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2017.12.06

レビュー

いま人間に一番必要な「考える力」とは? 主観的試行錯誤!のすすめ

人間が「いまいちばん身につけたほうがいいと思う力」は「考える力」だ、という著者が、そもそも「考える」とはなにかを、平易にしかも徹底的に繰り広げたのがこの本です。

著者は「考える力」をこう定義しています。

まわりの状況を自分なりに分析して、進むべき方向を自分の頭で考え、自分で決める力のことです。また、自分で決めるだけでなく、実行するのも、基本は自分です。ちなみにその先には、自分で考えて決めて実行した結果に対する責任は自分自身が負う、ということも含まれます。ここで大切なのは、「自分で」という部分です。

新しい課題に次々と直面する現代社会、著者が「VUCA(ブーカ)ワールド」と呼ぶ世界に私たちは生きています。VはVolantility(変動性)、UはUncertaint(不確実性)、CはComplexity(複雑性)、AはAmbiguity(曖昧性)のことです。

このような社会で生きている私たちに求められていることは「正解のない問題に対し、そのたびに自分たちが最善と考える答えを出す」ことです。

ではどのようにして「考える力」をつけていけばいいのでしょうか。著者は「考える」とは「考えをつくる」ことにほかならないとして、「考える」ということを構造的に分析していきます。いったい「考えをつくる」こととははどのような流れでできてくるのか、「考えをつくる」にはどのような要素が必要なのかがわかるようになります。

「考えをつくる」ことが必要になるのは、「外からのきっかけ(刺激)」を受けたときです。「課題」が生じる瞬間です。そしてきっかけとなった対象を調べ、観察することが求められます。この時重要なのは「目的意識を持つ」ということです。この意識が欠けてしまうと漫然とデータを集めることになってしまい、「考えをつくる」ことにはいたりません。データの集まりがあるだけです。

さらに、観察という行動だと「客観的な視点」が重要だと思いがちです。けれどこれは間違いです。

対象を観察するときに、本当に必要になるのは自分なりの視点、すなわち主観的な視点です。客観的に見るべきだなどと考えずに、自分なりの方法で観察することを心がければいいのです。

これが目的意識というものに関係してくるのです。データをどう見るかという視点が必要になってくるからです。

この本の特長は「考える力をつける準備」の箇所でよくあらわれています。「わかる」ということを「テンプレート」との関連で述べた部分です。

「わかる」「わからない」というのは多くの場合、頭の中のテンプレートと目の前の事象とのマッチングを無意識のうちに行い、マッチングすれば「わかる」、マッチングしなければ「わからない」ことになります。

もっともこう続けられています、現代は「テンプレートにないことが増えている」時代だと。つまり重要なのは「自分の頭でテンプレートをつくれる」ということです。既存の知識の吸収だけでは既存のテンプレートを増やすだけになりかねません。知識は新たな「テンプレートをつくる」ために使われなければなりません。

そして「考えをつくる」作業(思考展開法)では重要になる思考展開図というものが紹介されています。個々のデータ(タネ)から課題の解決までどのような流れで行われるのかが詳述されています。
タネ出し→タネを括る→タネの関連づけ(括りから構造化)→課題の摘出→課題解決のたこの流れを具体例を挙げて記した章は、熟読していください。間違いなく、思考展開図が身につきます。

著者の「失敗学」「創造学」が土台となっているのを感じられるのが「考える力を高める」の章です。緻密な思考展開図・思考展開法を解説した後に次のような1節が記されています。

論理的に考えてもなかなかうまくいきません。当てずっぽうでいいからとにかく、決めることです。

ここあたりに「失敗学」が生かされているのではないでしょうか。思考展開法では論理的なほうが効率的に思えます。ところが論理的であることにとらわれすぎると意外と行きづまってしまいます。むしろ、しっくりいかなければやり直すという頭の軽さ(?)が重要なのです。仮説を立て、立証してみる。うまくいかなければ時には大胆に仮説を変更してトライする。

仮説立証を繰り返していると、そのうちにうまくいきそうな道がなんとなく見えてくるようになります。これはおそらくジタバタやっているうちに、頭の中に考えをつくる思考回路ができてくるからだと思います。

そこからが本当の「論理」の出番になります。

論理で考えをつくることはできませんが、つくられた考えは論理的に説明できなければ、それはまだ不完全な状態です。

ジタバタするとは試行錯誤をおそれずに繰り返すということです。試行錯誤では「矛盾やムダや考えの抜けの部分」が出てきます。そのことを避けてはいけません。それは最初から「完成形」を目指すことになってしまいます。「完成形」という形にばかりとらわれると思考の柔軟さが失われるということになりがちです。

このジタバタということ(試行錯誤)を重要視するのが「失敗学者」たるゆえんでしょう。既成のテンプレートで理解できる(解決できる)ことはどんどん少なくなっていきます。この現代を生き抜くための2つのキーワードが上げられています。
1.アジャイル(agile):(俊敏さと訳されていますが、むしろ)とにかく行動してジタバタしながら答えを見つけること。
2.レジリエンス(resiliennce):(回復力と訳されていますが、むしろ)窮地に陥ってもへこたれないこと。

この2つが「VUCA(ブーカ)ワールド」を生き抜く術です。この本は私たちはどのようにして問題に出会い、課題をみつけ解決の道を求めていくかということを文字どおり思考展開した実例となっています。迷える人すべてに必読です。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note:https://note.mu/nonakayukihiro

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