1980年代後半と言えば冷戦体制の終焉、日本ではいわゆるバブル景気の中、消費税がはじめて導入されました。そんな時代にミステリ界に衝撃的な事件が起こりました。「新本格ミステリ」の誕生です。1987年『十角館の殺人』(島田荘司さんの推薦)でデビューした綾辻行人さんを嚆矢に歌野晶午さん、法月綸太郎さん、有栖川有栖さん、我孫子武丸さんたちが続々デビューしミステリ界に新風をもたらしたのです。ちなみに島田荘司さんは1981年に『占星術殺人事件』でデビューしていました。新本格ミステリの先駆者です。
新本格ミステリってなに?
新本格ミステリとは優れた探偵(役)の人物が“灰色の脳細胞(by エルキュール=ポアロ)”を駆使して不可解な謎を論理的に解き明かしていくものです。『十角館の殺人』にこうあります。
『ミステリにふさわしいのは、時代遅れと言われようが何だろうがやっぱりね、名探偵、大邸宅、怪しげな住人たち、血みどろの惨劇、不可能犯罪、破天荒な大トリック…絵空事で大いに結構。要はその世界の中で楽しめればいいのさ。ただし、あくまで知的に、ね』
名探偵が挑む謎、そこに仕掛けられたトリックを見破り、真犯人を突き止める迫力! これこそがミステリの<王道>! 『十角館の殺人』の誕生で始まったこの「新本格ミステリ」が、今年30周年を迎えます。それを記念して島田荘司さん、有栖川有栖さん、法月綸太郎さんの短編集、『十角館の殺人 限定愛蔵版』が、さらには講談社ノベルスと講談社タイガで3冊のアンソロジーが刊行されます。全点書き下ろしで、綾辻行人さんをはじめ19名の超豪華作家さんたちの作品が収録されています。お楽しみに! ここでは30周年を迎えさらに未来へ向けて動き出した、「新本格ミステリ」の魅力を、読者の声とともにご紹介します。
新本格ミステリの醍醐味
ミステリ小説の始まりといわれているエドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』は同時に初めて「密室」トリックが登場した小説です。「密室」は犯罪の不可能性を目の当たりにさせるもので、人智を超えた謎解きが魅力となっています。
ガストン・ルルーの長編『黄色い部屋の秘密』やジョン・ディクスン・カーの長編推理小説である『三つの棺』などが著名ですが、多くのミステリ作家が「密室」ものを世におくりだしています。ちなみに『三つの棺』には「密室の講義」という章があり、そこでは密室トリックを分析しています。シャーロック・ホームズの『まだらの紐』も人気作品です。また「意外性とミステリとしての完成度の高さ」(50代・男)という声で『オリエント急行殺人事件』を好きな密室ミステリとしてあげているかたもいました。日本の作品では横溝正史の『本陣殺人事件』があがっていました。
この「密室」と関連しているものに「孤島」ものと呼ばれるジャンルがあります。代表作はアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』でしょう。絶海の孤島、通信手段、交通手段が断たれたその中で起きる惨劇……。必ず犯人はこの中にいるはずなのに……。極限状態ともいえる緊張感に魅せられるかたは多いと思います。
これら名作揃いの“本格派”に挑む“新本格派”の作品も傑作揃いです。
「密室」という作品世界では「《火村シリーズ(作家アリスシリーズ)》の記念すべき第一弾。読んでおいて損はないでしょう」(10代・男)という絶賛の声がある『新装版 46番目の密室』(有栖川有栖)、「密室ものとしての完成度はもちろん、理系ミステリという距離を感じさせるジャンルを、身近なものにしたという点でも素晴らしい作品です」(10代・男)と絶賛された『すべてがFになる』(森博嗣)、「キャラクターに魅せられた」(50代・男)という『姑獲鳥の夏』(京極夏彦)をあげているかたもいました。
決して忘れてはならないのは新本格の父とも呼ばれる島田荘司さんの『占星術殺人事件』でしょう。2014年イギリスの有力紙「ガーディアン」の「密室ミステリー・ベスト10」で第2位に選ばれました。圧倒的な推薦の声がありました。
