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2017.01.13

インタビュー

西加奈子『舞台』の魅力──大好きなニューヨークの細部が宿る、人気長編

『サラバ!』で第152回直木賞、第12回本屋大賞2位を獲得、今注目を集める西加奈子さん。人気作『舞台』の文庫化を記念して、作品について語っていただきました。

◆ニューヨークを舞台に小説を書こうと思われたのはなぜですか?

もともとニューヨークが大好きで個人的に10回くらい行っていたんです。以前は海外で1人で行ける唯一の街でした。ニューヨークの小説や音楽、映画が好きだったので、行くたびにすごくテンションがあがってしまって、普段やらないことをついしてしまう。ニューヨーカーっぽく振る舞ってしまうんです。それで帰りの飛行機で、うわ恥ずかしい!という感覚に襲われるんですが、その感覚が面白いな、と思ったのが最初のきっかけです。

 

◆西さんが初めてニューヨークに行ったときの印象は?

葉太と同じ29歳くらいで、初めて行きました。驚きもいろいろありました。お酒を飲めない店があるとか。でも憧れがあったので、ここはあのPVに出ていた場所だとか、知っている場所を実際に見るのが嬉しくて。あまりにも思い描いていた通りすぎて笑ってしまいましたね。街があまりにニューヨークすぎて、笑いが止まらなかったです。

 

◆『舞台』の取材として改めて行った際の発見はありましたか?

1ドル以下のピザや、書店にある冷水器を発見したり、ゴミ箱にどんなゴミが捨ててあるか確認したり、普段見ないところを見ていましたね。でも冒頭に出てくるまずいダイナーは、最初の旅行のときに実際に行ったお店です。いかにもアメリカン・ダイナーという雰囲気の店でしたが、食べたらまずくてびっくりしました。

 

◆葉太は「地球の歩き方」を読み込んで出かけますが、西さんも初めての場所へ行くときはガイドブックを読み込むタイプですか?

めちゃくちゃ読み込みます。ニューヨークは今はぜんぜん危なくないとわかったのでガイドブックを広げながらでも歩けるのですが、初めてのときは観光客と知られたら絶対まずいと思っていたので、地図もちぎって持ち歩いていました。

 

◆盗難に遭ったのに、自分の失敗を人に知られたくない、と思うことから葉太の困難が始まりますが、西さんご自身にも葉太くんのような部分がありますか?

けっこう反射神経があるので盗難に遭ったら私は思わず叫んでしまうと思うんですけど、たとえばニューヨークでコーヒーが飲みたくなって、コーヒーショップに入って並んでいたときに、見ていても注文のシステムがわからなくて出てきてしまったことがあるんです。聞けばいいのに、聞いても英語通じないだろうな、と心が折れてしまって。それは葉太くんももっている部分ですよね。

あとは昔、友達のバイクの後ろに乗せてもらってバイクのマフラーが熱いって知らなくて、足をやけどしてしまったことがあるんです。今も痕が残っているくらいのやけどだったんですが、その場の楽しさを壊したくなかったし、乗せてくれた人にも気を遣って、そのときはぜんぜん言い出せなかったですね。だから葉太の気持ちもわかります。彼のことは面白くて笑いながら書いたけれど、好意的に笑うことはできても、さげすむ笑いはできないですね。

 

◆作中で葉太が大切に持っていく本の名前が、本書と同じく『舞台』。このタイトルに込めた意味は?

本のタイトルと葉太の持っている本を同じ『舞台』にしたのはメタっぽい感じを楽しみたくて。あとはたとえばプロレスのように、みんなでその場のルールに応じて、ボケ合う、演じ合う、それをみんなで楽しむというのが私はすごく好きで、そういう「場」を指すような意味もあります。

 

◆装画も西さんによる、鮮やかなニューヨークの街の風景ですが、この絵の構想はいつごろから?

小説が書き上がってからですね。装丁のデザイナー、鈴木成一さんと打ち合わせをして、タイムズスクエアのうそっぽい感じを描きたいと言ったらそれでいきましょうと。ちょっと不気味で、どこか面白い街の感じを描きたくて、空なども書割っぽく、「舞台」感を出すように描きました。

 

◆絵はどのくらいの期間で描くのでしょうか。

けっこう早いんです。1週間もかからないです。

 

◆西さんにとって『舞台』はどんな作品ですか?

これまでは、『ふくわらい』とか『漁港の肉子ちゃん』とか、社会とうまくやっていけない、心身ともに傷だらけの人を描いてきた作品が多かったんですね。今回はそうじゃなくて、うまくやっているように見えるけど、できていない人というのがいると感じて書いた作品なので、それを描けたのはすごく自信になりましたね。

あとは9.11について、これだけの年月が経って、やっと書くことができた作品でもあります。ニューヨークに行くたびに自分がどう思っていいかわからなくて、葉太くんのように自分が責められている気もしていたし、でもその気持ちと、死者を悼む気持ちはまったく矛盾しないと今回、書いて思いました。

 

◆読者へのメッセージをいただければ。

どんなにうまくやっているように見える人でも、苦しんでいるひとはすべて救われるべきだと思ってこの本を書きました。自分の中にある葉太くんみたいな部分も否定せず、自分が生きていること自体が、「ありのまま」なんだと伝われば嬉しいですね。

 

作者プロフィール

西加奈子

西加奈子(にし・かなこ)

作家。1977年テヘラン生まれ。カイロ・大阪育ち。2004年『あおい』でデビュー。2007年に『通天閣』で織田作之助賞、2013年に『ふくわらい』で河合隼雄物語賞、2015年に『サラバ!』で直木三十五賞を受賞。ほかの著書に『さくら』『きいろいぞう』『円卓』『漁港の肉子ちゃん』『ふる』『まく子』、絵本に『きいろいソウ』『めだまとやぎ』『きみはうみ』など多数。

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