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2017.01.21

レビュー

虚構を信じ込ませ、恐怖を無限に産む──「ホラー大賞」悪夢の筆力!

著者の澤村伊智(さわむら・いち)さんは、1979年生まれ。2015年に『ぼぎわんが、来る』で第22回日本ホラー小説大賞の「大賞」を受賞し、デビュー。応募時のタイトルは『ぼぎわん』、筆名は澤村電磁(でんじ)でした。

本書に登場する香川隼樹(かがわ・はやき)も、澤村電磁の筆名で、『ぼぎわん』を日本ホラー小説大賞に応募します。そして見事、「大賞」を受賞。作者名を澤村伊智に、タイトルを『ぼぎわんが、来る』に変えてデビューします。

そう、著者のプロフィールとまったく同じなのです(以後、混同を避けるために、著者を澤村さん、作中人物を香川で表記)。

香川は、澤村さんの本名なのでしょうか。それともオリジナルキャラ? 
 
何が本当で、どこからが創作なのか、虚構と現実を分かつ境界線の曖昧さが、『恐怖小説 キリカ』が持つ普遍的な怖さです。

受賞後、香川は担当編集者と打ち合わせをするのですが、この描写はおそらく澤村さんご自身の体験をリアルに描いたものでしょう。

作中の授賞式では、選考委員のひとりが、ずいぶん素っ気ない。これは本当にあった出来事なのでしょうか。事実だとしたら、これはこれでホラーなのでは……。
 
その選考委員の方は、日本ホラー小説大賞の選評で『ぼぎわん』を絶賛しています。澤村さんへの期待も寄せているので、まず間違いなく創作だと思われますが。

では、香川の妻、霧香(きりか)はどうでしょう。
 
香川には離婚歴があります。霧香は「後妻」。香川と霧香は相思相愛なのですが、受賞をきっかけに、ふたりに危険が迫ります。

香川の友人、梶山(かじやま)主宰の「小説書くぞ会」。そこに、副島勇治(そえじま・ゆうじ)という、香川と同い年のメンバーがいます。副島には小説家に対して持論がありました。彼にとって小説家とは、不幸でなければならない。副島は、傲慢で自惚れ屋でもある。

──才能のある人を見る目は確かです。才能ある人の心を理解することもできます。そして共感することも──

──俺がお前をプロデュースしたんだ。凡人でしかない俺が、一人の作家を育て上げたんだよ──

自分には、才能のある人を見抜く目がある。そこまではわかる気がします。わからないのは、「才能ある人の心を理解する」のくだり。ここが副島という人物の異常性をはっきりと表している箇所で、彼の本性がさりげないひと言に表れている。「俺がお前をプロデュースしたんだ」と言いきってしまうあたりは、完全に常軌を逸しています。

香川が「再婚」しているとわかった途端、副島はおもわず激昂しました。作家は不幸であるべきなのに、再婚などして、幸せな夫婦生活など送っていたらダメなのです。副島の理屈にしたがえば「お前、作家になれないぞ、今のままじゃ」ということになる。
 
散々罵倒された香川は、たまったものではありませんが、彼をプロデュースしたつもりの副島も必死です。香川を不幸にするべく嫌がらせを始めます。

中傷ビラに、無言電話……もちろん、これらだけでは終わりません。副島にとって、一番邪魔なのは、霧香です。霧香がいなくなれば、香川は不幸になる。副島が霧香に危害を加えようとするのは、彼の思想にしたがえば当然なのでしょう。

その結果は──。

むろん衝撃的な展開が待ち受けています。さらに言うなら、想像を絶するのは、そこから先です。

「虚」を「本当」と信じ込ませてしまう、澤村さんの創作技術。そのテクニックによって作り出される恐怖の数々。本書を最後まで読み終えたとき、驚愕と同時に、著者の構成の妙に感嘆がとまらなくなるはずです。──澤村伊智さん、恐るべし、でした。



⇒『恐怖小説 キリカ』特集ページはこちらから

レビュアー

赤星秀一

1983年夏生まれ。小説家志望。レビュアー。ブログでもときどき書評など書いています。現在、文筆の活動範囲を広げようかと思案中。テレビ観戦がメインですが、サッカーが好き。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。

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