●その健康法、本当に正しいの?
テレビや雑誌で、こういった健康法をよく目にしませんか?
「筋トレすれば、痩せ体質になれる!」
「炭水化物を控えるのが糖尿病予防には効果的」
一見正しそうに聞こえますし、実際に多くの人が取り組んでいる健康法だと思います。
でも、それらは本当に有効な健康法なのでしょうか? そして、根拠は確かでしょうか? 日本人を対象にした場合、世間一般に言われている方法では、実は必ずしも健康に効果があるとは言えないことが科学的に明らかになっています。
人種や体質によって、適切な健康法は違うのです。
本書『欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』では、長年検診センターで予防医学に従事している著者が、糖尿病、高血圧、脂質高脂血症・動脈硬化の「生活習慣病」や、がんに対する予防法まで、「人種差」の視点から解説をします。
●筋トレしても、日本人は痩せ体質にならない?
冒頭に挙げた2つの健康法について、言及されていることをご紹介します。
「筋トレすれば、痩せ体質になれる!」この言葉は、いろいろな雑誌でよく見かけますよね。でも、本書によれば、日本人は筋トレをしても筋肉がつきづらい体質なので、筋トレをいくら激しくしてもほぼ効果がない、と書かれています。むしろ、晩酌のビールを減らしたり、お菓子をやめたりする方がよほど痩せるには効果的であることが分かります。
もう1つ、「炭水化物を控えるのが糖尿病予防には効果的」。こう言われると、うん、とうなずく人は多いのではないでしょうか? でも、実は日本人にとっての糖尿病の原因は、炭水化物の摂取ではなく、「脂肪の摂取増加」と「運動不足」。この2つがインスリンの効き目を悪くして、血糖値の減少を抑えるのです。
日本人はそもそもインスリンの分泌量が少ないので、炭水化物を控えると、必要な糖分が不足してしまい、健康には悪影響を及ぼします。したがって、糖尿病を予防する方法は「脂肪の少ない食事をして、運動をしましょう」が正解なのです。
このように、本書を読めば、よく耳にする健康法が、日本人にとって科学的にふさわしいのか、日本人にとって最適な健康法は何か、医学的な根拠とともに知ることができます。
医学用語はたくさん登場しますが、特に言葉の理解が無くても、読み進められます。さらに、全てを読む時間がない場合は、章末の要約を読むと、著者の提唱する健康法を簡単に網羅できるのが嬉しいところですね。
●遺伝学のホットな分野に触れられる
生物や科学に興味のある方にとっては、「エピジェネティクス」について触れられているのも知的好奇心を刺激するポイント。
エピジェネティクスは近年の遺伝学ではホットな用語です。病気になりやすい影響を与える遺伝子を持っていても、必ずしもその遺伝子が動作するわけではありません。食生活を含む生活習慣が、遺伝子のスイッチをオン・オフするのです。この仕組みを「エピジェネティクス」と言います。
とくにがんの発症には、エピジェネティクスが大きく関与していると本書でも繰り返し指摘されており、読むうちに、エピジェネティクスについて、自然と理解を深めることができます。遺伝子の仕組みに興味のある学生や社会人の方にもおすすめです。
●本書を読むもう1つの意味とは?
読者にとって本書を読む目的は、もちろん「日本人にとって最適な健康法を知ること」。でも、実はもう1つ大きな意味があると思います。それは「常識を疑う視点を養うこと」。
私たちは多くの人が正しいと言っていることを、疑いもせずに素直に受け取る傾向があるのではないでしょうか。言われていることに対して、根拠や理由を調べて明確にしたうえで意見の取捨選択をしてみる。読者にとって、本書を読むことがそういった視点を身に着ける第一歩になることを願います。
レビュアー
医学部卒の会社員。お気に入りの作家はカフカと中上健次。本の趣味は幅広く、ジャンルこだわらず何でも読む。好きなゲームはウィザードリィ。趣味は筋トレと最近再開した切手収集。