生きているということは、言ってみれば連続的意思決定の状態である。食べ、歩き、読み、休む──私たちは、生きている限り常に何らかの判断をしつづけている。この判断はどのように行われているのか。また、理性と感情が対立するような難しい道徳的判断の場合には、どんな心理的メカニズムが働くのか。本書は、脳科学に関する最新の研究成果を紹介しながら、こころのはたらきについて考察している。
本書のベースになっているのが、意思決定には直観や欲求などの「速いこころ」と論理的な「遅いこころ」がかかわっているとする「二重過程理論」だ。二重過程理論は、心理学において歴史のある理論であり、さまざまな研究者が類似の理論を提唱しているという。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー』で、この理論を知ったという方もいらっしゃるのではないだろうか。
脳科学の著しい発展によって、生きた人間の脳活動を間接的に測定できるようになったいまは、二重過程理論を想定しつつ、意思決定のとき、実際に脳がどのように動いているのかを知ることができる。人工知能の研究と神経生理学の研究が、互いに影響し合いながら進んできたように、心理学は脳科学の成果を取り入れながら、着実に進んでいるようである。
「午後のほうがズルしたくなる」「素早く決断する時のほうが他者への協力度合いは高くなる」など、興味深いトピックを楽しみながら、最新の心理学を理解できる著書である。
目次
- はじめに
- 第1章 二重過程理論──「速いこころ」と「遅いこころ」による意思決定
- 第2章 マシュマロテスト──半世紀にわたる研究で何がわかったのか?
- 第3章 「お金」と意思決定の罠──損得勘定と嘘
- 第4章 「人間関係」にまつわる意思決定──恋愛と復讐のメカニズム
- 第5章 道徳的判断の形成──理性と情動の共同作業
- 第6章 意思決定と人間の本性──性善か性悪かを科学的に読む
- 第7章 「遅いこころ」は「速いこころ」をコントロールできるのか?
- あとがき
- 引用文献
- 索引
著者紹介:阿部 修士
1981年北海道釧路市生まれ。東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻博士後期課程修了。東北大学博士(障害科学)。東北大学大学院医学系研究科助教、ハーバード大学心理学科/日本学術振興会海外特別研究員、京都大学こころの未来研究センター助教を経て、2013年より同センター上廣こころ学研究部門特定准教授。専攻は認知神経科学。健常被験者を対象とした脳機能画像研究と脳損傷患者を対象とした神経心理学的研究によって、主にヒトの正直さ・不正直さを生み出す脳のメカニズムについての研究を進めている。平成27年、日本心理学会国際賞奨励賞受賞。
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レビュアー:谷田部卓
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