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2016.10.22

インタビュー

BE-BOPから最高の小説へ。エンタメの鬼才・木内一裕が止まらない!

小説家・木内一裕はかつてBE-BOP-HIGHSCHOOL』で一世を風靡した漫画家「きうちかずひろ」だということをご存知でしょうか?

デビューから既に10年以上。一癖も二癖もある魅力的なアウトローたちが登場する痛快なエンターテインメント小説の名手として、着実にファンを増やしてきました。

そんな木内一裕の代表作のひとつであり木内版「謎解きミステリー」といえる傑作、『バードドッグ』が文庫化、さらに新境地にして集大成と言える最新作の『嘘ですけど、なにか?』が発売になりました。

この2作品それぞれの魅力、作者自身が登場人物に惚れ込んだポイント、そして作品の裏に隠された小説家としての挑戦について、木内一裕自身の言葉で語っていただきましょう。


科学捜査の時代に謎解きミステリーを成立させるアクロバティックな設定。『バードドッグ

──『アウト&アウト』の続編となる、元やくざの探偵・矢能の物語です。小学生の栞が電話番をする探偵事務所に、久しぶりに仕事の電話が入ります。日本最大のやくざ組織・菱口組系の三次団体、佐村組の組長が姿を消した。敵対する国吉会との抗争か、それとも身内の犯行か? 佐村探しの依頼を受けた矢能は、調査を開始します。

木内 『アウト&アウト』で書いた矢能と栞の「その後」を描きたいという気持ちがあった一方で、今までちゃんとやったことのなかった「謎解きミステリー」をやってみたいという気持ちがあったんです。「犯人が分からないまま進んでいく物語」をやってみたかった。それを普通に警察ものとしてやると、防犯ビデオに映っていたとか、指紋がどうとかDNA鑑定でどうという、科学捜査の話になってしまうんですよね。古典的な謎解きミステリーをやるためには、警察が一切介入しない状況にしなければいけない。そう思った時に、「うちの事務所の所属タレントの中に、元やくざの探偵がいるじゃん」みたいな感じだったんです(笑)。やくざ組織の内部で起きた、叩けば埃が出るような事件を、サツに届けることはできない。死体は出ても、科学捜査は一切できない。お前が自分で調べろ、と。

たった一人の探偵が、己の才覚だけで犯人に辿り着けるものなのかという、今どきなかなか書けない話だとは思います(笑)。しかも、容疑者は全部やくざ。アリバイは誰も証明できないけど、動機は全員ある。

──矢能は、実は名探偵だということが判明します。本人は「俺はそこまで名探偵じゃない」とうそぶくんですが。その台詞が出てくるシーンは、爽快と最悪が背中合わせになっていて、この感覚は、木内作品でしか味わえないと思いました(笑)。

木内 やっぱり矢能だから、「犯人を見つけました」で終わりじゃあ、らしくないなと思ったんですよ。候補がだいぶ絞られてきて、「犯人はどっちなんですか?」と聞かれたところで、「どっちにしようかな」と言う(笑)。そこから先の展開を読んでもらえれば、矢能らしいなぁと感じていただけると思います。


木内作品の新境地にして集大成。最新作『嘘ですけど、なにか?

──10作目にして最新作の『嘘ですけど、なにか?』。文芸編集者の水嶋亜希は、32歳独身、彼氏なし。成宮[*1]の血をちょっと継いでいて、舌がよく回り噓がうまい。でも、彼女には成宮との大きな違いがあります。〈わたしのウソは相手をつかの間ハッピーにさせる〉。それに続けて、〈わたしほど誠実な人間がどこにいるっていうの?〉」。まずは痛快ヒロインの誕生秘話を教えていただけますでしょうか。

*1: 木内作品の『デッドボール』に登場する登場人物。巧みな嘘でシビアな状況を切り抜ける。

木内 10作目ということもあり、今までで一番大きなチャレンジをしてみたかったんです。はっきり言って、50代も半ばを過ぎたオッサンが若い女性を主人公に小説を書くというのは、かなり危険な賭けだと思うんです(笑)。実は以前、女性を主人公にして書いてみようかと考えたこともあったんですが、うまくいかずにお蔵入りさせています。9作書き上げた今ならば書けるんじゃないか、今度こそ、というリベンジの気持ちもあったんですよね。

