今日のおすすめ

PICK UP

2017.07.18

レビュー

衝撃!「東芝解体」と「福島第一原発事故」はコインの裏表だった。

おもしろい本だなあ、と思った。
 
なにより、著者の書きっぷりがいい。読者をぐいぐい引っ張っていくその手腕、まったく大したもんである。感服した。世の書き手がみな著者ぐらいの技倆を持っていれば、本は今の100倍はおもしろくなるだろう。さらに、テーマがおもしろい。このおもしろさは、『三国志』とか『太閤記』とか、大河ドラマのおもしろさだ。物語のおもしろさに歴史の重厚さが加わり、ほかでは味わえない体験をさせてくれる。いやー、ほんとによい本ですよこれは。
 
タイトルにあるとおり、東芝をはじめとする日本の電機産業の凋落が、いつ、どのようにはじまり、どこで間違えたのかを語る本である。かつて電機は日本の花形産業であり中心産業であったはずなのに、どうしてこのようなていたらくを呈しているのか。本書はそれを追跡している。

中でも多くのページが割かれているのが東芝であるが、東芝がなぜ落ちたのか、ここではとても論じきれないので語らない。興味ある人は、ぜひこの本を読んでください。

驚いたのは、まったく異なる事象ととらえていた東芝のメルトダウン(本書の表現)と東日本大震災における福島第一原発の事故が、じつは同じコインの裏表だったってことだ。

あの事故さえなかったならば。東芝の幹部も幾度となくそう考えたことだろう。地震と津波は原発だけでなく、東芝という大企業も壊滅させたのである。

あの事故は本当に大きかったんだな。そう認識した矢先、びっくりするようなニュースが入ってきた。

経産省が発表した「エネルギー基本計画」に、「原発の新設」が記されているというのだ。思わずええっと声をあげてしまった。作ったやつは白痴じゃなかろうか。本気でそう思った。

福島第一原発の事故以降、原子力は断じて「安価なエネルギー」ではなくなっている。事故後、原発の安全基準は引き上げられ、コストは上昇した。おそらくは火力発電などの比ではないだろう。事故の際をふくめた周辺住民へのケアなどを考えれば、「もっとも高価な電力である」と言っても言い過ぎではない。福島の補償は東京電力だけじゃまかないきれないらしいぜ。誰が払うのかねえ。

よく言われる「クリーンなエネルギー」も、新規建設の場合はウソっぱちである。原発を新設するために排出される炭酸ガスの量は膨大だ。作らないほうがいいに決まってる。さらに、事故が起きたらもう目も当てられない。福島第一原発の廃炉作業なんて、毎日ばんばん炭酸ガス出してるぜ。

先日、大洗で恐ろしい被爆事故が起きたばかりだが、あんな危ないもんをどうするか、まるで決まっちゃいないのだ。しかも、ぜんぜん安全じゃない。なにしろ、プルトニウムをビニール袋に入れて管理してたっていうんだから!

原発新設はあり得ない。本書もその前提に立って論を進めている。つまり、それが常識的な感覚なのだ。

ところが、政府はそう考えていなかった。新設するつもりなのだ。

頭がおかしいとしか思えなかった。常識知らずってこういうことを言うんだろう。

冷静になって考えてみて、ああそうかこれは全部わかってて言ってんだなと気づいた。原発は安価でもクリーンでも安全でもない。そんなのわかってんだ。でも新設って言う。俺たちをナメてるからだ。そう言ったって怒るやつなんかほとんどいないって、わかってて言ってんのさ。要は馬鹿にされてんだ。通常なら「とりあえず言ってみた」で済む話かもしれない。しかし、これは政府が出す文書である。「とりあえず」じゃ済まないことがとっても多い。

ただし、これが成るなら東芝は復活できるかもしれない。白物家電は中国の美的集団に、メディカル事業はキャノンに、半導体事業はこれから売り渡そう(2017年6月末現在)という東芝に、残っているのは原発だけだ。廃炉だけなら死に体だが、新設があれば生き長らえる可能性がある。

……と、考えられるのは本書で知識をつけたおかげだ。それで生き残ってどうすんのと思うのも、本書の影響だろう。

ときに、あなたは馬鹿にされてるようですが、それでいいんですか?

レビュアー

草野真一 イメージ
草野真一

早稲田大学卒。書籍編集者として100冊以上の本を企画・編集(うち半分を執筆)。日本に本格的なIT教育を普及させるため、国内ではじめての小中学生向けプログラミング学習機関「TENTO」を設立。TENTO名義で『12歳からはじめるHTML5とCSS3』(ラトルズ)を、個人名義で講談社ブルーバックス『メールはなぜ届くのか』SNSって面白いの?』を出版。「IT知識は万人が持つべき基礎素養」が持論。2013年より身体障害者になった。

おすすめの記事

2017.05.10

インタビュー

安倍総理の政治哲学「国民は馬鹿である」は本気だと思ったほうがいい

2017.05.02

レビュー

【ベストセラー】日本の誇りだ! 現役キャリア官僚による「原発告白小説」

2017.05.31

レビュー

原発労働者が語る「劣悪な環境でも、再稼働希望」偏らぬ事実、衝撃の肉声!

最新情報を受け取る