こんな世界が、少し前の日本に存在していたのか。ページをめくるたび、そういう気持ちにさせられる1冊だ、これは。
本書は、住友銀行とイトマンを舞台に繰りひろげられた、著者による冒険譚であり告発書である。とにかく強調したいのが、ひとつひとつの描写の生々しさだ。著者による当時のメモをもとにしながら本書は展開していくのだが、はたしてここまで書いてしまってよいのか、読んでいるだけで圧倒されそうになるほどである。さまざまな人間の思惑が入りまじり、複雑な人間模様が描かれるその有様は、まさに奇々怪々。当時の住友銀行がいかに伏魔殿だったのか、ありありと伝わってくるだろう。
エピローグのなかで、著者は自分の銀行員人生を、塀の上を歩いているようなものだったと振り返っている。ひとつの規範に縛られず、しかしそこから完全には逸脱できない。そんな性分を持っていたからこそ、著者はこの物語に巻きこまれることとなったといえる。
人事をめぐる権謀術数は住友銀行にかぎった話ではなく、日本のすべての大企業に共通するテーマだ。ある種の歴史書として読むもよし、反面教師として読むもよし、あるいは乱世における戦略本として読むもよし。いずれにせよ、とくに組織で生きている人たちにとって、興味をそそられる1冊にちがいない。
目次
- 第1章 問題のスタート
- 第2章 なすすべもなく
- 第3章 行内の暗闘
- 第4章 共犯あるいは運命共同体
- 第5章 焦燥
- 第6章 攻勢
- 第7章 惨憺
- 第8章 兆し
- 第9章 9合目
- 第10章 停滞
- 第11章 磯田退任
- 第12章 追及か救済か
- 第13章 苛立ち
- 第14章 Zデー
- 第15章 解任!
- 第16章 虚脱
- 第17章 幕切れ
著者紹介:國重惇史
1945年、山口県生まれ。'68年、東京大学経済学部を卒業。同年、住友銀行(現三井住友銀行)に入行。渋谷東口支店長、業務渉外部部付部長、本店営業第一部長、丸の内支店長を歴任。'94年に同期トップで取締役就任。日本橋支店長、本店支配人東京駐在を経て、'97年、住友キャピタル証券副社長。銀行員時代はMOF担を10年務めた。その後、'99年にDLJディレクトSFG証券社長になり、同社を楽天が買収したことから、2005年に楽天副社長に。楽天証券会長、イーバンク銀行(現楽天銀行)社長、同行会長を経て、'14年に楽天副会長就任。同年、辞任。現在はリミックスポイント会長兼社長。
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