“品格”という言葉がこの人ほど似合っている人はいません。この本は女性報道写真家第1号といわれている笹本さんの日々の振る舞い方・暮らし方のエッセンスを綴ったエッセイです。
101歳を超えて現役の写真家の笹本さんには幸福を感じるための5つの生活の秘訣があるそうです。
1.“温かい”家でくらす
2.ちゃんと食べる、ちゃんと歩く
3.身だしなみに手を抜かない
4.年齢を悟られずに生きる
5.読む・書く・仕事&恋する!
これらが「ひとりで楽しく暮らす」秘訣です。難しいことは書かれていません。ただただきちんと実行すればいい、そうすればOK……とはいってもこれらを守り続けることは意外と大変です。
──わたくしは三食を自分で作ります。食いしん坊だから、好きなものを食べたいし。それに出来合いのお総菜は、化学調味料で味がつけられているものが多いでしょう? 舌触りは良いのですが、食後に上あごと舌が変になるのは……私だけかしら? 栄養やカロリーを計算したり、塩分や油分を極端に減らしたりはしません。自分の好きなものをいただく、本当にワガママな食卓なのです。──
「ワガママ」な食事! それなら自分にもすぐできるし、あれはだめ、これは減らしてなどと考えるストレスがなくていい!というのは早計です。この背景には2つの心がけがあるからです。
1.“腹八分目”にする
2.“いつ、誰に見られても恥ずかしくない食卓”にする
1はさておき、2は結構大変です。「恥ずかしくない」という中に、その人の精神、生き方、美学……それらすべてが詰まっているからです。
──肉にサラダを彩りよく添える。旬の野菜や果物で季節感を出す。器やテーブルクロスの配色を考える……。つまり、ひとりでもちょっぴり気を遣うのです。そうすると、自然に栄養のバランスもとれるようです。──
三食を自分で作るとなると、ついついこんなものでいいかな……となりがちですが、それでは自分への甘えになってしまいます。肝心なのは“誰に見られても恥ずかしくない”ということ。「ちょっぴり」の積み重ねは結構大変です。
食卓を前にして1杯の赤ワインを楽しむというのが笹本さんの食事スタイル。
──「ああ今日も一日が終わった」と仕事や“気に病み事”から解放されて、「さぁ、おいしくいただきましょう」と楽しい夕食の時間が始まる合図。──
食事が文化であるとするなら、ここに笹本さんの文化(=生活スタイル)の基本があらわれています。
“誰に見られても恥ずかしくない”
これが笹本さんの基本的な心構えです。“誰も見ていないから”という言い訳でちょっと楽をする、ちょっと手を抜く、気にしない、ということが自分の生活の形・姿勢を悪くしていしまうのです。
「身だしなみに手を抜かない」のも“恥ずかしくない”に通じます。笹本さんは自身でも服を手作りするそうですが、どのような服を作っているのか、この本ではかわいらしいイラストで紹介されています。「ファッションは一生の楽しみ」という心がとてもよく分かる楽しそうな1節です。安い服でも「合わせる服や小物でコーディネート」を考えればいいのです。要は“センス”ということです。
──自分がよく見える着こなしのルールを見つけたら、頑固にそれを守ればいいと思う。そのルールの中で遊ぶのです。流行だからとすぐに飛びつくのではなくて、自分のこだわりを持つことが、あなたを素敵に見せてくれますよ。──
笹本さんが大事にしている言葉がもうひとつ、ここに出てきました。それは「素敵」という言葉です。これも5つの秘訣すべてに流れているものです。
さらに「素敵」という言葉について笹本さんがこのようなことを書いています。“おしゃれ”という言葉について触れたところ1節で……。
──昔は他人から「おしゃれですね」と言われると、ちょっとムッとしたものです。「あいつはおしゃれなやつだ」と男同士で言うときなどは、ちょっと馬鹿にしているというか、一種の蔑(さげす)みとやっかみの混じったようなニュアンスでした。決して、誉(ほ)め言葉ではないのです。むしろ「おしゃれですね」は失礼なのです。
それなのに昨今は、テレビのアナウンサーが「あら、おしゃれですね」。スタイリストやテーブルコーディネーターが、「ちょっとおしゃれにここにおきましょう」。おかしい、あれは。「素敵」って言えばいいでしょう。「あら、素敵ですね」で良いではないですか。──
この振る舞い(=気持ち)こそが「素敵」そのものです。この「素敵」を実践するには「たえず“緊張”と“努力”が必要」です。さらに「鏡の前に立つときだけでなく、いつなんどき、誰に見られてもいい自分でいよう──という“緊張感”」があればエイジレスで生きられます。必要なのは「自分を甘やかさない」こと。
笹本さんが心がけているのは「素敵」に生きるということにつきるのでしょう。
「ちょっとした彩りや配慮などの演出で、人生はバラ色になるのですね」
そのために心がけるヒントが溢れている本です。行間から感じる笹本さんの生きてきた過程、出会いと別離、それを超えて伝わってくる強さ、まさしく“疾風に勁草を知る”という言葉のようなたずまいです。生きるヒントがここにあります。それにユーモアも……。
「毎日を楽しく素敵にバラ色に過ごして、枯れ木ではなく、美しいドライフラワーになれるように」
脱帽です!
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
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