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2016.12.26

レビュー

明らかに「感じが悪い」のに、素敵に見られる人もいる。自分はどうか?

“感じの悪さ”というものは始末に悪いものです。“印象的なもの”であるにもかかわらず相手と自分の力関係が大きく関係するからです。
──感じが良いか悪いかは、その人の性格云々で決まるわけではなく、人間同士が出会う社会的な状況に大きく影響されてしまうのだ。このことから、私たちは、常に感じが悪い人だと他人から思われるリスクを背負って生きているともいえるだろう。──

幾分か“ハラスメント”のありようと似ています。“ハラスメント”と明らかに異なるのは“感じは悪いけどスゴイ人がいる”ことがあるということでしょうか。

この“感じの悪さ”というものはどこからくるのでしょうか。

それをつかむために、松下さんはまずコミュニケーションのあり方を「F型コミュニケーション(Friend型:仲良くなるためのコミュニケーション)」と「C型コミュニケーション(Confront型:対立して説得するためのコミュニケーション)」とふたつに大別します。さらにまたその人が置かれた社会的状況を「接近:仲良くする状況」と「回避:対立する状況」のふたつに大別します。

すると4つの組み合わせができます。(詳細は本書に図示されています)
「接近」の社会的状況では「F型」は「感じが良く」、「C型」は「感じが悪くなる」ようになります。
「回避」の社会的状況では「F型」が「感じが悪く」、「C型」は「コミュニケーション能力を開発すれば、むしろ感じが良く」なると考えられます。

この時気をつけなければならないのは次のことです。
「F型コミュニケーションを信奉する人たちは、親しくなれば対立なし」と考えてしまいがちです。ですが、状況が「回避:対立する状況」の場合はこのF型コミュニケーションではかえって「感じの悪さ」を生んでしまうことになるということです。頼りなさ、不信感を生むことがあるからです。

この布置から「感じの悪さ」を生む7つの法則が導き出されます。中心となるのはC型コミュニケーションを取っている場合です。このコミュニケーションスタイルが「感じの悪さ」を引き出しやすいのは想像に難くないと思います。

次のような時に「感じの悪さ」は生まれます。
1.置かれた社会的な状況とコミュニケーションスタイルの組み合わせを間違えた場合。
2.適切な自己開示をしなかったり、自分の本当の意図を隠したまま、偽の意図を相手に伝えたとき。
3.対立した社会的状況(=「回避」)では共通する目標や経験など、対話の土台を作る努力しないと、感じが悪くなる。
4.対立する社会的状況で譲歩や屈服を相手に強要した場合。
5.対立する社会的状況では双方が嘘をつけない仕組みを作っておかないと感じが悪くなる。
6.対立する社会的状況で共感することを忘れた場合。
7.社会的状況に関係なく、人間の価値はその肩書で決まると思っている場合。

この7つの原則を踏まえてコミュニケーションをはかること、そうすれば「感じの悪さ」は間違いなく避けやすくなります。さらに「コミュニケーション能力を開発すれば、むしろ感じが良く」なるほうへとC型コミュニケーションは進んでいけるのです。
──C型コミュニケーションの達人たちは、相手が譲歩したり、屈服したりするまで辛抱強く、感じの悪さの七つの法則に抵触しないように慎重に交渉を進める。相手が譲歩したり、屈服しても、相手にそのことを感じさせないように、共通の目標を設定するなどの配慮を欠かさない。ここで二つのキーワードが登場する。「時間をかける」と「辛抱強く」である。──
コミュニケーション能力とは、煎じ詰めれば「時間をかける」と「辛抱強く」ということにつきます。

この「時間をかける」と「辛抱強く」がない議論(?)の惨憺たるさまは、残念なことに今の日本の国会のありようがよく教えています。C型の「感じの悪い」例そのままです。
──C型コミュニケーションの達人は、辛抱心が強い人なのだ。辛抱ができない人は、安易な解決方法を取ろうとして、相手を脅迫したり、自分の有利な立場を利用して譲歩や屈服を一方的に強要し(略)──
ということになっているのです。

この「辛抱心」を身につけるにはどうすればいいのでしょうか。近道はありません。どんな状況になっても「もっと良い方法があるはずだ」と考え続けてコミュニケーションをとり続けることしかありません。「時間をかける」ことを軽んじてはいけません。相手へのコミットメント能力を高めていくことです。
──コミットメントをする人は、困難な状況でも、なんとか目標を達成しようと努力をするので、環境変化に適応するためのノウハウを身に付けることができる。──

こうしてC型は「コミュニケーション能力を開発して、むしろ感じが良く」思えるコミュニケーションを作ることができるのです。松下さんはこれを「SYA(See You Again)コミュニケーション」と呼んでいます。

7つの法則に注意してどのようにSYAをつくれるのか、キャリア・コンサルタントの経験で見た豊富な例を引きながらじっくりと解説しているのがこの本です。自分のコミュニケーション・スタイルを思い返しながら読むとても実践的なものです。

ところで、この本にはもうひとつ隠し味のように思える素晴らしい考察があります。私たちには「常に感じが悪い人だと他人から思われるリスク」があるということです。そしてそれ避けるために“他者(=世間、空気)”へ迎合し、思ってもみなかった行為を自分がしてしまうことがあります。状況次第では悪であることがらでも加担してしまいます。

「普通の人の中に悪をもたらすものがある」ということです。これを避けることはできるのでしょうか……。詳細は本書を読んできいただきたいのですが「悪に引き込まれないための6つの対処法」が記されています。
1.自分の考え、行動が世の中の人々にどのような影響を与えるのかをシミュレートする。
2.「知らなかった」ということは免罪符にはならない。
3.「自分はあのような行為には反対だといった」という事実は免罪符にならない。行動する以外に免罪符はない。
4.人間の生命や尊厳をよりいっそう尊重する思考習慣を身に付ける。
5.チームワークを大切にすべきだが、自分の価値判断や思考の独自性を守ること。
6.自分が間違いを犯す人間であると認め、自分の間違いを素直に認める努力をする。

ナチスの残虐性、非人間的な心理実験(スタンフォード監獄実験)の考察から導き出されたこの対処法は極めて実践的なものだと思います。

ポジション・パワーが持つ残酷さ、権力がもたらす迎合性を含めて「権力の魔力」の恐ろしさと、それが身近に、普通に起こりうるという認識がここにはあります。その上でのコミュニケーションへの問いかけがこの本の隠された魅力になっていると思います。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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