では「孤島」はどのような作品があげられているかというと……。『夏と冬の奏鳴曲』(麻耶雄嵩)や『双頭の悪魔』『孤島パズル』と有栖川有栖さんの作品が多くあがっていました。
この「密室」や「孤島」以上に、「新本格」では傑出したジャンルがあります。
それは「館」ものです。「奇妙な屋敷」というものまで含むと85%もの人が支持し、好んでいるようです。古びた洋館や古い屋敷で起きる惨劇にドキドキさせられるミステリです。
なにしろ「新本格」を切り開き、多くのファンを惹きつけた作品こそが綾辻行人さんの『十角館の殺人』です。そしてこの「館」もののジャンル自体が喝采をもって迎えられたに違いありません。「これを読んだからそれまで無縁だった新本格ミステリを次々と読み漁ることになった作品」という声だけではありません。ファンの多い『十角館の殺人』にはこんな声が寄せられました。
「館ものと言えば『十角館の殺人』です! 主人公が事件を解決していく様子が好きです! 登場人物がみんな個性的でとてもいい!」(10代・女)「何回読んでも飽きない。トリックも凄くきれい。初めて読んだときは、段々謎が深まって最期が近づくほど、手が止まらない。2回3回と読めば読むほどはまってしまう。そして、ページを捲った瞬間の一言で一気に今までのがひっくり返る感じが、どうにもたまらない」(10代・女)
綾辻さんの「館シリーズ」ではほかにも「壮大な時間を用いたミステリ」の『時計館の殺人』、4人の作家たちが莫大な“賞金”をかけて、滞在している館を舞台にした推理小説の競作を始めるという「作中作」が魅力の『迷路館の殺人』以外にも『水車館の殺人』『黒猫館の殺人』『暗黒館の殺人』などがあります。
ほかの作品では「無数のトリックがこれでもかと詰め込まれているがそれらがたった一つの大トリックに収束する。トリック解明に至るまでの伏線回収も美しいです」(10代・男)と絶賛の声が寄せられた『人狼城の恐怖』(二階堂黎人)、「数学的な空気がいい」(20代・女)『「クロック城」殺人事件』(北山猛邦)、読後の「スッキリ感が良かった」(20代・男)という『蛍』(麻耶雄嵩)などがあり、同じ作者の『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』は首なし死体、密室、蘇る死者、見立て殺人と館というミステリのエッセンスが詰め込まれています。
もちろん「舞台設定とその意外性。日本ならではのミステリ」(50代・男)「大トリック」(30代・男)「実際に可能なのか?と驚かされた」(50代・男)という『斜め屋敷の犯罪』(島田荘司)を忘れるわけにはいけません。
エキゾチックな雰囲気をはじめ、密室的でもあり、さまざまなキャラクターが活躍できる、しかもどこか日本人好みでもある「館ミステリ」はこれからも描かれ続けるのではないでしょうか。
ここで「館」ファンに朗報です!
累計100万部突破の『十角館の殺人』、今しか手に入らない限定愛蔵版の発売が決定しました。
新本格ミステリ 最新刊続々発売!
- 『謎の館へようこそ 白 新本格30周年記念アンソロジー』(東川篤哉、一肇、古野まほろ、青崎有吾、周木律、澤村伊智)9月22日発売予定!
- 『謎の館へようこそ 黒 新本格30周年記念アンソロジー』(はやみねかおる、恩田陸、高田崇史、綾崎隼、白井智之、井上真偽)10月20日発売予定!
- 『名探偵傑作短篇集 御手洗潔篇』(島田荘司)発売中!
- 『名探偵傑作短篇集 火村英生篇』(有栖川有栖)発売中!
- 『名探偵傑作短篇集 法月綸太郎篇』(法月綸太郎)発売中!
- 『7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー』(綾辻行人、歌野晶午、法月綸太郎、有栖川有栖、我孫子武丸、山口雅也、麻耶雄嵩)9月7日発売予定!
「新本格ミステリ」の魅力はつきることがありません。これからもどうぞお楽しみに!