに低くなっていきます。新しい記憶からこぼれていきますから、底にある古い記憶は最後まで残ることになるのです。いったん低くなったコップの背丈、容量は元に戻すことはできません。
認知症の多くが子供の頃のことは割と鮮明に覚えているのに、最近の出来事や息子や孫のことを忘れてしまうのは、こんなメカニズムだったからなんですね。
2017年現在の高齢者比率は約4人に1人。今後も高齢者の割合は増えていき、内閣府の人口動態予測によると、2060年頃には5人に2人が65歳以上になると予測されています。
75~79歳では10人にひとり、80~84歳では4人にひとり、85歳以上では半分以上が認知症と推定されています。
この先、家族が、あるいは自分が、誰にとっても他人事ではないのが「認知症」の問題なのです。認知症とひとくちにいっても、脳卒中、アルツハイマー病、レビー小体型認知症などタイプはいくつもあり、原因はさまざまです。
また、うつ病、けいれん発作のないてんかんなど、認知症と症状が似ている病気もあり、素人にはまず区別がつきません。そもそもアルツハイマー病が認知症を代表する病気であることすら分かっていない人が多いのではないでしょうか。
「親が認知症かもしれない」、この状況になったとき、どこの科に連れていけばいいのかすらわからない方が殆どだと思います。
ちなみに、認知症の疑いで医療機関を受診する場合のベストな流れは、かかりつけ医に相談して専門病院に紹介状を書いてもらうこと。「認知症科」という診療科は存在しないので、精神科、神経内科、老年科、もの忘れ外来、メモリークリニックなどの外来を受診することになります。
この本では、そういった手順を決して無駄に不安を煽ることなく優しく解説。「誰もが認知症についてよく知らないから持ってしまう不安」をしっかり踏まえたうえで、認知症への具体的な対処法が詳しく書かれています。
「認知症」とネットで調べれば膨大な量のHPがヒットしますが、検索しただけでは自分に最適な情報を見つけるのは難しいものがあります。
なかには荒唐無稽な俗説、一見科学的ではあるが不確かな情報など、正しいとは言えない情報も数多く含まれています。情報が氾濫することで、どれが正しいのか分からないと戸惑う人も多いのではないでしょうか。結果、怪しげな健康食品や民間療法に時間と大金を浪費する人もいます。
なかには、認知症がすぐに治るかのように謳っている治療法がありますが、よく調べてみると治ったとされているのは本当の認知症ではなく、症状が似た別の病気だったりすることもあります。認知症は薬を飲んでいれば改善すると誤解している人もたくさんいますし、放置して治療の機会を逸してしまう人もいます。
「認知症のバイブル」と言えるこの本。"親が認知症になってしまった""自分が認知症かもしれない"、そんなとき間違った情報に振り回される前に、ぜひ手にとっておいて欲しい1冊です。
内閣府の人口動態予測:http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/0214/shiryou_04.pdf
レビュアー
20代のころは探偵業と飲食業に従事し、男女問題を見続けてきました。現在は女性向け媒体を中心に恋愛コラム、男性向け媒体では車のコラム、ワインの話などを書いています。ソムリエ資格持ちでお酒全般大好きなのですが、花粉症に備えて減酒&白砂糖抜き生活実践中。