『X-01』は、講談社のヤングアダルト向けレーベル「YA! ENTERTAINMENT(ワイエー! エンターテインメント)」から今年の9月に刊行された、あさのあつこさんの新作小説です。あさのさんの『NO.6』シリーズも「YA! ENTERTAINMENT」から刊行されているため、同作のファンにはお馴染みのレーベルかもしれません。
その『X-01』ですが、タイトルの末尾に「壱(いち)」とあるように、壮大な物語の序章、シリーズ作品の1巻目に当たるようです。したがって、最後は「つづく」の3文字で終わっています。
僕は、この「つづく」の3文字が憎たらしくて仕方ありませんでした(笑)。未読の方に断っておくと、とにかく続きが気になります。僕の場合は続刊が読みたくて身悶えしたほどでした(誇張ではない)。
その『X-01』の主人公は、ふたりの少女です。
ラタは、中原の小国・永依(えい)の戦士で、敵からは『漆黒の鬼神』と呼ばれ恐れられています。そもそもラタという名前も、永依の国の神話に登場する破壊神の名前です。彼女は幼い頃に隻眼の将軍クシカに拾われ、彼の養子になるのですが、女ではなく、男として、戦士として育てられました。一途なまでに強さを追い求めるラタは、初陣のときから──いや初めてクシカに剣を渡されたときから、めっぽう強かった。
男勝りで、とげとげしく、近寄りがたい印象の少女。しかしだからこそ『漆黒の鬼神』の異名が似合う。それは彼女のパーソナリティを構築する重要な要素のひとつです。ラタ以外の登場人物たちも、むろん魅力的です。ラタの幼馴染みの美少年軍師、リャクラン。リャクランとは、毒草の名前だそうです。毒草はしかし、使い方によっては薬草にもなります。リャクラン自身、この1巻の段階では、ラタにとって毒なのか、それとも薬なのか判然としません(一応、友人のようですが)。
そのリャクランの父でクシカ将軍に仕えるシュロイ・ハマは、未来を見る魔眼の持ち主。ハマは幼い頃のラタを見て、こんなことを言います。
「血が見えました。しかも、夥(おびただ)しい量の」
ハマ自身、なぜそんなものが見えたのか説明がつきません……。やがてラタは成長し、たしかに戦場を夥しい量の血液で染め上げます。が、はたしてハマの予言がそのことを示していたのかというと、1巻の時点では謎です。そうかもしないし、そうではないかもしれない。いずれにしても、物々しいふたつ名、剣と将軍、個性的で妖しげな登場人物たち。これらだけなら、異世界が舞台の中世風ファンタジーです。しかし、もうひとりの主人公、溝口由宇(みぞぐち・ゆう)のパートがラタのそれと交互に描かれることで、『X-01』が安直にジャンル分けできる小説ではないことに気づかされます。
由宇は、N県稗南(ひなん)郡稗南町で暮らす中学生の女の子。同じ小学校出身の幼馴染みたちと、田舎の町で平穏無事に暮らしていました。しかし15歳の誕生日の前日に、元大学教授の父が、謎の言葉を残して急死してしまいます。その謎の言葉というのが、「X-01」。
物語が進むにしたがい、由宇の日常は劇的に変化してゆきます。その変化は、おそらく由宇だけでなく、読者の予測も軽く飛び越えてしまうものです。
ラタのパートが中世風ファンタジーなら、由宇のパートはさしずめミステリ、サスペンス色が濃厚なのですが、最終盤にて登場する武器の名前を読んで、僕の頭は一瞬、思考停止状態に。うん? うーん……。えっ、そうなん? あれ、ということは、つまり……実際、こんな感じでした(笑)。
その武器がどんなものなのかは、ここに書くと読書の楽しみを奪うことになりかねないので、伏せておきます。とにかく、それまで自分が信じてきたものを疑いました。死角から飛んできた拳に殴られた感覚。もちろん本当に殴られたら、僕はブチ切れて殴り返しますが、読書の場合はまた別です。計算し尽くした不意打ちは、驚きと喜びに変化します。『X-01』に至っては、それに加えて、ますます今後の展開に期待させられます。
安易な予測を拒絶するようなラストでした。
だからこそ、月並みな表現ですが、続きが気になって仕方ありません。次はいつ出るんだろう……。未来が見える魔眼の持ち主、シュロイ・ハマに、ぜひとも次巻の刊行日を教えていただきたいものです。
レビュアー
1983年夏生まれ。小説家志望。レビュアー。ブログでもときどき書評など書いています。現在、文筆の活動範囲を広げようかと思案中。テレビ観戦がメインですが、サッカーが好き。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。