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2017.03.05

レビュー

今さら聞けない「海外ドラマ」の選び方──名作・新作の魅力まとめ

「ネットフリックス」「Hulu」「Amazonプライム・ビデオ」「dTV」「U-NEXT」など日本でも動画配信サービスが浸透し、これにケーブルテレビの普及を考えると実に多くの人が海外の(主にアメリカの)テレビドラマに接していると思います。

あふれかえっている海外ドラマ、番組表やお知らせ等を見ても一体どれを見たらいいか迷うことも多いでしょう。そんな人にうってつけなのがこの本、海外ドラマ視聴歴37年以上の池田さんが教えてくれる選び方、楽しみ方です。

海外ドラマに手を出すのをためらわせているものはなんでしょうか。
1.話数が多そうで、見るのに時間がかかる。
2.シーズンの終わりで物語が完結せず、カタルシスがない。
3.知らない俳優ばかり出演している。
4.作品がたくさんあり過ぎて、どれからみたらいいのか分からない。
このようなことが思い当たります。でも池田さんによれば「海外ドラマはまちがいなく、今が一番面白い」とのこと。ならばこの本を片手に豊かな海外ドラマの世界に分け入ってみてはどうでしょうか。

ドラマを選ぶとき肝心なのは「本国でどのチャンネルで放送されたか、どの動画配信サービスで配信されたか」を知っておくことだそうです。

アメリカには3大ネットワーク(NBC、CBS、ABCの3社、FOXを加えて4大ネットワークとも呼びます)とPBS(商業放送ではありません)という地上波ネットワークがあります。さらに第5のネットワークを目指すCWがあります。

ネットワーク以外でも数多くのケーブルテレビチャンネルがあります。ケーブルテレビチャンネルは「プレミアム系チャンネル」と「ベーシックチャンネル」があります。前者は「(ケーブルの基本料金では見られない)比較的高額の視聴料が必要なチャンネル」のことです。代表的なチャンネルとしてHBOとショータイム、シネマックス、スターズなど、後者ではFX、AMC、USAネットワーク、TNT、A&E、SyFy、BBCアメリカ、MTVなどがあります。

HBOは「ザ・ソプラノズ」や「セックス・アンド・ザ・シティ」などを製作、ショータイムは「レイ・ドノヴァン ザ・フィクサー」「ホームランド」「アフェア」を製作しました。日本でもヒットしたので題名を見て思い出す人も多いでしょう。どれもがヒットした傑作ドラマです。ケーブルテレビチャンネルはそれぞれの個性・特徴を感じさせるドラマを送り続けています。この本では、主要なケーブルテレビチャンネルと彼らが製作したヒットドラマが紹介されています。チャンネルの特徴を知ることで海外ドラマ見る楽しみが増えると思います。

ところでこの本の魅力は現在の海外ドラマを語っているだけではありません。海外ドラマの歴史やそれらが日本でどのように受け入れられたのかまで詳述したところにあります。

海外ドラマの放映は1950年代から始まりました。まだテレビがモノクロだったころです。日本の放送局の作品の少なさもあったのでしょう、多くのテレビドラマが放送されました。
──当時も現在もアメリカにおいて映像業界は「航空産業と並ぶ外貨獲得手段」といわれるほど重要な産業なのだが、やがて映画と同じようにフィルムを使ってTVドラマを収録する可能性が切り拓かれていく。当時はまだ、映像記録技術「ビデオ」が無く、さらにTVカメラが大きくて重たくて屋外での収録に向いていなかったという事情もあって、TVドラマの収録では映画のようにフィルムで撮影する手法が採用されていく。──

このフィルム使用がドラマの輸出にはプラスに働きました。
──フィルムで製作すれば国内での再放送が楽な上、アメリカから海外に輸出することも可能になった。日本のTV放送黎明期で海外ドラマは人気コンテンツになったが、フィルムで作られたからこそ、アメリカからたくさん輸入することができたのだ。──

池田さんによると日本では「家族揃って見て楽しめる」というのが大事な点だったそうです。確かにテレビ自体が「一家に一台あればかなり裕福な時代」でしたから、「誰が見ても楽しめる」作品でなければなりませんでした。こうして輸入されたドラマは次の3タイプに分けられるそうです。
1.勧善懲悪ドラマ:『スーパーマン』『名犬ラッシー』『名犬リンチンチン』等。
2.ホームドラマ:『アイ・ラブ・ルーシー』『パパは何でも知っている』『うちのママは世界一』等。
3.西部劇:『ガンスモーク』『ローン・レンジャー』『マーベリック』『ローハイド』『拳銃無宿』等。
これらのヒット作は後に映画化されたものもあります。

こうして輸入されたドラマは当時の日本人の生活に大きな影響を与えました。ホームドラマに描かれた生活は一種の憧れ、目標となりました。『名犬ラッシー』『名犬リンチンチン』等のヒットは「犬をペットとして飼う習慣自体まで日本全国で流行」させるまでの影響をもたらしたのです。「第一次海外ドラマ・ブーム」の到来です。

その後、日本でも「各映画会社はTVドラマの制作部門を持つようになり」、次第に海外ドラマの放映が減っていったのです。とはいっても『刑事コロンボ』『大草原の小さな家』『チャーリーズ・エンジェル』『ルーツ』等のヒット作がありました。

海外ドラマに新たなブームが来たのは'90年代になってからでした。レンタルビデオ(DVD)から火がついたのです。『V』『X-ファイル』のヒット、継いで『ツインピークス』『ビバリーヒルズ高校白書』等の放映があり、再び海外(アメリカ)ドラマが注目されるようになったのです(『フレンズ』『アリー my Love』『ER』もありました)。

そしてブームを決定つける作品が登場します。
──特に大ヒットしたのが『24』『LOST』『プリズンブレイク』『HEROES』という4作品だった。これら4作品は「海外ドラマ四天王」と呼ばれるようになり、さらに大きく注目を集めた。──

この4作品は裏話を含めて、この本でしっかり紹介されています。

こうして多チャンネルを迎えたことも追い風となって大量の海外ドラマが放送されることになりました。エンターテインメントの大海です。この大海を泳ぐには池田さんが作った「あなたが見るべき海外ドラママッチング表」が航海の案内役になるでしょう。取り上げられたのは7作品、池田さんが「海外ドラマ七福神」と名づけたものです。『ハウス・オブ・カード』『シャーロック』『ファーゴ』『ブレイキング・バッド』『ホームランド』『ウォーキング・デッド』『ゲーム・オブ・スローンズ』の7作品、どれも傑作と呼ばれるものです。(『ハウス・オブ・カード』は「手段を選ばず国政の頂点をめざす」男の物語でオバマ前大統領がファンだったということもあり日米で大ヒットとなりました。安倍首相もファンだそうですが)

ともあれ池田さんのお薦めの見方、「海外ドラマは、まずは片っ端から第1話を見てみるのが最良」を信じてこの本を片手に楽しんでみましょう。

池田さんの挙げる現在の海外ドラマの魅力をおさらいすると……、
1.作品のスケールが映画に匹敵するようになった。
2.ジャンルが、やはり映画のように多彩になった。
3.大人の感性に訴える、斬新で過激な表現が可能になった。
4.一流の才能が結集するようになった。
5.新作も旧作も多様化した手段で見られるようになった。

後はTVのスイッチを入れるだけです。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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