誤算だったのは、当初は悲劇のヒロインにするつもりだったんです。プロットを作った時の仮タイトルも、「カサンドラ」。自分の言葉が誰にも信じてもらえなくなる呪いをかけられた、ギリシャ神話の登場人物の名前です。その悲劇をヒロインに重ね合わせていこうと思っていざ書き出してみたら、水嶋亜希は、めちゃくちゃ口が達者だったんですよ。

──自分が生み出し、自分が書いているキャラクターにもかかわらず、そんな驚きが(笑)。

木内 〈ふざけるな!/水嶋亜希は、口から飛び出しそうな言葉をかろうじて飲み込んだ。/「申しわけありませんでした」〉という冒頭のシーンを書き出してみたら、この人はなんで怒っているんだろうと興味が湧いてきたんですね。そこを探りながら続きを書いてみたら、「新刊のカバーにお気に入りのキャバ嬢の写真を使いたい」という担当作家のバカな提案を、口からでまかせで丸め込む姿が浮かんだんです。その姿が、痛快だったんですよ。

ちょっと鮮やかに解決しすぎたかなと思ってもう1件、出版界にありがちな映画化トラブルを吹っかけてみたら、担当作家に「あの監督と関わらなくて良かったですよ、あいつ覚醒剤やってるらしいですよ」と大ウソをついた(笑)。その姿がまたパッと頭に浮かんだので、その方向で彼女の魅力を伸ばしていくしかないよなと思ったんです。にっちもさっちもいかないところまで追い詰められていく悲劇のヒロインだったはずが、言葉を武器にしてばったばったと困難な状況を引っ繰り返していく。その方向で、プロットを修正していきました。

──ウソ2連発で作家を丸め込んだ水嶋亜希はその後、祝杯をあげるため一人で繰り出した夜の街で、外務官僚の名刺を持つ待田隆介と出会います。恋物語が始まるかと思いきや、新幹線でテロが起こり、国家規模の陰謀に巻き込まれて……絶体絶命の状況と逆転劇が次々に連鎖していきます。

木内 主人公は口が達者とはいえ普通の女の人ですから、権力を持つ人間にとってはひと捻り……と思っていたら、全然そうなっていかない。これは『アウト&アウト』や『デッドボール』、『神様の贈り物』や『喧嘩猿』といった作品でも繰り返し書いてきたことなんですが、「見くびっていた相手がすごかった」という話をやりたいんですよ。「なめていたらとんでもないしっぺ返しを食らう」という流れが好きなんです。

──その痛快さはまさに、木内作品の醍醐味です。その意味で本作は、新境地でありつつ、集大成でもあると思います。木内さん自身も、手応えを感じているのではないですか?

木内 ハラハラドキドキする展開だとか、従来のアウトローの路線も踏まえつつ、それを笑えるように仕上げたというところに手応えがあるんですよ。水嶋亜希のおかげですね。深刻な事態が進んでいるにもかかわらず、彼女のおかげでコミカルな感じになっていったんです。僕はもともと『BE-BOP-HIGHSCHOOL』を描いていたお笑い系の漫画家なので、得意分野ではあるんですよ。笑いの要素って今までの作品でも多少ちりばめてはいたんですが、ここで一気に解禁された感じがあります。この本は僕にとっては10冊目ですが、僕の本をまだ読んだことのない方にとって入口の1冊目にしていただくのはオススメかもしれないです。

聞き手&まとめ:吉田大助


木内一裕(きうち・かずひろ) 

1960年福岡生まれ。1983年『BE-BOP-HIGHSCHOOL』で漫画家デビュー。2004年、初の小説『藁の楯』を上梓。同書は'13年に映画化もされた。他の著書に『水の中の犬』『キッド』『デッドボール』『神様の贈り物』『喧嘩猿』『バードドッグ』(すべて講談社文庫)、『不愉快犯』(講談社)がある。最新刊は『嘘ですけど、なにか?』(講談社)。


不愉快犯

著 : 木内 一裕

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